ウラワカキコロ×ナミウチギワ

海が近いと、塩害でなんでも直ぐさび付きます。
きっと自転車もすぐボロッボロになるんだろうなぁ。
（本篇と関係ない話題）

それは、まだペコがスマイルやアクマが中学生だった頃の話。

温暖な気候だとは言え、やはり冬の湘南の海の風は強く、海は灰色をしていた。
どんよりと厚い雲が、どうにも気を滅入らせる。
冷たい風が吹き付ける今日、ペコとスマイルとアクマの三人は砂浜へと続く階段に並んで腰掛けていた。

「…ペコ、お前高校どうすんだよ」

暫くの沈黙の後、アクマが重い口を開く。

「オイラ？
　このまま片高に行くよ」

砂に意味の無い落書きをしていたペコが、顔を上げずに答える。
ペコの家には彼を筆頭に弟たちが多かったので自転車で通える距離の地元の高校が志望校だった。
彼自身も卓球好きではあったが、強い高校に行きたいと云う気持ちも無く、ただ卓球部があれば良い、そんな考えだった。

「…アクマは、海王に行くんだっけ」

中二になった春から、彼は海王高校へ入学するため猛勉強をしていた。
今までも決して学年下位の成績ではなかったが、今では上位5位以内が彼の位置だ。
さらに、卓球にも手を抜かないから体を壊しやしないかと、大人たちは気が気で無かった。

「スポーツ推薦は無理だったけどな、期末の結果がよければ普通推薦は大丈夫そうだ」

アクマは度の強い眼鏡を掛けなおす。
そして続けた。

「お前はどうするんだ、スマイル？」

「…僕？」

急に話題を振られて、手の中の缶コーヒーを転がす。

「…ペコと同じ、片瀬高校だよ」

瞳を伏せると、白いスニーカーに細かく砂が入り込んでいるのが見えた。

「またペコと一緒、か」

吐き捨てるようにアクマが笑う。
彼の中心がペコな事は、誰が見ても明らかだった。

砂に落書きをしていたペコが、いつの間にか階段の下でお山作りに熱狂している。
真っ直ぐに立てた棒を倒さないように掬って、何度も一人でその遊びを続けていた。

「…別に、誰にも迷惑掛けてないでしょ」

プルタブを引き上げて、スマイル。
まだ少し暖かい其れを流し込むと、冷えた体が暖かくなるのが分かった。

「ずっとその調子でいくのか」

砂を払って、立ち上がるアクマ。
テキストと参考書の入った鞄が重そうだった。

「…さぁ」

微動だにしないまま、スマイルは地平線を見つめている。
――ずっと今が続かないことくらい、分かっていた。

「おらペコ、帰んぞ！
　テスト前に風邪なんて洒落になんねーからな」

向こうのペコに声を掛けると、俯いていた顔を上げてこちらに駆け寄って来る。

「タムラ寄ってくんか？」

制服を砂だらけにしたペコに、オババはどんな暴言を吐くのか。
スマイルは無言のまま、その砂を払ってやった。

「おうおう、今日こそテンハンでぶっ飛ばしてやるよ」

「ぬぁにぉう？
　てめーなんかスコンクでかっ飛ばしてやんよ！」

頭突きして睨み合う二人を、小さくため息を吐きながらスマイルが見守る。
強い風が吹いて、首に巻いたマフラーがぱたぱたを鳴った。

「…ほら、そんな所で突っ立ってないで。
　早くタムラに行くよ」

スマイルは言い残し、その場を後にする。

「おいスマイル！一人スカしてんじゃねーぞ！」

「そうだそうだ、今日も女子からお菓子貰ってたろ！
　オイラにそれくれろ！！」

――とんだとばっちりだ。
背後から投げかけられる罵声に、スマイルは視線だけで黙らせる。

「よし、スマイルも勝負だかんな！」

急に駆け出したペコに手を引っ張られ、
後ろからアクマに押され、
連行のような状態で海沿いの道を走る。


相変わらず、海は灰色だったけれど、
遠く厚い雲が途切れて光が差し込んでいた。



*FIN*