この青空の下で

ありえない世界での、ありえない話。
だけど、ありえないは作れる。
あんたならよく知ってるだろ？
（と、意味なくマコっちゃんぶってみる）

実写版IWGP×実写版ピンポン。
でも語り口調は原作版IWGPを意識、と言うせれな先生の意欲作にご期待…しないでくださいwwww

季節は10月も終わりだというのに、場違いな高気圧が日本を制圧し、未だ暑い毎日が続いている。
この季節になると柿が一番の目玉商品になるが、今年はこの暑さ故か出足が遅く、ちょっと味のボケてきた幸水梨ばかりが幅を利かせていた。
それでも商売しなきゃならないので、ぴかぴかに磨いた柿を籠に並べる。
昨日の夜から入れっぱなしの【ショパン/舟歌（バルカロール）嬰ヘ長調】も少しだけ聞き飽きてきたので（そして明るい曲調の割りに物悲しさも含んでいて、秋の夜長にはぴったりなのだが朝に聴く曲では無いようだ）俺は奥のおふくろに一言だけ声を掛けて、さっさと池袋の町に繰り出した。
長居したっておふくろのお小言を聞くだけだし、それならまだ雑踏の方がコラムのネタも拾えるってもんだ。

IWGP
正式には池袋西口公園。それが俺の場所だ。
いつものベンチへ腰掛けて、ぐるりと公園を見回す。ほんの少し前まで、カラーギャングの抗争があったなんて思えないその落ち着きっぷりに、俺は嫌でも時の流れを感じさせられた。

「あの、すみません」

俺はこのベンチに座ると誰かしらに声を掛けられる。
その殆どが野郎と言うのが気に食わなかったが、それを嘆いたって何も変わらないので気にしないようにしていた。

其処に立っていたのは。ひょろりとした眼鏡の青年だった。

「この辺に駄菓子屋さんがあるって聞いたんですけど…」

見せられた地図は、少し古い池袋の特集記事。
その駄菓子屋は、俺も子供の頃に世話になった。家の近くの店だった。

「あぁ、知ってるよ。そこ」

「本当ですか、此処から…近いんですか？」

眼鏡の奥の瞳が嬉しそうに揺れる。
――お菓子が好きなんだろうか。

「あー…でもな、去年そこのばーちゃんが病気しちまって。
　お店、畳んじゃったよ」

「そうですか…」

肩を小さく落とした眼鏡の後ろから、おかっぱの少年が顔を出す。

「なぁ、分かった？お店！」

喋るたびに咥えている棒が上下左右に揺れた。

「ううん、お店畳んじゃったんだって」

眼鏡がおかっぱ頭に説明し、こちらに頭を下げる。

「…ご丁寧に、ありがとうございました」

その時だ。

「マコっちゃ～～ん？
　トラブルーーー？」

相変わらずの白のタンクトップに、青いチェックのシャツ。一体何枚の替えがあるのかと思ったが、その思考は一瞬で脳裏に納めた。――この街の、イカれた王様。

「こーんにちはー」

タカシが少年に声を掛けると、眼鏡は怪訝そうにその姿を見つめ、おかっぱ頭は「メッス！」そう挨拶した。

「なぁに、相談事？」

タカシが眼鏡の持つ地図を覗き込む。
眼鏡の横顔はどことなくシュンに似ていた。

「うっわ、懐かしいこの駄菓子屋！通ったよね～～」

くるりと1回転してから、隣に腰を下ろす。

「ね～～～、って合わせられっか！」

浮ついた笑顔でそうノッてやると、おかっぱ頭が楽しそうに笑った。
その顔が、なんとなくタカシに似ていて、俺はドキリとした。

「お兄さんたち、仲良しだな」

「うん、キングとマコトは仲良しナリ～～
　仲良しのチューしよ～」

いきなり肩を抱いたタカシを振りほどき、俺は立ち上がる。

「…そんなワケで、だ。
　その店は無ぇ。他にも駄菓子屋なんて沢山あるだろうし、他を探してくれ」

「そうですね、そうします」

眼鏡は礼儀正しく、地図を折りたたんでおかっぱ頭の服を引っ張る。

「行こう、ペコ」

「む？
　おにーさん、なんか甘い匂いがするっ」

「マコっちゃん家、果物屋さんだからね～良い匂いするよー」

言いながら、俺の腹へと手を伸ばす。
キングはこうやって庶民を誑かすんだろうか。

「おう、俺ん家はあっちの角曲がったところで真島フルーツってやってんだ。
　駄菓子屋見つかんなかったら、うまいパイナップルでも切ってやるよ」

俺は信号の向こうを指差す。

「ありがとうございます」

また、眼鏡は馬鹿丁寧にお辞儀をするとおかっぱ頭の手を引っ張って、今度こそ池袋の雑踏に消えた。

「ねぇねぇ、マコっちゃん。
　あの子たちもさ、仲良しナリね」

一瞬だけ繋いだ手を、タカシには見えたのだろうか。
俺はタカシに手を差し出した。

「来るんだろ、家。
　おふくろに小言言われんの、付き合え」

おふくろは、タカシには滅法弱い。連れて帰れば店番をサボったことに文句は言われないだろう。
きっと、夕方にはあの子たちも来るだろうしな。


太陽が天辺に来る、その少し前。
俺たちはホームグランドを後にした。



コラムのネタも相変わらず拾えないし、家に帰ったって店番をするだけ。
でも、親友が傍に居ると楽しい。
その気持ちは、あんただって知ってるだろ？



＊FIN＊