Serena*Mのあたまのなかみ。
やりたい放題設定アベンジャーズw
調子こいてその②
調子こいてその②
「ぱぱのおしごとって、どんなおしごと?」
バッキーベアを隣に置いて、幼児番組を見ていたロビンが目の前で行ってきますのキスをしていたバッキーに尋ねる。
チャンネルでは“一緒にお仕事してみよう★”(両親のオフィスにお邪魔して上司や同僚から話を聞いたり、接客業なら一緒に仕事体験をする人気のコーナーだ)が流れていた。
「パパのお仕事かい?」
スティーブに回した手を離してバッキーはわが子を抱き上げる。
「うん。こまもあれ、したい」
ロビンは至近距離のバッキーの顔を見つめながら、TVを指差す。
スティーブと同じ青い瞳に見つめられて『NO』とは言えなかったから、空いた片手でわしわしと自分と同じブラウンの頭を撫でるとバッキーは笑顔を作った。
「ボスにロビンを連れて行って良いか聞いてみようか」
彼は続ける。
隣のスティーブが少し困ったように顔を曇らせたから、バッキーは息子と同じようにスティーブの頭をぽんぽんと撫でる。その行動は大丈夫、そう告げているようだった。
――現在は、シールドのエージェントとして日々任務をこなしている。長期に家を空ける事だって多いし、命の危険性が0になったワケではない。
勿論、そんな戦闘領域には子供を連れて行くなんて微塵も思っていないが、オフィスだって重要機密事項ばかりだ。定期的に拠点地は変わるし、育児休暇中のスティーブも現在の拠点場所については何も知らされていなかった。
「…<何か、良い案でも?>」
「<いいや。いっそプラム屋にでも転職するか?>」
「<もう、馬鹿なこと言ってないで>」
ロシアの言葉で耳元で囁くと、間に挟まれたロビンがぷっと頬を膨らませる。
「もー!またこまのわからないおはなしして!」
「いってらっしゃい、って言ってたんだよ。
ほら、駒もパパに『いってらっしゃい』して」
苦笑するとスティーブはバッキーからロビンを抱き受け、優しく息子を揺らした。
「ロビンはパパに“行ってらっしゃい”のキスはしてくれないのかな?」
バッキーが屈んで頬を差し出すとロビンがさくらんぼ色の小さな唇を押し付ける。
小さなマシュマロのような感覚に頬が緩むのが自分でもよく分かった。
「ぱぱ、いってらっしゃい」
「行ってきます」
彼は言うと、スティーブとロビン、それぞれの頬にキスをして玄関へと消えた。
「さ、じゃぁ駒も公園に行く準備をしようか」
父の出かけたリビングで小さな息子におどけて笑うと、ロビンは「はーーい」と元気に手を挙げた。
「よし、じゃぁママはちょっとお片づけしてくるから、駒はバッキーベアと仲良くしてて」
ソファにロビンを置いてバッキーベアを抱かせると、スティーブは短くシールドから支給された電話機のメール画面を呼び出した。
『To:トニー・スターク
Text:相談したいことがある』
*
いつもよりしっかりめに公園で遊ばせて、お昼ご飯のチキンヌードルをぺろりと平らげたところでロビンは電池が切れたようだった。デザートのプラムも食べずに寝てしまったから、スティーブは自分のランチ代わりに残ったプラムを口に詰める。
機械の操作は苦手だったけれど、久しぶりにシールドの暗号回線を使ってバーチャルのミーティングルームに入った時は懐かしさを覚えたのだった。
「やぁ、スターク。急にすまないな」
『珍しいな、スティーブから連絡が来るなんて』
どうやらトニーは自宅からミーティングルームに来ているらしく、後ろのキッチンからワンダが顔を出して此方に手を振っていた。
『ハロー、キャプテン。駒ちゃんは元気?』
「あぁ、今も気持ち良さそうに昼寝しているよ。この前ワンダにも会いたいって話をしてたんだ」
『わぁ嬉しい。ヴィジョンと新しいアイシングの配合を考えてたところだったの。上手く出来上がったら持って行くからね』
『また俺が味見かよ』
別のスピーカーからピエトロの声も聞こえたので、今日のトニーの部屋は平和そうだった。
『それで、どうした?』
見るからに高級そうな革張りのソファにどっしりと座り込んだトニーにヴァーチャルカメラのピントが合う。
「うん、ちょっと君の力を貸して欲しくてね…」
スティーブは今朝の話をざっくりと伝える。
息子が父の職場訪問に興味があること、けれど父の職場は国家機密でもあるから訪問できないこと――
『確かにあの番組は我がスターク・インダストリー提供ではあるが…』
「いや、あの番組に出して欲しいワケじゃないんだ」
『では、何を?』
「君なら何か良い代替案を出してくれるかなって思ったんだけど…」
『トニー、スーパー1つ買い取っちゃいなさいよ』
画面に入り込んできたのはワンダだ。
小さな四角いクッキーをトニーに差し出していたから、さっき言ってたクッキーが焼きあがったのだろう。
『我が社には必要ない部門だぞ?』
焼きたてのクッキーを覚ましながら頬張るトニーが答える。
確か、何期か前に赤字経営だった地方の小売事業を丸ごと買い取ったが業績がイマイチ伸びなかったので手放した筈だ。
「何か良い案でも?」
ワンダの言葉に、スティーブが身を乗り出す。
『買い取って、は言い過ぎだったかな。1日だけ貸しきって貰えれば充分。
シールドのみんなでスーパーで働いてることにしちゃえばいいのよ』
ワンダは続ける。
『ロビンは働くパパが見たいんでしょ?潜入任務だと思えば楽しそうじゃない。
面白そうでしょ、スーパー・シールドだなんて』
店長はフューリー長官でしょ、サービスセンターにはマリア・ヒルがいいわね…
ぶつぶつと呟くワンダの言葉はマイクが拾いきれていなかったが、名案な気がして、そして今朝も『プラム屋にでも転職するか』とバッキーが言ったのを思い出して大真面目にスティーブは頷いた。
「面白い提案だと思うよ、ワンダ。
スターク、そんなワケで息子の為に1日スーパーを貸しきって貰えないかな。
…バッキーは“プラム屋”になるそうだから」
笑いを押し殺したスティーブに、トニーは『はぁ??』と全力で嫌な顔をしたが隣のワンダから肘鉄を食らう。彼女は何か耳元で囁くと、またキッチンへと戻ったのだろう。画面から消えてしまった。
それから暫くしてようやく、トニーが顔を上げる。
後ろのキッチンからワンダとヴィジョン、そしてピエトロの笑い声が聞こえていた。
『少し時間をくれ。場所は確保する』
そう涙目で告げると、回線は切れたのだった。
スティーブも大きく溜息を吐くと回線をOFFにして小さく伸びをする。
――そろそろロビンを起こして、洗濯物も取り込まなきゃな。
ミーティングルームの時よりもずっと柔らかい表情になったスティーブは、すっかり主婦の顔になっていた。
*
「――って話をしたからさ、そのうち何か動きがあるんじゃないかな」
ダブルサイズのマットレスの上でバッキーのマッサージをしていたスティーブが今日の話をバッキーに伝える。
今日の任務は遠方だったらしく、バッキーが帰ってきたのはロビンもすっかり寝入った夜中過ぎで、それでも疲れた夫を労わろうとスティーブは寝ずに待っていたのだった。
「結局はアイツか」
トニーの両親の事もあるから、バッキーは彼の事を少しだけ苦手としていた。
「そんな事言わないで。彼だって僕の大切な友人なんだから」
肩甲骨の下の部分を揉み解しながらスティーブは呟く。少し凝っていたので強めに押したら「ぐぇ」とヒキガエルみたいは哀れな声がした。
「あ、ご、ごめん!」
「…い、いや、いいよ…続けてくれ」
暫く無言でマッサージされていたバッキーだったが、飽きてきたのか急に仰向けに寝転がった。
「…なぁ、スティーブ」
その目はやけに真剣だ。
「うん?」
スティーブが小首を傾げる。
「ロビンも3つになったことだし、そろそろ…」
「…そうだね、そろそろ僕も現場に復帰しなきゃいけないよね」
――ずっとバッキーにだけ危険な任務に晒すのは心が辛い。けれど、もっとロビンとも一緒に居たいとも思う。
仕事と家族と。それはずっとスティーブが悩んでいた事だった。
「…?
何を言ってるんだ?」
バッキーが起き上がってスティーブの肩を掴む。
「え?ロビンに手が掛からなくなったし今度から幼稚園にも通うし…シールドに復帰して、って話でしょ?」
きょとんとした顔のスティーブに、バッキーは小さく溜息を吐くと70年前から変わらない、女の子なら誰でも打ち抜かれてしまうあの魔のウインクを繰り出した。
「俺が言ってるのは、二人目の事だよ」
「そう、二人目か――って、え!?」
びっくりした顔に変わったスティーブをバッキーはゆっくりと押し倒す。
「――実は、もうシモンズ博士には話をしてあるんだ。そのうちお前にも話が伝わると思う…」
見た目よりもぽってりと柔らかいスティーブの唇に喰らい付いて、そっとバッキーは部屋の明かりを落とした。
*
トニーから連絡が来たのはそれから3日後。
ハイウェイを1時間程走らせたところに新しく出来たスーパーマーケットの、開店前の1日を押さえたのだと言う。
シールドの職員らが店員に扮し、客については“映画の撮影だ”と契約書まで書かせて人を集めた徹底ぶりだ。
勿論ロビンはそんな事情は知らないから素直に
「きょうはぱぱのおしごとにいくの?」
と、素直に手を叩いて喜んでいた。
「そうよ、駒ちゃん。パパに会えるの嬉しいわねぇ」
ハンドルを握るメイ・パーカーも嬉しそうだ。
婚約者であるサムから真面目くさった顔で『スーパーの揚げ物担当になったからこれから死ぬほどチキンを揚げる毎日だ』なんて言われたときはどうしようと頭を抱えたが、理由を聞いたら大笑いしてしまった。
今日はそんな主役のロビンと保護者のスティーブと、一緒に買い物に行くのがメイとピーターの役割なのだ。
「僕も荷物持ちしますからね、沢山買い物してくださいね」
助手席から爽やかに振り向いたピーターに、スティーブも同じくらい爽やかな笑顔を向ける。
「ありがとう、きっとオープニングセールで安くなってるよね?」
凝り性のスタークはわざわざ【スーパー・シールド】(しかも看板まで付け替えたのだから規模が違う)のチラシまで作っていたのでざわとらしくチラシのチェックを始めた。
*
スーパー・シールドは地元に愛される食料品店を目指したアットホームな職場である。
オーナーのトニーに、店長にニック・フューリー。仕入のチェック担当としてコールソン、マリア・ヒルはサービスカウンターで普段目にする事の無い笑顔を振りまいている。
店内のアナウンスはヴィジョンの担当で、ジャービスを彷彿とさせる響きがあった。
惣菜コーナーにはサム、レジにはピエトロとワンダの2人がPOS台の前でぼんやりと客を待っていた。
ロビンの父でもあるバッキーは勿論青果の果物担当で、スティーブたちが着いたときにはプラム山盛りにしたコーナーを設置している時だった。
「ぱぱ!」
ぴこぴこと鳴る靴を履いたロビンがトコトコとバッキーに駆け寄る。
普段は下ろしているブラウンの髪の毛を今日は1つに結んでいたからいつもとちょっとだけ雰囲気が違って、格好良く見えたからスティーブは少しだけ赤面して視線を外した。
「いらっしゃいませ、可愛い駒鳥ちゃん」
屈んでぎゅっと抱きしめて、そのまま抱き上げる。
「プラムはいかがですか?」
差し出すとロビンは「ひとつください」と手を差し伸べた。
プラムを受け取ったロビンがキラキラをした瞳を父に向ける。
「これがぱぱのおしごと?」
「そうだよ、パパはプラム屋さんなんだ」
言っているところに、フューリーが現われる。
「フューリー長か…店長!」
バッキーが頭を下げると、ロビンも真似をして頭を下げる。
「君がロビン君かね?」
覗き込んだ長官に、ロビンはこっくりと頷く。
「ろびん・ろじゃーす、3さいです」
「今日はお父さんの仕事見学かな?」
もう一度ロビンが頷くとシールドの誰もが驚くような、優しい微笑を浮かべた長官の姿が其処にはあった。
「お父さんは大変立派に働いてくれてるよ。
世界一のプラム屋さんだ」
「ほんとう?」
「本当だとも」
笑顔になったロビンの頭を撫でて、長官も頷いた。
「今日はオープニングセール中だ。支払いはスタークがしてくれるそうだから沢山買っていき給え」
スティーブに視線を合わせながら笑い声を押し殺して長官が言うものだから、ついスティーブも破願してしまった。
「ありがとうございます、店長さん」
それから4人はゆっくりと店内を見て周り、普段の“ロビンのお父さん”の仕事について話を聞いてきたのだった。
父の話を沢山聞けたロビンはご機嫌で、家に着いてからもずっとバッキーに選んで貰ったプラムを大事に抱えていた。
「ただいま、可愛い駒鳥ちゃん」
普段よりも随分と早く、まだ空がオレンジ色の時間に帰宅したバッキーに、キラキラとした瞳でロビンは出迎えた。
「ぱぱ、おかえりなさい。こま、ぱぱだいすき!」
――その後のロビンがバッキーに抱き上げられてもみくちゃに撫で回されたのは言うまでも無い。
久しぶりに息子が起きている時間に帰宅出来て、尚且つ一緒にお風呂にも入れたバッキーは彼にしては珍しく酔えないアルコールも持ち出してきたから浮かれているのは誰の目にも明らかだった。
「これはサムおじさんが作ったフライドチキンだよ」
口の周りをミートソースで真っ赤にしながらチキンを頬張るロビンにバッキーは目を細めて笑う。
「ほらほら、そんなに詰め込んだら喉につかえちゃうだろ…」
言いながら小さな背中を擦ると子供の体温だからだろう、彼のよりもずっと暖かかった。
「お待たせ、バッキー。久しぶりに一人のお風呂だったから…」
真っ白なタオルで頭を拭きながらリビングに戻ってきたスティーブにバッキーは首を振る。
「こっちこそいつも一人で大変だろ。
それに悪いな、もう飯にしてて…」
「ううん、駒もお腹空く時間だし先に用意してたから良かったよ。
僕も久しぶりに飲んじゃおうかな」
食器棚からロビンの好きなヒーローの描かれた可愛らしいグラスを持ってスティーブが座ったので、以前とは違った【家族】にバッキーはまた目を細めた。
「…?どうしたの?」
「いや。家があるっていいなって思って」
以前、コールソンから贈られた年代物のウイスキーを可愛いグラスに注いでバッキーは自分のグラスを合わせる。
「<お前と毎日こうして飲めるならプラム屋に本気で転職しようかな>」
「<…いいよ、プラム屋さんだって。駒も喜ぶだろうしね>」
「<今度長官…店長に話してみるよ>」
其処まで話したところで、ロビンがお気に入りのスパイダーマンの蓋付きのマグを押し付けた。
「こまもーこまもまぜてー」
「いいよ、ロビン。
あの言葉、言ってくれるかな?」
ロビンの皿にミートソースを取り分けながら尋ねたバッキーに、ロビンは大きく頷いた。
「あべんじゃーず、あっぜんぶる!」
*おしまい*
書いてて気付いたんだ。
ロビン・ロジャースってアメコミによくあるファーストネームとファミリーネームの文字が一緒なヤツだって…(例:バッキー・バーンズ、クラーク・ケント)
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