PK5

Pecoに
Kissする
5秒前。

それは、放課後の体育館。
新しい公式球の感触を試したいと、ペコと打ち合いをしていたら
気付いたら体育館には誰も居なくて、足元の小窓から真っ赤な夕陽が少しだけ覗き込む時間になっていた。
もちろん、高い窓は群青色。夏が終わって、秋が迫っているのが分かる。

卓球台を片付ける時に、ペコと手が触れ合った。
折りたたんだ卓球台を挟んで、彼との距離は30センチメートル。

「…ごめん」

ペコと触れた掌に、電流が走って僕は瞳を伏せる。

「いンや」

気にすンな、ペコはひらりと手を振って卓球台を押し出す。
俯いた睫が長くて、それはまるで女の子のよう。口元から伸びたチュッパチャップスの白い棒が魅惑的だ。

「ねぇ」

僕は彼の顎に手を掛ける。
上向きに引き寄せて、そして――








「で？」

シャープペンシルを器用にくるくると回しながらペコ。
此処は僕の家で、夏休みの課題を一緒に仕上げているところだった（正式には僕の答えをペコが写している状態だったけれども）。

「え？
　それで、おしまい。目が覚めたよ」

それは、僕が今朝見た夢の話で、たまたまどんな夢を見るのか、って話になったから少しだけ話しただけだった。

夢、と言うのは脳の処理を垣間見てしまったものであり、現実に起こったことでないと脳がその情報を処理できずに覚醒してしまうのだと言う。
（良い例が子供の頃に見た、おっきなケーキの夢。一口食べようとして目が覚めるのはそんなケーキを食べたことも無いから、らしい。）

「前さ、スマイル言ってたろ？」

ペコがペンを置いてテーブルに乗り出す。

「…な、何が」

僕は驚いて、少しだけ顔を逸らした。

「経験が無いから、目が覚めるんだって」

瞳を閉じて、少しだけ唇を尖らせたペコが何を求めているのか僕にも分かって、
初めて、がこんな形になるのは少しだけ不本意ではあったけど、断る理由も思いつかなかったから、
僕も眼鏡を外して、テーブルに身を乗り出した。







うん。
きっと今度見る夢はこの先まで、目覚めない。


＊FIN＊