月明かりの夜に。

ちょっと乙女ペコ。
こんな筈じゃなかったんだ…（言い訳）

初秋のひやりとした風が薄く開けた窓の隙間から注ぐ。
りんりんと鈴虫の音が耳に響く、月がまだ南中に届かない頃。

「…なァ、スマイル」

狭いシングルのベッドで寝返りを打ってペコ。
スマイルは居心地が悪そうに少しだけ端に避けたが、それだけで反応は無かった。

「寝てるンか？」

スマイルの腕を伸ばして、無理矢理に腕枕の体裁を作る。薄闇の中、じっとスマイルを見つめる。
相変わらず微動だにしないまま、スマイルは呟いた。

「…寝てる」

眉間の皺がくっきり浮かんだから、それはまだ覚醒している証。
けれど、『寝てる』と云った答えにペコは酷く安堵した。

「ん、ならコレは寝言なンだな」

蹴飛ばした毛布を、器用に片足で引っ張って、今度は両足で挟み込むようにしてその位置を決める。

「…寝言」

スマイルの薄く筋肉の付いた腕に顔を埋めて、もう一度ペコが呟く。

「スマイル、寝てるかんな。
　これはオイラの独り言なんだけど」

ペコは丸まったまま、続ける。

「…オイラな、女の子に生まれたらって。
　何度か、思ったんよ」

スマイルの鼓動が早くなったのが、ペコにも伝わる。
ぴったりと腕に耳をくっつけていたから、脈拍が速くなったのが分かった。

「…そうしたンさ、オイラ、スマイルの子供も産めるし同じ性だって名乗れるし、一生一緒だって――」

その先のペコの言葉は、急に唇を重ねたスマイルによって聞く事は出来なかった。

「…結婚、なんて紙切れ1枚の事でしょ」

覆いかぶさったまま、唇だけを離してスマイル。
ペコは、突然の事に目を大きく見開いたまま。

「…ボクの、子供が欲しいの？」

普段は眼鏡に隠れた黒瞳が、今は鋭くペコを見据えて。

「でもね、ボクは君が欲しい…」

スマイルはもう一度、柔らかいペコの唇に齧り付くと少しだけ硬度を持った中心へと手を伸ばした。



その先、彼らが子供を身ごもったかは誰も知らない。



気付けば、真っ白な月が南中に昇っていた。


＊FIN＊