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バットマンシリーズ/ジェイディク

駒鳥が兄弟な俺アースで、
ディックが独りでご飯を食べるのが嫌がる話。
珍しく本人視点。

あと独りでご飯を食べたくないからビッ（略）

まるで子供だ、って思うかもしれないけれど。
僕は一人でご飯を食べるのが苦手だった。

子供の頃にサーカスのみんなと大勢で食べる事が当たり前だったから、誰かと食事を囲むのが普通で
一人のご飯は味気なくて好きじゃなかった。

大皿に盛られた山盛りの料理を誰かに頼んで取ってもらって
僕の前に置かれた塩を頼まれた誰かに手渡して
苦手な野菜を会話のついでに相手のお皿に追いやって
なみなみと注がれたオレンジジュースを好きなだけ飲んだのが
――僕の食事の思い出だった。

僕はもう良い大人の年齢で
一人の食事にも慣れた筈だったのだけれど
今日のような薄曇りの、雨が降りそうな日は、なんだか一人で居るのが寂しくて。

つい、“一緒に過ごせる誰か”を求めて出歩いてしまう。

気の早いネオンの灯ったダイナーのドアを開けて、僕はカウンターの真ん中に位置を取る。

お店の真ん中、一番騒がしいところ。
其処が一番“食事”らしくて安心出来る。

差し出されたメニューからお勧めを聞いて、それをそのまま注文する。

窓の外は群青が広がっていて、気の早い一番星が輝き始めていた。
出された度数の少ない甘いカクテルを胃に流しこんで、僕は家族にメッセージを送る。

『これからご飯を食べない？』

一番に返ってきたのはティムからで

『ごめんね、ディック！
　ハイスクールの課題が終わってからだから、2時間くらい後になるけど』

彼は電子工学の専門校に通っていて、いつも難しそうな分厚い辞書とモニターを睨めっこしていたから容易にその姿が目に浮かぶ。

『勉強の邪魔してごめんね。課題、頑張って』

僕は短く返す。

次に返信があったのはダミアンで、短く

『予定がある』

とだけ返ってきた。
無骨なところは父さんそっくりで、なんだか笑ってしまう。

『ごめんね、急に』

返信したところで頼んだサンドイッチのセットが運ばれてくる。
こんがり焼いたパンにレタスとターキー、目玉焼きとツナが挟んであるそれはお店の看板商品らしくて
トマトの赤も綺麗だったし、添えられたピクルスとオリーブも上品だった。

僕は其れに目を遣って、またスマートフォンに視線を落とす。

今度の返信は父さんからで、ダミアンと同じ事がもっと丁寧な言葉で綴られていた。

『僕こそ、急にごめんね。
　記念式典、いってらっしゃい』

きっとダミアンも父さんと一緒に今日竣工した市民図書館の式典に参加するのだろう。
僕はそう予想する。

後ろの店内では気の早い酔っ払いが陽気な歌を歌い始めて、別のテーブルから指笛が鳴る。

少し冷めたサンドイッチを引き寄せて、久しぶりにアルフレッドのハムチーズサンドが食べたいなぁって思う。

――やっぱり急なディナーの誘いだもん、誰も来ないよね。

2杯目に温かいコーヒーを頼んで、いよいよサンドイッチを食べようとした時に、最後の弟から返信が届いた。

『どこにいる』

疑問符すら使わない彼は僕の弟で、恋人で。

『東通りのダイナー。カウンターの真ん中』

必要最低限の情報だけ打ち込むと、今度は直ぐに返事が来た。

『5分で着く』

――きっと、5分でなんて着かない距離なんだろうけど。
恋人が急いで此方に向っていると云う事実だけで僕は幸せになってしまうのだから、相当おめでたい奴なんだろうなと思う。

冷めかけたコーヒーを流し込んで、僕はジンジャエールと同じサンドイッチをもう一つオーダーして、年期の入った灰皿を引き寄せる。

最後の連絡から7分経った時、耳に馴染んだマフラーの排気音がしてダイナーのドアベルが響いた。
視線を泳がせて僕を探すと、ジェイソンは心底不機嫌そうな顔をして僕の隣にどっかりと座る。

「独りで飯くらい食えよ」

僕が注文した、冷めたサンドイッチのお皿を引き寄せて、豪快に齧り付く。
耳の後ろの髪の毛がピョコンと立っていたから、きっと寝起きで急いで来てくれたのだろうと思うと、僕は嬉しくなって抱き付いた。

「だって、ジェイソンが甘やかしてくれるから」

僕の言葉に驚いたジェイが咽返って、慌てて背中を擦る。
だって、甘やかしてくれるのは事実だもの。
“寂しい”と云わなかった僕の気持ちを汲んで、駆けつけてくれた――

「ジンジャエールとサンドイッチです、どうぞ」

タイミング良く運ばれてきたジンジャエールを手渡して、僕は耳元で囁く。


「デザートには僕を食べて」


――だって独りきりの食事なら、デザートだって付かないでしょう？


＊FIN＊