静寂ガ僕ヲ包ミ込ム

【静寂】と書いて【しじま】と読む。
なんだか回りくどい文章を書きたくなったので、思うままに羅列してみた例。

このまま無為に『オトナ』になってしまうのだろうか。
デスクライトに照らされた、薄い青のシャープペンを見据えながらスマイルはぼんやり思った。

季節は秋の終わり。
開け放した窓は夜になると冷たく、つい閉めてしまいたくなるが、そうして密閉してしまうと
なんだか世界に自分独りきりな具合がしてどうも落ち着かない。
それに、時折揺れる白いカーテンが視界に入るとこの世界は動いているんだと、妙に安堵した。


設問1）
以下の文章を訳し、各問いに答えよ。
There can be no doubt that Porter boarded the train at Houston with the intention of going Austin.
I imagine that he even felt a certain sense of relief that the trial, which had hung as heavy weight around his neck, was at last to take place, and his innocence publicly declared.…　…　…


途中まで読み進めて、何だか気が乗らないなと問題集を閉じる。
ついでに英和辞典も閉じると、机の上は随分と殺風景になった。
それでもまだ、小さな英単語帳やノートが無造作に置いてある。
スマイルは小さく伸びをすると、さっき作ったばかりの単語帳をぱらぱらと捲った。
時折、ちらちらとノートを見遣る。
重要なところは赤で、それ以外は黒一色。
彼のノートは至ってシンプルであり、実用性を重視していた。


なんだか、本当に気分が乗らない。
少しだけ空いた窓からは、気の早い鈴虫の鳴き声が聞こえ、遠く車の音が響いた。
時計の針は24時。
寝ても悪くない時間だったが、来週からのテストを考えるともう少し起きていたい気分だった。

片隅のマグに手を遣ると、随分昔に冷めてしまった深い闇色の液体。
今度は暖かいうちに飲もうと誓い、冷えた其れを流し込む。
ほんの少しの酸味と、苦味が残り、気だるい気分が少しだけ冴えた気がした。

さっきまでは数学も、古文も、英語ですら。
緊張感を持って勉強に打ち込めていたのに。

急に糸が切れてしまったみたいで、大きな欠伸を隠そうともせず
スマイルは大きく伸びをすると窓を閉めようと立ち上がった。
ついでに、ベランダに出て夜風に当たる。

いつぞやのニュータウンだったその町は、今では子供も少なく
どの家も夜の帳に包まれていた。
街灯がぼんやりとコンクリートを照らす。

時折、風が頬を撫でる以外には景色は変わらず。
このまま世界に閉じ込められる、そんな錯覚に陥った。

部屋に戻ろう。
思って振り向こうとした時に、視界に映ったか細い三日月。

鈴虫の声を聞きながら、スマイルはふと
この静寂の意味を悟った。


――あぁ、そうだ。
今日はペコが熱を出して休んだんだ。


彼の居ない世界はこんなにも侘しく、そして切ない。


「ねぇ、明日は学校に来てよ」


スマイルは夜空に瞬く星に小さく云うと、そのまま部屋に戻った。


残されたのは、夜の静寂。
街灯がコンクリートを照らしていた。



＊FIN＊