パンケーキ×ウチオヤツ

起承転結？
なんだそれ！！！！

「なースマイルーモダン焼きってなんぞ？」

ペコの言葉はいつも唐突だ。

「…モダン焼き？」

僕はホットケーキの生地を混ぜる手を止めて考える。

「そ。
　モダン焼き」

「お好み焼きの一種じゃないの…」

しっかりと熱の通ったフライパンを濡れ布巾で冷やし、温度を安定させる。
弱火に調節して、それからバターをその上に落とした。

じゅわっと良い音がして、バターが溶ける。
大きな泡がポコポコしているけど、それはまだ、早い。
少しだけ待つと、シュワシュワとした細かい泡が立ってくる。
それが、生地を入れるタイミングだ。

おたま1杯、真っ直ぐに生地を流すとそれは綺麗な流線型を描きながらまん丸の姿に落ち着いた。
うん、完璧。

「…何枚食べるの」

キッチンのカウンターから顔を覗かせると、ペコが『東京ウォーカー』から顔を出した。

「さんまい！」

「時間、掛かるよ」

僕は生地から小さな泡が出てきたのを確認すると裏返した。

「待つ！！！！」

ペコは云うと、また東京ウォーカーとにらめっこしだした。

今のホットケーキだってそう。
『山手線★パンケーキ50選』なんて記事があるから、ホットケーキが食べたいと駄々をこねたのだ。
きっとさっきのモダン焼きも『銀座で食べる　懐かしのモダン焼き』なんて特集があったんだろう。

ホットケーキのキツネ色を眺めながら、僕は時計の針を見つめる。
きっかり2分。
フライ返しでちょっとだけ焼き色の確認をすると、真っ白い大きなお皿にそれを乗っけた。

「ふぉ～～～うンまそぅ～～～～」

いつの間にかペコが、キッチンのカウンターに身を乗り出してそれを見ている。
味見をしようと伸ばした手を、僕へぺちっと叩いた。

「お行儀が悪いよ、ペコ」



それから2回、同じ作業を繰り返して。
ダイニングテーブルでそわそわと落ち着き無く待っているペコにホットケーキを置く。
たっぷりのメイプルシロップと、添えたオレンジ。
生クリームは無かったから、代わりにアイスクリームを乗せた。


「お店で食べるみたいだな！！」


ペコのテンションが一気に上がる。

「…お店で食べたこと、あるの？」

グラスに牛乳を注ぐと、ペコは首を振った。

「無い！」

…そう、僕は頷く。
ペコがお店で食べる、一番のパンケーキは僕の作ったホットケーキって事だ。

「いただきまッス！」

3枚重ねのホットケーキに少しだけ手こずりながらも、ペコはそれを完食してくれた。

「…スマイルの分は？」

牛乳を飲み干して、手の甲で口を拭う。
小学生から変わらない、ペコのスタイル。

「…いや、ペコの食べてるの見てたらお腹一杯になったよ」

僕はブラックのコーヒーを飲みながら答える。
そんなに、甘いものは好きじゃなかったし、こんな風に幸せそうに食べて貰えれば料理人冥利に尽きるってものだ。

「なんだかオイラだけ、悪いな」

申し訳無さそうに瞳を伏せたペコに、僕はそっと囁いた。

「今度はペコが僕にご馳走して」

一体、何を考えたのだろう。
真っ赤になってじたばたと騒ぐペコを放って、僕はキッチンの後片付けに専念した。

モダン焼きを作って、って意味が伝わったかどうかは分からない。

けれど…

きっと良いことが待ってる、東京ウォーカーをぱらぱらと捲るペコを覗き見て僕は独り口の端を上げた。



＊FIN＊