ヤスミジカン×○○系ダンシ

お昼休みの終わった後の、気だるい空気が好き。
5時限目と6時限目のぼやーっとした10分休みの空気が好き。

「そーしょくけーだんし？」

5時限目と6時限目の10分休み、わざわざ前の席から窓際のスマイルの席まで来て、ペコは素っ頓狂な声を上げた。

「…草食系男子。
　声が大きいよペコ」

ほんの1時間くらい前にお弁当を食べて、そして板チョコレートも食べたと言うのにペコは制服のポケットからハイチュウを取り出してチューインガムのように口の中で噛み合わせるペコに、スマイルはうんざりしながら読みかけの雑誌を閉じた。

「それってなんジャロ？」

もう一つ銀色の包み紙を剥がして口の中に放り込むペコの口から、甘ったるい青りんごの匂いが漂う。

「…積極的に、女の子に声を掛けたりしない男子のことなんじゃないの。
　少なくとも、あんまり恋愛に興味のあるタイプでは無さそうだよ」

聞きかじりの言葉ではあったけれど、全く見知らぬ単語でも無かったから、スマイルはそう返した。

「お前みたいなんけ？」

ちょこん、と机の端に顔だけ乗っけてペコは首を傾げる。

「…そうかもね」

迸るペコへの熱い欲情は一切表に出さず、あくまで冷静にスマイルは言い放った。

「オイラ、女の子好きよ」

教室の隅で盛り上がる女子グループに、ひらひらと手を振ってペコ。
気付いた彼女たちも笑いながらペコに手を振り返した。

いつだって、ペコは人の輪の中に居る。

彼女たちに、軽く嫉妬を覚えながらスマイルは続けた。

「ペコはさ、砂糖系男子だね」

「さとう？
　佐藤ならあっち」

廊下側の席に座るクラスメイトを指差してペコ。彼の苗字は佐藤だった。

「違うよ。
　シュガー、の方の砂糖」

シュガー、の所だけ思い切り発音良く言って返す。
意味が分からないと云う風に頭を振ったペコに更に続けた。

「ペコはね、いつも甘い匂いがする」

さっき食べたチョコレートの匂い、今食べてるハイチュウの匂い。
ポケットに入れた、ミルキーの匂い…
その甘美な香りにペコ自身の甘い香りを含んでいる事は、スマイルは黙っておいた。
変わりに、真顔で付け足しておく。

「そのうち、糖尿になるよ」

「分かってらい」

心底面倒くさそうにペコは手を振ると、立ち上がって先の女子のところへと行ってしまった。

「ハイチュウ食う？」

その行動が糖尿にならない為に他の人へ分け与えるのか、
単に女子と話すキッカケにしたかったのか、
それはスマイルにも分からない。

ペコとクラスメイトが大きく笑い転げたところで、6時限目を告げる本鈴が鳴った。

次の科目は、必修の化学。
砂糖の化学式でも作ってみようか。
スマイルはシャープペンを取り出して、さらさらと式を書き始めた――


＊FIN＊