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Serena*Mのあたまのなかみ。
おてあてスマイル(ナース服)☆







それは、ある日曜日の午後。

突然、珍しくペコの携帯が鳴った。
着信は知らない番号。ただ、それが市内の番号だったから家電からなのはペコにも分かった。


アイスを食べる手を止めて、ペコは通話ボタンを押した。


「も~しも~~し?」

『…ペコ?』

「んッ、スマイルけ?!」


友人の家電の番号も知らないのかは、ペコのご愛敬。
なんせ、普段は携帯でやりとりしてるのだから、家電になんて掛けたことなんて無いのだ。


『…熱、出た…』

いつも抑揚の無いスマイルの声が、いつも以上に透き通って聴こえるのは携帯のスペックが上がった所為じゃないくらい、ペコにだって分かる。

「スマイルが、か?」

言いながら、しっかりアイスを口に頬り込んで出かける支度を始めた。
きっと、これは助けてほしい、そんなスマイルの精一杯のSOSなのだ。
付き合いの長いペコにはそれが良く分かった。

『…預かってる子供…』

金曜日の帰り道、スマイルが言っていた事を思い出す。
母が贔屓にしているのか、懇意にしているのか知らないが、その男性の子供を預かることになったのだと云う。
本人が面倒を見るのかと思いきや、面倒を見るのは息子で、当の本人は別のお相手と夜の街に消えるのだと。

「うへぇッ!」

『…救急車呼べばよかった…?』

ペコの驚き様に、スマイルは更に冷たい声になったのを、

「いやいやいやいやいや!」

ペコは必死に止める。

――熱で救急車なんてスマイルしてんなぁ…

「スマイル、お前ン家新聞取ってないか?」

『無い』

間髪入れずに、透き通った声。

「今日は日曜、普通の病院はやって無いんよ」

『救急車呼べば早いんじゃ…』

まだ、救急車にこだわるスマイルとぴしゃりと一蹴する。

「ダメだ。
救急病院は基本的にその場凌ぎの事しかしてくれないし、何より体調悪い時は動くのも辛い。
病院は明日連れてけ」

『…近所の病院で、いいの?』

「その方が親御さんが連れてけるから安心だろ。ホケンショーもあるしな」

保険証の言い方が微妙なのは、きっとペコ自身が保険証を理解していないからだ、とスマイルは思う。
でも、保険証が無いのは確かだったのでそれには素直に賛同した。

『…分かった、そう伝える』

「んじゃ、今から行くわ。」

アイスのゴミをゴミ箱に捨てて、ペコは携帯を置いた。

『…えっ、ペ――』

何かスマイルが言いかけたが、もはやペコの耳には届かない。

「おかーちゃーーん、ちょっとスマイルん家に行ってくる~~~~」

愛用のクロックスを突っ掛けて、ペコは自転車を漕ぎ出した。




***




ペコとの電話が切れた後、スマイルは棒立ちになっていた。

足元には、預かった子供が頬を赤くし、布団で苦しそうに呼吸を繰り返している。


――熱!


もう一度測ろうと、スマイルは子供を抱えた。


――看病と言っても、何をしたら良いのか分からない。


自分の母は、苦しい時、どうしてくれただろう。
思い出そうとしても、もやっとしたフィルターにかかった様で、上手く思い出せなかった。


思い出すのは――何も、無い。


子供の額に手を遣って、その熱さに、スマイルはまた何も考えられなくなった。



――どうしよう、どうしよう、どうしよう…





***



ペコは、スマイルの家に続く道を自転車で疾走しながら、途中、何かを思い出して、コンビニで冷えピタを買った。

――あの家に、米はあるのだろうか。
卵は…?
ついでに、適当におかゆのパックと、スポーツドリンクを買い込んで会計を済ませる。スマイルの料理の上手さは知っていたが、今は悠長に米を炊いてる暇は無いだろう。ペコは思って、ビニール袋を無造作に籠に乗せる。2Lのスポーツドリンクは、思ったより大きかった。

家に着き、玄関のチャイムを鳴らす。
いつもなら直ぐに扉が開くのに、今日に限っては全く開かない。
もう一度チャイムを押しても反応が無かったから、ドアノブを回すと、鍵は掛けて無かったらしくあまりに簡単にかちゃりと開いた。
長い廊下の先に、電気も付けず、ただ立ち尽くすスマイルの姿。
足元にはが見えるから、きっと子供はそこに…

「…何してん!」

ペコはクロックスを散らして駆け出す。
赤い顔をした子供が起きないように、小さく怒鳴ると、幾重にも着せられたパジャマと布団をひっぺがす。

「こんなに汗かかしたら余計に悪くなんぞ!」

額に濡れタオルも無かったので、コンビニの袋から冷えピタを取り出し、その小さな額に貼った。


固まったままのスマイルを無視して冷凍庫から氷を取り出すと、ビニールに詰めて即席の氷枕にして頭を乗せてやる。
(こんな時、しょっちゅうスマイルの家に出入りしているペコは何処にナニがあるのか分かるので行動が早かった)

目を開けた子供に、

「喉渇いてないか?」

聞いたら小さく頷いたのでスポーツドリンクをストローで飲ませてやる。
熱を測ったら、37.6度でら思ったより高い熱じゃないのに安心した。

「…何突っ立ってん」

やっと小さく寝息をたてた子供を確認して、ペコがスマイルを振り向く。
スマイルは、その場にへなへなと腰を下ろした。


「…看病なんて、された事無かった…分かんなかった…」


――そうだ、辛かった時はいつも布団で耐えてたんだ。
小さく、身体を丸めて。早く朝になりますように、お母さんが帰ってきますようにって。

「…そうか。
 でも、今ので分かっただろ?
 熱で汗かくから、パジャマはこまめに取り替える、氷枕で冷やす、飲み物を用意しとく…」

スマイルの目が大きく見開かれたままなのを見て、ペコは小さく笑って、そしてスマイルを抱きしめた。

「…スマイルも一生懸命、看病したんだよな。
 偉い、偉い」

そうして、よく母親が自分にしてくれたように、ゆっくりと頭を撫でる。

「…っ」

スマイルがペコの肩に顔を埋めて、小さく嗚咽を漏らす。

「怖かったな。
 もう大丈夫だ…」

ペコは弟たちにするように、スマイルの背中をぽんぽんと叩いた。

「…ペコ…」

少しだけ涙に濡れた黒瞳をペコに向ける。

ペコが静かに目を閉じ、スマイルが引き寄せた――刹那、

『♪ ♪ ♪』

リビングの電話が小気味よい音を立てる。
慌ててスマイルが電話に出ると、それは酒に酔った母からでもうすぐ帰ると言っていた。

少しだけ乱暴に受話器を置いて、お預けを喰らった顔でペコを見遣る。

「かーちゃん?」

「…そう、これから帰ってくるって」

「良かったな、ボーズ。父ちゃん帰ってくるってよ」

ペコは寝息を立てる子供にそっと囁き、首元の汗を拭ってやった。

「…ねぇ、ペコ」

――母親はろくでも無い人で、家族なんて分からないモノだと思ってたけど。

「…家族って、良いね」

心配して、お節介で。

へへっ、とペコが上機嫌で鼻を掻いたから、
どうにも愛しくなってスマイルは額に口付けた。


「子供の前!」


睨んだペコに、そっとデコピンをする。

「なんで?さっき自分だってキスしたがってた癖に」

少しだけ意地悪く言うと、ペコはもう知らん!と買ってきたビニール袋からポテトチップスを取り出してばりばりと食べ始めた。
きっと、この音で子供が起きるのも時間の問題だろう。

ねぇ、僕らが家族になるのならどっちがパパでどっちがママ?
帰ってきた母とその相手に出そうと、紅茶の支度を始めたところで玄関のノブががちゃりと回った。


そんな、日曜のある日の話――




*FIN*

実は別ネタで書いてたのを変えただけ…(汗)

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