オチも何も無い、ただの日常。
「ねぇ、ペコはさ…卓球以外には興味ないの?」
ストレッチをしながら、スマイルが唐突に尋ねる。
「ん~?
今週の新作のお菓子は何かなぁ、とかは考えてるんよ?」
一体何処から買ってくるのだろう、アメリカの映画に出てきそうな大きな棒付きキャンディを舐めながらペコ。
「…そうだね」
――本当は、そんな意味じゃなかったんだけど。
言いかけた言葉を飲み込んで、スマイルはペコのキャンディを取り上げた。
「返してくんろ!」
「危ないよ、ペコ。
ちゃんとストレッチしたら、返すから」
しぶしぶ、柔軟を始めたペコに「おぉい星野~ちゃんとやれ~」そんなキャプテン・太田の声がのんびり響いた。
夏の前の高総体から3ヶ月。
季節は本格的に夏になり、ペコのガリガリ君消費量も増えた。
「やっぱりガリガリ君はソーダ味だよな」
そう云いながら歩くペコの手には【ガリガリ君 ナポリタン味】
「ナポリタンなら最初っからスパゲッティ食べるっつーの」
「…なのに、買ったのは誰?」
傍らで呟くスマイルの手には【ガリガリ君 クリームシチュー味】
「おいら!」
大威張りで云うペコに、スマイルはため息を漏らし、
「早く食べちゃってよ。
僕のもあげるから…」
そう続けた。
蕩けるような気温、このガリガリ君も今まで見たことのないスピードで溶け始めていた。
「なんだかお子様ランチみたいなガリガリ君デスネ」
ペコは云うと、持ったナポリタンを食べ始める。
直後、
「キターーーーー!!!!」
しゃがみこんで、頭を抱えた。
自由奔放な友人を追い越しながら、スマイルはクリームシチューを小さく齧る。
乳製品であるクリームシチューに砂糖を入れたら、アイスと同じように美味しくなっても構わない筈なのに、今齧ってる其れはコショウの味と、微かに塩味もして「自分はクリームシチューである」と主張をしていた。
やっとのことで半分まで胃に収めると、傍らのペコへと無言で差し出す。
「辛いッスよダンナぁ~」
ひらりと交わそうとしたが、スマイルにそれが通用する筈もなくペコは仕方なく残りのシチュー味を食べ始めた。
「間接チュ~だな、これ」
冷たさに慣れてしまったのか、先ほどのナポリタン味に比べると随分早いペースでシチュー味を齧り始める。
「…そうだね」
「あっ、別にオイラとチューしても嬉しくないって思ったろ!」
「別に、何も…」
ふいっと、視線を外すスマイルにペコはぷっくりと顔を膨らませた。
「スマイルはオイラのこと嫌いか?」
そっぽを向いたスマイルを、覗き込むようにしてペコ。
逆光で表情は読めなかったが、笑顔では無いのは確かだ。
「そんな事、言ってないでしょ」
いつものこと、と受け流すようにぽんぽんと頭を撫でるとペコが小さく呟く。
「スマイルのこと、オイラ愛してるんよ」
「どんぶり一杯?」
間髪入れずにスマイル。
「オイラのどんぶりはオババのよりうんと大きいんよ」
「じゃぁ、僕もペコのことどんぶり一杯愛してるよ」
――ほら、ガリガリ君溶けちゃう。
ペコの左手の溶けかかったガリガリ君を丁寧に舐め上げて、そのままペコに口付けた。
甘くて、しょっぱい変な味。
「…スマイル!」
ペコの顔がちょっとだけ赤くなったのは、さっき食べたナポリタン味の所為?
「やっぱり、ガリガリ君はソーダ味が良いね」
言うと、ペコも頷いた。
「うん、勝った方が帰りにソーダ味な!」
言うな否や、駆け出すペコ。
「フライングだよ、ペコ!」
慌てて、スマイルも駆け出した。
タムラまで、走れば5分。
今日も、アツがナツい。
*FIN*