オヒルヤスミ×オベントウ

スマイルのお昼はいつも、パン（笑）
あと牛乳な。
オシャレ男子はなんかパンなイメージ（貧弱）

お昼休み、ペコはいつでも僕の隣でお弁当を広げる。

緑のチェックの包みを開けると、其処には彩りよく飾られた2段重ねのお弁当。
最初は、ペコに彼女が出来たのかと焦ったけれど朝も一緒に登校しててそんな素振りも無いし、それが家から持ってきたものだと分かるのに時間は掛からなかった。

「…今日は、から揚げなんだね」

「おうよ。昨日の残りだけんどな」

黄色の卵焼きには海苔と一緒に巻かれていて、お行儀良くならんだサラダ菜に、昨日の残りだと云うから揚げ。
赤のトマトも目に眩しく、ご飯の上には梅干が鎮座していた。
…うん、立派過ぎるよこのお弁当。

ペコは兄弟が多いから、お母さんが纏めて作ってるのかな、疑問に思って訊いてみた。ら。


「え？
　おかあちゃん、朝は忙しいって作ってくれんのよ。
　だからコレ、オイラが作ってる」


衝撃的だった。
相当これはショックだ。

ペコが料理をしている？
しかもこんなに凝った盛り付けで？
朝練の時のおにぎりもペコが握った…　…　…


頭の中で小宇宙が燃えていたけれど、必死に押さえ込んで続けた。

「…料理、得意なんだね」

僕も料理が得意な方じゃない。
母さんが働いてるし、必要で上手くなってしまった程度だ。
煮物は作れるけど、こんな風に可愛らしくお弁当は飾れない。

「昨日の残り物詰めてるだけだから、オイラは何もしてないよ？
　それよか、スマイルのお弁当の方が凝ってると思うし」

今日の僕のお弁当はクロワッサンのオープンサンド。
ペコと同じく、昨日の茹で鶏をハニーマスタードで和えて、一緒に作ったゆで卵も挟んだ凄く簡単なものだ。

「…そうかな。
　これだって、昨日の残りだよ」

僕はちょっと恥ずかしくなってもぐもぐと俯いてクロワッサンを飲み込む。

「ベントー男子？って流行りらしいじゃん？」

口の端に米粒を付けて、ペコ。

「オイラたち、流行りの男子だなっ！」

にかっと、白い歯をきらきらさせてペコは笑った。

「なぁなぁ、それ美味い？」

まだラップに包まれたもう1つのサンドイッチを指差して、ペコ。
真っ黒は瞳は、それがロックオンされた証拠だ。

「あげても良いけど…お腹空いちゃうよ」

僕はちょっとだけいじわるして、さっと其れを隠した。

「オイラのお弁当あげるから、それっ！ちょーだい！」

狙いは、其れだ。
――ペコ手作りのお弁当！

好きなものは先に食べるペコらしく、から揚げは残っていなかったけど
よく見るといびづな卵焼きはまだ残っていて、
自分で作った卵焼きとは違う、ちょっと甘い味覚に酔いしれた。

僕のサンドイッチはペコの胃の中へと消えて。

「やっぱスマイルの料理美味いなー
　オイラの嫁になってケロ。けろけろ。」

堂々とした愛の告白にうん、とだけ頷いた。

ご飯の後は、いつものお菓子タイム。
きな粉棒の箱をがさがさ振って喜ぶペコに、僕は心の中で呟いた。



『でも、お嫁に来るのはペコの方だよ』



不埒な妄想を載せて、昼休みは過ぎてゆく――


＊FIN＊