脳内BGMがユーミンの『春よ、来い』
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日差しが強くなって、白の都が一層と輝く。
太陽も高い位置に昇り、もうすぐ夏になる事を告げていた。
「また、貴方はそうやって…」
書類を投げ出して、パイプ草を蒸かしていたら生真面目な執政に咎められた。
「公共工事の書類にはサインして貰えましたか？
それと、ローハンとの条約についても…」
視線を書類へと遣ると、彼は大きくため息を吐く。
持ってきたトレイを無造作に置き、書類の塔へと近づく。
私は彼の持ってきたトレイからクッキーを一枚頂くと齧った。
思ったより崩れやすかったそれは、ポロポロと服に落ちてしまった。
「…！
まったく、貴方は！」
子供のように！
と、執政は続けて服に付いたクッキーを丁寧に払う。
ついでに、口の端に付いたのも拭おうとして来たので、それはキスで応戦してやった。
執政の髭にもクッキーを付けてやって、私は満足だ。
ニッコリと笑うと、頬を赤らめてドカドカとまた部屋を出ていってしまった。
何時まで経っても初々しい反応をするから、こうして揶揄いたくなってしまうのだよ。
半分に残ったクッキーを一口で頬張ると、私は真面目に書類を整理しようと腰かけた。
実は、書類に目を通してあるが印は押していない。
何故なら、執政がこの部屋にやってくるから。
あくびを一つ噛み殺して、私はやっと印に手を伸ばした。
＊＊＊
目が覚めると、そこは見慣れた執務室。
目の前には書類が塔になっている。
あぁ、転寝してしまったか。
夢の続きを思って、紅茶に手を伸ばすが
其処トレイは無く、口に付いていた筈のクッキーの欠片も無かった。
そうだ、夢だったのだ――
訪れる虚無感。
私は夢の中でも国王であり、現実でも国王であったが、執政の存在は違っていた。
「あぁ、こちらにおられましたか！」
まだうら若き執政がこちらへ駆け寄ってくる。
「お願いしていた書類には目を通して頂けましたか？」
重そうな本を抱えた彼に、あぁ、と頷く。
「後で取りに来てくれ。
その本が重そうだから」
「有難うございます、すぐに参ります！」
彼は笑うと、会釈してまた廊下を早足で行ってしまった。
笑顔が、兄とよく似ている。
一生懸命なところも。
この国を愛しているところも。
執務室に飾られた角笛に触れて、やっと彼を失ったことを理解するのだった。
夢の中でしたように、パイプ草を蒸かす。
いつもの場所は、大きく張り出した窓の傍。
夢で夏だった風景は、現実世界はまだ春の到来を待っている頃だった。
それでも、調子っぱずれな小鳥が鳴き、小さな花が咲き始める。
「…お前の愛した国を、私は愛するよ、ボロミア。
君に、胸を張って生きていけるように」
眼下に広がる、景色を見て呟いた。
「お待たせ致しました！
休憩を、と思ってこちらを…」
夢の中で執政がしたように、彼の弟もトレイにお菓子を紅茶を載せてやってきたから。
「そうだな、ちょっと休憩をしようか」
私は彼に、兄の話なんかを聞いてみようと心に決めた。
幾つの春を越えれば、君と笑顔で話せるだろう。
私は未だ、君の幻影を追いかけている――
＊FIN＊
