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Serena*Mのあたまのなかみ。

高校3年の初冬。
喧嘩して、仲直りしたあとの話。








本格的な冬になる前の11月。
来週からテストで、学年全体がちょっとだけピリピリしてた。
最近は休みの日も予備校があって、ペコとは暫く卓球もしてない。

なんだか息抜きがしたくなって、僕はタムラに向かうペコを捉まえた。

「ペコ、明日空いてる?」

誘ったのは、いつものタムラでもなく、駄菓子屋やコンビニでもなく、隣の市に出来た大きなショッピングモールだった。

「明日の11時に、駅で」

手短に言うと、ペコは大きく頷いて、そしてタムラへの道を駆けて行った。
――ついこの間まで、あの後姿を追いかけていたのに。

僕は、反対方向、駅前にある予備校へと歩いた。




***



よく考えたら、ペコとずっと一緒に居るのはいつも学校と部活ばかりで、
あまり私服のペコは見たことが無い気がする(小学校は別ね。制服、無いし)。


モノにも、ヒトにも頓着しない自分だったけど、
その日はクローゼットの上から下まで何度もかき回して洋服のコーディネートを思案した。



***


「おはよーっす」

「おはよう、ペコ」

きっかり約束の11時に駅に行くと、自販機の前でペコが片手を上げた。

見慣れたナイキのシューズに、膝小僧が隠れるハーフパンツ。
薄いグレーのパーカーにはもこもこのボアが付いている。
その上から、白いロングのマフラーがぐるぐる巻きになって、
ペコの頭が若干、埋もれていた。

「…そんなに、寒い?」

僕の出で立ちは、パイピングの入った紺のジャケットに、
柔らかい綿パン。
マフラーを巻こうか考えたけど、電車の中は暑いと思って止めた。

「なんでスマイルはそんな薄着で平気なんよ」

「脚、出して無いからじゃない?」

そう言って、券売機に並ぶ。

「ひでェの」

ペコはチュッパチャップスを咥え直すと僕の隣に並んだ。

「…なんかさ、ガッコ以外で会うのって緊張すんね」

「…タムラと変わらないんじゃないの」

平静を装って言ったつもりだけど、ちょっと声が上ずってしまったのはバレてないだろうか。
きっと、君以上に僕の心臓はドキドキしてる。



***



電車に乗って30分。
それから歩いて5分。

大きなショッピングモールは、大きさに見合ったフードコートと
中にゲームセンターや映画館も兼ね備えていて、
1日で全部のお店を巡るのは到底無理なんじゃないかと思う広さだった。

入り口のインフォメーションで案内図を貰い、これからの予定を立てる。
ペコはあっちへ行ったり、こっちへ行ったりきょろきょろと忙しい。

「何処か行きたいところ、ある?」

「卓球場は無いんか?」

「ボーリング場ならあるみたいだけど…
 スポーツ用品店?」

「んじゃぁ、そこ行く」

ペコはいつだって卓球バカで、
わざわざ此処まで来て全国チェーンのスポーツ用品店を見るのもどうかと思ったけど
結局僕は嬉々として彼に従ってしまう。

「いいよ、こっち」

地図を片手に、僕はペコを引っ張った。



***



スポーツ用品店を流し見て、その後フードコートでご飯を食べて。
ゲーゼンのクレーンゲームを眺めていたら、ポツリとペコが呟いた。

「…こーゆーのって、デートみたいだな」

頬が熱くなるのが分かる。

きししし、とペコが僕を覗き込んだ。

「照れてら!」

「照れてない!」

そう言ってそっぽを向く。

いつだって、ペコは僕の感情を言い当てるのだ。
親ですら「表情の乏しい子だ」と言った記憶がある。

昔、ペコが言っていた。

『スマイルは、ちょっとだけ顔に出すのが下手なだけなんよ。
 嬉しい、も嫌だ、も。それはみんなと変わらないんよ』

まだ、僕が小学生で掃除当番を押し付けられていた時のことだ。
その言葉が、ずっと忘れられない。


「ダァ~~リン、あのぬいぐるみが欲しいっちゃ~~」

おどけて、ペコが向こうのぬいぐるみを指差す。
それは、去年公開された口の悪い熊の映画のぬいぐるみだった。

「…いいよ。取ってあげる。
 その代わり、またデートしてね」

ペコの顔が上気する。
本当、人には言うのに鈍いんだから。


そうして僕は、一抱えはあるぬいぐるみをペコに渡した。
――アームの調子さえ掴めれば、こういった物を取るのは容易い。



***



帰りの電車、大きな熊のぬいぐるみを抱きしめて
僕の肩に頭を預けてペコは気持ち良さそうな寝息を立てている。

窓から差し込む光はオレンジ色。
また明日から、制服に身を包んだ日常が始まる。

「…ねぇ、ペコ」

「…?」

小声で呟いたつもりだったけど、ペコはそれに気付き寝ぼけ眼を僕に向けた。

「ペコはさ、あったかいね」

ふぁ、と欠伸をしてペコが答える。

「オイラがこども体温って言いたいのかスマイル?」

「…違うよ。
 心が、って言うのかな。ペコと居るとほっとする」

「オイラも楽しいよ。
 スマイルと居ると会話も弾むしね」

ずり落ちた熊を抱えなおして、ペコはまた頭を預ける。
何度か肩に擦り付けて、ようやく良い位置を見つけたようだ。

「うん、高さもちょうどいい。
 そのままで居てくんろ」

閉じた瞼には長い睫。

「…うん」

僕も言うと目を閉じた。



僕らの住む駅まで、あと3つ。
こうして、君の体温を楽しもう。



*FIN*

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