忍者ブログ
Serena*Mのあたまのなかみ。
アクマとスマイルのだらだら。






アクマが、傷害事件を起こして停学処分になったと風の噂で知った。
彼が荒れた理由は、僕には分からない。
でも、友人としては矢張り、心配だった。

彼と非公式な対外試合をしてから、その後。
駅前のシャッター通りを流していたらばったりとアクマと出くわした。
その顔は少し青白くやつれて見え、口には咥え煙草。
気になって声を掛けた。

「…アクマ?」

「おぅ、スマイルか」

部活帰りか?訊きながら、彼は煙草を靴底で揉み消す。

「今日は、休み。たまには僕だって息抜きしたいよ」

答えるとアクマは鼻で嘲笑い、付いて来いよ、と片手を挙げた。


連れられたのは裏通りの小さなジャズ喫茶。
紫煙の香りが強く漂い、制服の僕は酷く場違いだ。
慣れた手つきでマスターと挨拶を交わすと、アクマは奥のソファへどっかりと座る。
スキンヘッドと黒のジャージが、妙に薄暗い店内に似合って、少しだけ見とれてしまった。

「早く座れよ」

促され、向かいの一人掛けのイスに腰を下ろす。
年季の入ったその椅子は、スプリングが壊れているのかごわごわと居心地が悪くて、まるで今の僕のようだった。

鞄を隣に置いたところで、マスターがアイスコーヒーを2つ運んでくる。
端がぼろぼろになったコルクのコースターに、懐かしさを覚えた。

「…学校、いいの?」

僕は静かに切り出す。

「どぉせ停学期間だ。何処うろついたって変わりゃせんだろ」

ブラックのまま、アイスコーヒーを半分くらい空にしたアクマ。
対して僕はコーヒーフレッシュだけを入れて、ぐるぐるとストローで撹拌しているところだ。

「…」

此処で何か気の利いた言葉でも言えたら良かったんだろうけど、生憎僕はそんな風に愛想良く出来てはいなかった。

「… … …」

沈黙を破るように、アクマが語りだす。

「俺さ、アイツになれなかったよ」

広げた掌をしっかりと見据えて。

「…なれると、思ってたんだがなァ…」

そのまま、頭を抱える。



思い返せば、アクマの目標はいつだってペコで
同じラケットを使い、
戦型も同じで、
いつも同じラバーを貼っていた。


初めてペコに卓球を教えて貰ったあの日、アクマは「いつかアイツみてーになりてぇんだ」そう言って素振りをしたのを思い出す。


「スマイル、どっちのラケット使うべ?」

「種類があるの?」

「おうよ。
 こっちのラケットはな、オイラとおんなじでこーやって持つんよ。
 こっちのラケットはこーゆー風に持つ。」

「…じゃぁ僕、こっち」

「シェイクハンドか」

割り込んで来たアクマが言い放つ。

「…うん、ペコのラケットは僕の憧れだから。
 僕は違うラケットでいい」

「そっちの方が初心者には使いやすいぜ」

「ほーっ!卓球博士は言うことが違うねぇ!」

そう言って、ペコがアクマを追いかけ始めて、オババにゲンコツを喰らった事まで思い出してしまった。


「…今でも、ペコになりたいの」

僕はコーヒーを飲んで、尋ねる。

「いや。
 もう現実が分かる年齢になったからな。俺がアイツになれない事くらい、とうの昔から分かってたさ…」

語尾には、子供の頃のような強気なアクマは見えなくて、
それが大人になってしまった証拠なのだと妙に納得してしまった。

「オメェはどうなんだよ」

急に話題を振られて、僕はそっと視線を逸らす。

「…ペコはね、ずっと僕の憧れだよ。
 でも彼はもう…」

部活にも来ないし、繁華街でフラフラを遊んでいるのも知っていた。
卓球が大好きで、キラキラと輝いていたペコは、
もう――居ない。

「…あいつって、まだタムラには顔出してるのか?」

「だと、思うけど」

僕がコーヒーを飲み干すのと、アクマが立ち上がるのとほぼ同時だった。

「こうしてブラブラしてるだけでも腕が訛っちまうしよ。
 ちょっとタムラに顔出してくるわ」

会計伝票を掴んで、大股で歩くアクマを追いかける。

「自分の分くらい、出すよ」

振り返って、やっぱりニヤリと彼は笑うと2人分のお会計を終えて駅前に向かって歩き出した。

「卓球、がんばれよ」

そう、肩を叩かれて

「…暇つぶしだよ」

咄嗟に答えたけれど、彼は更に笑うだけだった。

「俺ぁ暇つぶしのプレイヤーにボロ負けしたのか!」


じゃぁな、と駅前のロータリーでアクマは煙草に火を着けて
僕も小さくさよなら、と手を振った。



きっと、もう彼と会うことも無いだろうし
ペコと卓球をする事も無いだろう。

「大人になるって、嫌だな」

見たくない事も見てしまうし、聞きたくない事も聞いてしまう。
途中、覗いたゲームセンターではペコがアーケードゲームに興じているのが見える。

「…さよなら、ペコ」

僕は独りごちて、家路に続く道を急いだ。



*FIN*

何が書きたかったのかと言うと、ペコになりたかったアクマと、ペコに憧れてるスマイル。
ってただそれだけなのね…

それで、この後のアクマの「血反吐吐くまで走りこめ、血便出るまで素振りしろ」に繋がれば良いなぁ、って妄想。

拍手

PR
 HOME | 91  89  88  87  86  85  84  83  82  81  80 
Admin / Write
What's NEW
PASSについては『はじめに』をご覧ください。
2025.07.09
 えすこーと UP
2025.06.27
 しかえし UP
2025.06.26
 ろてんぶろ UP
2025.06.23
 しーつ UP
2025.06.20
 ねっちゅうしょう UP
2025.06.17
 あくじき UP
2025.06.15
 しゃしん UP
2025.06.14
 ヒーロー情景者がヒーローの卵を手伝う話
 大人になったヒーロー情景者が現役ヒーローを手伝う話 UP
2025.06.12
 ていれ② UP
2025.06.10
 せきにん UP
2025.06.09
 よっぱらい UP
2025.05.28
 まんぞく UP
2025.05.27
 きすあんどくらい UP
2025.05.26
 もーにんぐるーてぃん UP
2025.05.23
 みせたくない UP
2025.05.21
 あい UP
2025.05.15
 サイズ UP
2025.05.13
 すいぞくかん UP
2025.05.12
 intentional gentleman UP
2025.05.09
 てんしのあかし
 considerate gentleman UP
2025.05.06
 新米ヒーローと仕事の話
 そんな男は止めておけ! UP
2025.04.27
 なつのあそび UP
2025.04.19
 はちみつ UP
2025.04.18
 ようつう UP
2025.04.16
 しつけ UP
2025.04.10
 へいねつ
 鮫イタSSまとめ UP
2025.04.08
 ヒーロー2人と買い物の話
 かいもの UP
2025.04.05
 こんいんかんけい UP
2025.04.04
 角飛SSまとめ⑦ UP
2025.04.03
 ゆうれい UP
2025.04.02
 汝 我らに安寧を与えん UP
2025.03.31
 どりょく UP
2025.03.29
 とれーにんぐ UP
2025.03.28
 しらこ UP
2025.03.26
 ティム・ドレイクの幸せで不幸せな1日
 あいのけもの 陸 UP
2025.03.25
 さんぱつ UP
2025.03.23
 けんこうきぐ UP
2025.03.21
 へんか UP
2025.03.20
 はな UP
2025.03.18
 こえ UP
2025.03.17
 こくはく UP
2025.03.15
 ぎもん UP
2025.03.14
 あめ UP
2025.03.12
 よだつか/オメガバ UP
2025.03.10
 あこがれ UP
2025.03.08
 おていれ UP
2025.03.07
 くちづけ UP
2025.03.06
 どきどき UP
2025.03.04
 たいかん② UP
2025.03.03
 たいかん UP
2025.03.01
 かおり UP
2025.02.28
 なまえ UP
2025.02.27
 さいふ UP
2025.02.26
 しらない UP
2025.02.24
 くちうつし UP
2025.02.21
 うそ UP
2025.02.20
 たばこ UP
2025.02.19
 よだつか R18習作 UP
2025.02.17
 きのこ UP
2025.02.15
 汝 指のわざなる天を見よ UP
2025.02.04
 角飛 24の日まとめ UP
since…2013.02.02
忍者ブログ [PR]