君に、おまじない。

ショタムラ組妄想。

もうすぐ試合が始まる、そんな時に限ってペコはふいっと何処かに消えてしまうので、それを探すのはいつもスマイルの仕事だった。
今も、試合の10分前になっても控え室に来ないのでスマイルは小さな足で館内を探し回る。

「ペコー？試合始まるよー」

「ペコー…」

体育館の裏側の、大会の大人の人が使う通用口のすぐ上にある非常階段にペコのゼッケンが見えた気がしたのでスマイルは真っ直ぐ駆け寄る。
声を掛けようとした矢先、ペコが何か呟いているのが聞こえたのでスマイルはそっと手を引っ込めた。


「…は勝つ。オイラは勝つ。オイラは勝つ…」


必勝のおまじないなのだろうか。
ペコはぶつぶつと何かを呟いている。
左手に大きく描いた一番星。それはペコのトレードマークでもあったし、試合の勝ち星も意味していた。

「！」

神妙な顔つきのペコがはっとこちらを振り向き、スマイルを見つけるといつもの笑顔を作る。

「なァ～ンだ、スマイルけ」

「…ペコ、何してたの」

試合、始まっちゃうよ。
そう言って出しっぱなしのポロシャツの裾を引っ張る。

「おまじない」

ペコは左手をスマイルに向ける。

「おまじない？」

「オイラは勝つ、って。
　お願いすると必ず勝てんさ」

右手に握られたマジックを見ると、どうもこの星も今描き足したようだった。

「…それなら…」

スマイルはペコのマジックを取ると、そっと☆の下に書き足す。



『泣かない』



「ちょ、スマイル！
　これじゃぁオイラが負けるみたいじゃんヨォ～！」

慌てて擦るペコだったが、それは油性マジック、思ったように消えなかった。

「違うよ。
　ペコが泣かないように、って僕からのおまじない」

試合で負けると、大泣きするのは知ってたから。
負けたペコじゃなくて、勝ったペコが見たいから――


「そうなんけ？」


首を傾げたペコに、こっくりとスマイルが頷く。

「だからさ、ペコ。
　次の試合も勝ってね」


彼の言葉に、ペコがとびきりの笑顔を作る。


「あったり前よ！」


「なーにが、あったり前だい！」


刹那、背後からオババの怒声が響く。
驚いて振り向くと、其処には鬼の形相のオババが立っていた。

「試合、放棄するつもりかい？！」

片眉だけを綺麗に吊り上げたその顔に、
二人で目配せして走り出す。


決勝戦まであと5分。

二人のおまじないが効いたか否かは、飾られたトロフィーだけが知っていた。



＊FIN＊