Serena*Mのあたまのなかみ。
雄スマイル!
と意気込んだ割に唯のヘタレスマイル。
と意気込んだ割に唯のヘタレスマイル。
本当は、君が1番好きなのは僕だって誇示したい。
ヒーローは僕だけもの。
僕だけの、ヒーロー。
***
高校3年生の夏休み。
インターハイも終えて、僕は本格的に予備校に通いだし
ペコは部活に顔を出したり、タムラで打ち込んだり。
そんな、毎日。
僕の予備校は午後からの授業が中心。
家のエアコンが自由に使えると教えたら、その日から毎日ペコが来るようになった。
「ペコ、その数式間違ってるよ。πのところ」
1人で宿題を片付けたって、それが2人に増えても動作は別に変らなかった。
「ココ?」
「違う、その下」
ペン先で軽く示して、僕は自分の課題に取りかかる。
ペコはあまり乗り気がしないようで、えんぴつを鼻の下に挟んでずっと変な顔で教科書とにらめっこしたままだった。
「んー
なんで教科書と違うんデスカー。
ペコさんはそーゆーの、苦手デース」
「応用力が無いってことだよ、それ」
「それでいいデース」
もう、ペコは完全に宿題に飽きたようだ。
…仕方無いなぁ。
思いながら、教科書を引き寄せ、限りなく答えに近い数式を書き加える。
答えを書かないのは、僕なりの優しさだと思って欲しい。
「…これで、解いてみて。」
「あんがとっスマイル!」
ペコは跳ねるように言うと、ノートに計算をし始めた。
「愛してんよ」
ちゅっ、と唇をすぼめて上目づかい。
――純情な僕にはそれはとても扇情的な動作で、そしていて嗜虐したくもなった。
「僕も。愛してるよペコ」
ペンを置いてじっと見つめると、彼は上機嫌に笑った。
「オイラたち、両思いなんね!」
そう、僕はペコが好きだ。
ペコの想う、友達的なLIKEではなく性的な意味で好きだ。
けれど、愛してるを多用する彼にそれは伝わらない。
ずっと、ずっと、優しく。
甘く彼に接したのは僕に懐いていて欲しかったし、誰にも渡したくなかったから。
わたあめのように優しく、甘く包んで
そのまま食べてしまえばずっとずっと楽なのに。
「…スマイル?」
俯いた僕に、ペコが首を傾げる。
「両思いなんだったら、キス…しようか」
ただでさえ、ペコの瞳は大きいのに。
僕の一言によってそれは更に大きく見開かれた。
「…へっ?」
「キス。接吻。ベーゼだよ。」
英語、日本語、ドイツ語。
言葉は違えど、行為の意味は同じ。
「だってペコは僕のこと、愛してるんでしょ?」
「…そ、それは…」
ペコの視線がゆらゆらと動く。
そして何かに気づいたように叫んだ。
「あっスマイル!
ヨビコーの時間だぞ!!」
僕の背後を指さして。
僕は、その手首を掴んで引き寄せた。
テーブルに高く積み上げた、参考書が落ちる。
ノートと教科書がガサガサ鳴った。
「!」
身を乗り出した形のペコに、強引に自分の唇を重ねる。
それは、たまに屋上でする子供のおままごとのような短いものではなくて
彼の口をこじ開けて
その形の良い歯並びをなぞって
舌を強引に絡めて唾液を呑み込む、
そんな背伸びしたキスだった。
唇を離して、そして瞬時に走る左頬の痛み。
この痛みには覚えがあった。
『眼鏡の上から叩くなんて、非常識だ』
目の前に居るのは、潤んだ瞳で真っ赤になって震える友人。
「…っ、~~~~~!」
ペコは声にならない声で、そう僕を罵倒すると教科書もノートもそのままに玄関に駆け出した。
乱暴にドアが閉まる音がして、
「は、…は… …」
少しだけずれた眼鏡の淵から、涙が零れた。
***
出来ることならずっと。
ヒーローは強く美しくあって欲しい。
もし汚すことが出来るのならば、
それは僕でありたい――
***
夏休みが明けても、僕たちの関係はぎくしゃくしたままだった。
いや。
傍から見たら変わらなかったのかもしれない。
僕は学校帰りに予備校に行ってしまうし、ペコはタムラに直行だったから。
そろそろマフラー出そうかな、思ってた頃に。
「帰り、タムラ行くべ」
ペコが小さく呟いた。
「久しぶりだねぇ、スマイル」
タムラの敷居を跨ぐと懐かしい、オババの声。
「オババ、奥、借りんよ」
ペコは真っ直ぐに一番奥の台へ向かう。
ずんずん進むペコを見遣って、オババがこそりと訊いた。
「…アンタたち、なんかあったのかい?
夏休み後半から、ペコはあんな調子だ」
「…ちょっと、ね。」
喧嘩したんだ、そう言うとオババは驚いたように首を振った。
「そうかい。
なら、早く仲直りをし」
「勝負だ、スマイル」
利き腕の、右手を真っ直ぐに伸ばして。
『異議あり!』
それは、携帯配信された無料ゲームの若手弁護士と同じポーズだった。
「…ペコの勝ちだよ。
だから勝負はナシだ」
「いいから、オイラと勝負すんよ!!!!」
有無を言わさず、サーブの構えをしたペコに慌てて僕もラケットを構えた。
――卓球なんて、唯の暇つぶしだ。
でも、この試合前の高揚は嫌いじゃなかった。
高く、ボールが跳ねてペコのサーブが唸る。
それは、2年のあの頃のものよりずっと鋭く、そして美しかった。
やっとの思いで球を打ち返すと、鋭く跳ね返ってくる。
それにはペコの想いが渦巻いていた。
畏れ、哀しみ、そして恋慕。
子供の頃から、僕を1番理解してくれたのはペコだった。
その彼が今、悩んでいる。
打ち返すのに、精一杯だったけれど
押されるだけのその試合に、
僕は精一杯の想いを乗せた。
ごめんね、ペコ。
だけど、もう嘘は吐けないんだ。
それは、試合と云うより激しいラリーだったのかもしれない。
気づけば汗だくで、
渾身の一撃を僕は返せなかった。
かん、たん、たたた…と球の乾いた音が響く。
「いい球だ、ペコ」
オババが、壁際に落ちたボールを拾う。
「…話し合いは、終わったのかい」
ペコが、右手を差し出す。
条件反射で握り返すと、彼は直角に頭を下げた。
「…叩いて、ごめん」
僕は首を振った。
「僕こそ、ごめんね」
君の気持を大事に出来なかった。
ずっと、ずっと知っていたけれど。
だから、顔をあげて。
久しぶりに見たペコの顔は、あの頃とやっぱり変わらなくて。
だけどちょっとだけ大人びて見えた。
***
予備校をサボって、卓球を死ぬほど疲れるほどして。
星の瞬く帰り道、ペコから「オイラも、スマイルが好き」
その言葉を貰って。
この星の一等賞だと、歓喜した。
「でも、チューの先はまだ待っててくんろ」
少しだけ恥ずかしそうに言ったペコは、
そう、僕だけももの。
*FIN*
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