Serena*Mのあたまのなかみ。
やっすい値段で売ってる変な飲み物はいつも怖くて買えないけど、ペコは率先して買いそうだよな、って話。
嘘。
雨に濡れるペコ、唯其れだけ。
嘘。
雨に濡れるペコ、唯其れだけ。
このまま温暖化が進むと、いずれ南極の氷が解けてしまうだろう。
と、今朝のニュースで南極の氷の研究をしていると言う学者が言っていた。
多分、それは当たっているのだろう。
毎日茹だるように暑く、夜ですら気温は下がらなかった。
「このまんまじゃ日本ジャングル計画じゃんね?」
5時限目と6時限目の10分休憩。
少しでも涼を取ろうとベランダに出た途端、生温い風が頬を撫で、遠く雷鳴が鳴った。
刹那、大粒の雨が地面を濡らす。
激しさに霞のようにけぶる雨に、早々に教室に退散した次第だった。
そして、だらしなくスマイルの背中に覆いかぶさったまま言ったペコの言葉が上の台詞だ。
「…重いんだけど。しかも暑いし」
随分と机との距離を縮めたスマイルだったが、机の下ではしっかりとルービックキューブに興じていた。
「オイラ、こども体温だかんね。
スマイル冷たくて気持ちいいんよ」
「それって僕が低体温って言いたいの?」
ぐっと力を込めて、背筋を伸ばす。
「ぅわゎわ!」
背中のペコがずり落ちたのが分かる。
「そんな事言って無いじゃんよ~」
落ちるときにぶつけたのだろう、頭を摩りながらペコが机に顎を乗せた。
「ベコがあったかすぎるんだよ」
「冬は人間湯たんぽなんだぜィ」
…その割には、マフラーやら耳あてやらでモッコモコだけどね。
と、ツッコミは心の中だけにしてスマイルはやれやれと首を振った。
「…雨、止むといいね」
「そうだな」
6時間目のチャイムが鳴る。
ペコは手を振ると、前方の自分の席へと戻っていった。
窓の外では勢いは衰えたものの、未だ雨が降り続いている。
***
授業の途中、外を見ると雨は止み
遠くに虹が掛かっているのが見えた。
ペコはこっくりこっくりと船を漕ぎ、
社会の先生に教科書で起こされている。
また、煩く蝉が鳴きだした。
***
部活を早めに切り上げ、タムラに向かう途中にまた、嫌な風が吹いた。
「…行こう、ペコ」
そう、スマイルがペコの手を引っ張ったが彼はがんとして動かない。
此処は自販機の前。
「なぁ、スマイル。
シュワッと爽やか真夏のラムネ味と、ハイパービリビリサイダーとどっちが美味しいと思う?」
彼はこれから買う飲み物で悩んでいるようだった。
「…どっちだって同じでしょ」
向こうに見える、黒い雲を注視しながらスマイルは言ったがまだ彼は悩んでいるようだ。
ぶつぶつと甘そうな飲み物を連呼している。
「よし!決めた!
パティシエの作ったミルキーいちごサイダーにすんよ!!」
ペコでは無いが、最近の飲料業界も迷走していると思う。
スマイルの頬に冷たい何かが当たる。
…雨?
そう思った時には、すでにぽつぽつとアスファルトに水玉模様が出来始めていた。
「ペコ、急がないと…」
嬉々として自販機からその【いちごサイダー】を取り出すペコを引っ張る。
「一口だけ~~」
その言葉に負けて、その一口を待ったらあっと言う間にずぶ濡れになってしまった。
「スマイル、ごめんちょ…」
取りあえず駆け込んだ、コンビニの軒下で悲しそうに、ペコ。
伏せた睫毛が雨に濡れて、そして雨で素肌に張り付いたシャツが寒々しかった。
それからタムラまで全力で走り、そしてオババに落胆される。
「何やってんだい、アンタたち」
床、濡らさないでおくれよ。
言われて、タオルを投げられる。
「オババ~制服乾かしてくれろ~」
ペコがボタンを外すのと、スマイルが止めるのとほぼ同時だった。
「だ、ダメだよペコ!」
「???」
オババがニヤニヤした顔でタバコを蒸かす。
「…か、替えの服も無いし…」
「Tシャツ持ってるんよ」
「下…」
「う~濡れて気持ち悪いから早く乾かしたいんよ~~」
うなだれたスマイルがオババに視線を投げると、彼女は心底楽しそうに笑った。
「笑った顔は見ないけどね、困った顔はよくするようになった」
カウンターをがさがさと漁って、しわくちゃになったジャージを投げる。
「それでも履いてな。ちゃんと洗濯して返すんだよ」
「オババー!愛してんぜっ!!」
「おうおう、アタシもだ。
愛してるついでにその濡れた床も拭いとくれ」
今度、投げられたのは雑巾。
「スマイル、アンタも着替えないと風邪ひくよ」
「…上だけで、いい…」
小さくスマイルは言うと、ペコと一緒に卓球場の隅で着替えた。
制服が乾くまで、ペコは小学生相手に卓球の勝負をし、
スマイルはルービックキューブをぐるぐる回す。
「なんだ、今日はあんまり身が入ってないね」
いつの間にかオババが隣に立っていた。
「…別に」
「暇つぶし、かい?」
「そんな事…」
ルービックキューブに身が入っていないのは確かだった。
スマイルの脳裏に、雨に濡れたペコが焼きついて離れない。
「アンタも難儀な性格なだねェ」
ふーっと気持ちよく紫煙を吐き出すと、あったかいお茶でも淹れてやるよ、とオババが手を振った。
一瞬だけの大雨を、最近のニュースでは【ゲリラ豪雨】と説明していた。
雨なんて、面倒なだけだと思っていたけれどあんなペコが見られるのならゲリラ豪雨も悪くないな、と霧雨になった外を見遣りながらスマイルはぼんやり、ルービックキューブを回した。
――虹はまだ、見えてない。
*FIN*
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