キラキラ×パラダイス

なんかもう単純に、海ではしゃぐ二人。

「最近さ、疲れるんだ」

真っ青なブルーハワイのカキ氷をもてあまして、月本が呟く。
星野はふぅん、と素っ気無い返事だ。

「人間関係も複雑だし、卓球だって…もっと単純でいいのに」

溶けかかったカキ氷のカップには、大粒の水滴。
暫く前から月本は格闘を諦めたことが伺えた。

「そんな時はパァっと遊ぶべきでしょ？デショ？」

赤いイチゴのカキ氷をかき込んで、月本のブルーハワイにも当然の如く手を伸ばす。
いいよ、全部食べて。呟いて月本は其れを押し遣った。

「スマイルは疲れるって云うけどさ、オイラは一緒に居て楽しいと思ってるんよ？」

真っ赤だった舌がみるみる青く染まってゆく。

「伝わってない？この気持ち」

さっきと同じように、ブルーハワイをかき込んで、真っ直ぐな星野の言葉が月本を貫く。

――鳴呼、そうだ。君と居れば何処だって楽しい。
楽しいから、こうして嫌いな海水浴にだって出てきてるんだ。

「うっし！
　また一泳ぎすっぞ！」

海の家の壁に立てかけた、大きな浮き輪を掴んで星野が振り向く。

「ホレ」

差し出された右手は、迷子にならないためのもので、其れ以上の意味は無い。

「…平気だよ、着いてく」

淡い青のパーカーの袖を引っ張って答えたら、

「オイラが繋ぎたいのっ」

そう、左手を奪われた。


今日の海は地元じゃないから。
だからきっと、ちょっとだけ開放的な気分になれる。

「わ、待って、急に走らない…！」

縺れそうになる足を何とか踏み出して、

「きょ～～そ～～～！」

繋いだ手を掲げて波打ち際まで。


「な、単純で楽しいだろ？」


向かい合わせに浮き輪に捕まって、何となく波に揺られて。
至近距離で破顔する星野の笑顔は、月本以外に誰も知らない。

頬が赤くなったのがバレたくなかったから、
おでこをコツンとぶつけて、痛いよ、そう、笑って誤魔化した。


二人の夏は、まだ、始まったばかり。



*FIN*