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Serena*Mのあたまのなかみ。
バキステを語ってると最終的には「結婚しろ!!」としか言わなくなるので結婚させてしまった話。
ご都合主義な俺アースemoji
楽しい、私が。





――悪夢だ、とトニーは思った。
それから、きっとこれは現実じゃない、とも。

彼が頭を抱えた言葉は、ついほんの10秒前に言われたキャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースからの告白だ。

『バッキーと籍を入れようと思うんだ』

場所はスタークタワーの最上階、見晴らしの良いトニーのオフィスであり自室であり、アベンジャーズの集いの場でもある部屋だ。昼過ぎのこの時間、この部屋には白く美しい光が部屋中に差し込んでいて、それがまたスティーブの金髪をキラキラと反射させていた。

彼の告白に、その場に集まっていたアベンジャーズのメンバーから口々に祝いの言葉が放たれる。

「おめでとう、スティーブ。幸せになれよ」

「おめでとう、キャップ。誓いの言葉ならいつでも聞きいれよう」

「スティーブ、おめでとう。貴方ならきっと素敵な奥さんになれるわ」

いの一番に祝辞を述べたのはバートンで、彼の言葉には家庭を持った者としての重みがあり、
次いで祝ったソーの“誓いの言葉”は彼が2人の見届け人(神?)になることが決定事項であったし、
“素敵な奥さん”と断言したナターシャも其れに続きたいと傍らのバナーの腕をぎゅっと掴んだのだった。

「結婚式はするの?」

真ん中のローテーブルで焼きあがったばかりのパウンドケーキを切り分けながら尋ねたワンダに、スティーブは首を振る。

「…そんな、大々的にするつもりは無いよ。
 ただずっと一緒に居たいなって思ったから…みんなにもこうして知らせたかったし」

いつもは真っ直ぐに未来を見つめるスティーブの青い瞳が、照れたように空を切る。ほんの少しだけ尖らせた唇が等身大の『スティーブ・ロジャース』だった。

21世紀を迎えたこの現代で同性での婚姻は珍しい事ではない。
いくつもの州で同性婚は認められていたし、ここニューヨークだって法で許可されている事だ。
けれど未だに同性での婚姻は少数派だったのも事実であり、有名人であるキャプテン・アメリカが同性婚するともなるとメディアが黙っていないだろう。
性的嗜好を理由に彼を嫌う者だって出てくるだろうし、反発運動だって起きる可能性もある。逆にレインボーイベントやLGBTの団体からは引く手数多のシンボルとなってしまうだろう。

「…全て、考えての結果なのか」

浮ついた空気を切り裂くように冷たいトニーの声が響く。
彼は考えられる限りの“最悪”の話をぶつける。アベンジャーズとして認められたこの世界から、糾弾される危険性についても説いた。
暖かかった空気が、一瞬にして北極海のように凍てついた寒さとなる。
一番に不安そうな視線を投げかけたのは年若いピエトロとワンダで、彼らは迫害される苦しみも哀しみも理解していた。自分らとキャプテン・アメリカとウィンターソルジャーは違う。けれどもこの苦しみを、更にウィンターソルジャーであるバッキー・バーンズに浴びせたくはなかった。
2人は本当に静かに暮らしていたし、見ていて温かくなるような関係だったから、同じ思いをさせたくなかったのだ。

一人掛けのソファで静かにトニーの話に耳を傾けていたバッキーが、ゆっくりと視線を上げてデスクに座るトニーを見据える。一同が固唾を飲んで見守る中、濃いブラウンの瞳をしっかりと捉えるとバッキーは頷いた。――その瞳には強い決意の色だけが見て取れる。

「…例え世界中を敵に回したって俺はコイツを愛しているし、守り抜いてみせる」

低く響いたのは、彼の誓い。

素敵、とワンダが呟く。ナターシャもふっと口の端に笑みを浮かべた。敏腕のエージェントと魔女のハートを一瞬で射止めたバッキーは、現代になっても完璧なプレイボーイなのだった。


[newpage]



スティーブとバッキーの挙式はブルックリンにある歴史ある教会で、近親者だけ招いた小ぢんまりとしたものだった。
時代は21世紀となろうとも、彼らの心は古きよきアメリカの精神がある。
2人の正装は当時の軍服。スティーブの頭にはアンティークのレースとビーズをあしらったヴェールが被せられ、“美しい”花嫁姿だった。
このヴェールはナターシャがヨーロッパから買い付けたヴィンテージのレースとビーズで、ワンダが一針一針心込めて縫い上げた祝いの1つだった。
男性同士の結婚式にドレスも似合わないだろうと頑なにスティーブは断ったから、苦肉の作として2人からせめてもの“花嫁”らしい品を贈り物としたのだった。
その隣では無精髭もスッキリと剃ったバッキーの姿がある。 “ウィンターソルジャー”としてのバッキーしか知らないアベンジャーズの面々は美男子となった彼の出で立ちに『本当にスミソニアン博物館のバーンズ軍曹なんだな』と改めて感じるのだった。

そんな2人の前に神妙な面持ちで立つソーは黒のシンプルな修道服姿で、弟のロキの見立てた極上の一品だった。新郎新婦よりも目立たず、けれど自身の存在感だけはしっかりとある、絶妙な匙加減の服だ。そんな普段とは違う格好のソーへ、バッキーがスティーブに永遠の愛と二度と離さない事を誓う。


I, Bucky,take you Steve to be my wedded wife,

to have and to hold,

from this day forwards,

for better for worse,

for richer for poorer,

in sickness and in health,

to love and to cherish,

til death do us apart.


彼の言葉を繰り返すように、スティーブも声を重ねて誓う。

「――では誓いのキスを」

先の真面目な顔つきは何処へやら、茶目っ気たっぷりにウインクしたソーに、参列者から笑い声が漏れる。
今日のドレスコードは“40年代”だったから、誰もが現代とは違う写真で見たような懐かしい服装になっていた。ワンダも長い髪を編みこんで一纏めにしたヘアスタイルだし、ナターシャだって優しい花柄のワンピース姿だ。
最中ずっと泣き続けているコールソンの眼鏡は祖父の遺品らしく、レトロで彼の顔にもよく似合っていた。

ソーの言葉に

「恥ずかしいよ」

小声で後ずさったスティーブの腰をバッキーはしっかりと抱き留める。
彼は空いた右手で彼のヴェールをそっと捲り、ずっと隠されたままだった青い瞳と対面した。
と、参列席から小気味良い指笛の音が鳴る。犯人はバートンだろうか。

思わず逸らしたバッキーからの熱い視線に、彼が唇を寄せたのが分かる。

「スティーブ…」






「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!!!!」

自らの絶叫でトニーは跳ね起きた。
大きく肩で息をして両手で頭を抱え込む。

ゆっくりと深呼吸をして瞳を開けると、そこは見知った自分の寝室でブラインドからは朝の光が漏れていた。
彼の叫び声を聴いたのだろう、ヴィジョンがすぅっと壁から姿を現す。

「大丈夫ですか?」

壁から急に現れるのは止めてくれと何度かお願いはしているのだが、時々彼はこうして壁抜けの技を披露するのだった。
きっと、今はそれだけトニーの叫びが【異常事態】だったのだろう。

「…お前も、驚かすなよ」

トニーはヴィジョンを見遣って、もう一度大きく溜息を吐く。

「ちょっと、悪い夢を見たんだ…だから気にしなくていい…」

彼はまた顔を覆って続けた。
――自分の夢の低俗さに反吐が出そうだ。

「そうですか」

ヴィジョンは思いの他素直に答えると「もうすぐ朝ご飯が出来ますよ」と、壁にまた消えてゆく。

彼が行ってしまったのを確認すると、トニーはサイドテーブルのデジタルアラームを読む。時刻は【6:50AM】。論文に没頭して最後に時計を見たのが【3:20AM】だったから随分と早起きしてしまった計算だった。

――最悪な目覚めだし、最低な夢だ。

スティーブがバッキーと結婚?誰がそんな戯言を。電脳世界のファンアートでそんな“ブルックリンボーイズ”を見かけたが現実の世界の2人はそんな関係ではない事を百も承知だ。確かに2人は一緒に生活してはいるがファルコンことサムも一緒に暮らしているし、何よりトニーとだってほぼ毎日顔を合わせている。どうしてこんな変な妄想を。

トニーは一人ぶつぶつと呟いて、お気に入りのグレーのスウェットを引っ掛けてキッチンへと向かう。きっと睡眠不足で頭が回らないのだ。彼は頭をスッキリさせようと冷蔵庫からキンキンに冷えたジンジャエールを取り出すと一気に飲み干した。

「おはよう、トニー。朝から大騒ぎね」

キッチンではヴィジョンとワンダがスープの味見をしていて、彼のお気に入りの座り心地の良い椅子にはピエトロが鎮座し、カートゥーンネットワークを占領しているところだった。

「おはよう、ピエトロ。その低俗な番組からいい加減卒業してくれないかね?」

彼はテーブルに置かれたリモコンを操作し、ニュースチャンネルへと変更する。

「おっさん、おはよ。子供の心を忘れないって大事だと思うぜ?」

相変わらピエトロの口は悪い。この私に向かって“おっさん”などと。
ついスティーブのように『Language!(言葉遣い)』言いそうになったのを彼はぐっと堪えた。――そうだ、私はまだ100歳のじいさんではない。

彼の横にある4人掛けのソファに座ると、ワンダがモーニングプレートをピエトロとトニーの元へと運んできてくれた。
良い香りが辺りに立ち込める。

「うまそ!」

カリカリのベーコンと目玉焼き、それにローストポテトが添えられた朝食に賛辞の言葉を述べたピエトロに、ワンダも「調子いいんだから。飲み物は自分で取ってきてよね」と返す。
トニーの前にもプレートを置いた彼女は、思い出したようにトニーに伝言を残した。

「さっき、キャプテンから連絡があったわ。今日の午後にバッキーとこっちに寄るって」

今日の2人はサムとの3人での任務の筈だ。場所はニューヨーク近郊。大げさな作戦じゃなかったから、早い時間に此処へ立ち寄るのだろう。
トニーの表情が固まったのに、ピエトロとワンダは顔を見合わせる。

「顔色が悪いけど、大丈夫?」

ワンダが彼を覗き込む。それは家族として純粋に心配をしている顔だった。

「…君は私に何か夢を…?」

恐る恐る尋ねたトニーに、彼女は何のことかと首を傾げる。

「馬鹿な人。そんな事するわけないじゃない」

実際、家族へ悪夢を見せて何が楽しいと言うのか(喧嘩したピエトロは別だろうが)、彼女の答えは真っ当な事だった。

「…そう、だよな…」

トニーは一人頷き、ヴィジョンが運んできたコンソメスープを胃に流し込む。小さめに刻まれた野菜が優しい味となってスープに溶け合い、少しだけ振られた黒コショウがピリリと全体を引き締めてくれて良いアクセントになっていた。ヴィジョンもワンダも、料理の腕はどんどん上達しているようでそろそろ朝食のパンも自作する日も近いだろうとトニーは予測する。

――偶然だ、全ては偶然なのだ。
今朝、妙な夢を見たのも、スティーブとバッキーが訪ねてくるのも。

彼は科学の申し子だ。“正夢”なんてありえないと一蹴出来るだろう。

けれど、彼にしては珍しく心の内に祈ったのだった。


『どうか、正夢ではありませんように!』




*END*

軍服にレースのヴェールとか完全に趣味~emoji
ってか想像以上にトニーが出張ってるwwwwwwただのオチ担当なんだけどな…

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