milk with sugar so...basic!

お題『スプーン一杯分の幸せ』

運ばれたココアに、山盛りの砂糖を3杯。それをぐるぐるかき回してスプーンを置くと、子供のように両手でカップを包み込む。まだ、熱い其れをふぅふぅと息を吹きかけてから、ゆっくりと口へと運んだ。喉仏か上下して、一口飲んだのが分かる。唇を離して、幸せそうにペコは微笑んだ。

「やっぱココアは森永だな！」

「…それ、ヴァンホーテンだけど」

即座に、そして冷静に突っ込むスマイルは制服にエプロンと云った出で立ちで、此処はスマイルの家だった。
コンビニを出て30秒歩いたところで急にペコが「ココア飲みたい」と言い出し、またコンビニに戻るのも面倒だったから家で振舞うことにしたのだ。

あまり沸騰させないように牛乳を沸かして、スプーンで2杯、ココアを入れる。隠し味にバニラエッセンスで香りを付けてからペコの前に運んだ。スマイルは甘いものが苦手だったから、味見はしないで「好きに砂糖を入れて」とシュガーポットを差し出す。

それが、さっきの話。

「スマイルは何飲んでんだ？」

ペコと色違いのマグカップがスマイルの前に置いてあるから、ペコは気になって尋ねてみる。
スマイルはペコと同じように、カップを両手で包み込むと小さく答えた。

「ホットミルクだよ」

コーヒーをわざわざ淹れるのも面倒だったし、ココアを作るついでに一緒に暖めただけだ。心の内にスマイルは付け加える。
ふぅん、ペコは云うとおもむろにシュガーポットの蓋を開けた。
――まだ足りないの？
スマイルは首を傾げたが、彼の行動は想像していたものと違っていた。

「え、ペコ…！」

スマイルが止める間も無く、ティースプーン山盛りの砂糖がホットミルクの中に消える。

「ほぇ？」

きょとんと瞳を上げるペコには、それが悪いコトだとは思ってないらしい。
その証拠に、彼はくるくるとホットミルクを嬉しそうにかき混ぜて、スマイルに笑う。

「ホットミルクは甘くねーとな」

あぁ…スマイルは頭を抱える。そんな彼の姿を見て、ペコは不思議そうに首を傾げた。彼にとっては甘いものは正義であり、どんな飲み物にも必要なものだった。

頭をいくら抱えたところで、ホットミルクが減るわけでもない。
意を決して、でも、恐る恐る、スマイルは砂糖入りのホットミルクがなみなみと注がれたカップに口を付けた。
口の中に広がる牛乳の味、そして甘さ。覚悟をして飲んだからか、それは想像よりずっとあっさりとした甘さだった。
――悪くないかもしれない。

「どうだ？
　うめーだろ？？」

ペコがココアを飲みながら笑顔で云うので、スマイルもこくんと頷いた。美味しいか不味いかと云われれば美味しい部類に入る、と思う。ただ、好んで飲むかは個人の嗜好の問題だ。

もう一度、静かにホットミルクを胃に流し込みながら、ぼんやりとスマイルは考える。

スプーン1杯で君が笑顔になれるのなら。
それを幸せだと感じてくれるのなら。

「おかわりは？」

すっかり空になったペコのマグカップを見て尋ねると、ペコは彼の大好きな笑顔を作った。

「スマイルとおんなじの！」

そう、スマイルは立ち上がってホットミルクを作る準備をする。
彼が砂糖を入れるのを知っていたから、今度は最初から尋ねた。

「お砂糖は？」

「1杯！」

これからは、ホットミルクにスプーン1杯の砂糖がお決まりになる。
ふつふつと湯立つミルクを見ながら、少しだけ嬉しくなって、スマイルは頬を緩めた。



*FIN*