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Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマンシリーズ/蝙蝠一家と超人

多分わたしの性癖に記憶喪失ネタってあるんだと思う。

ふと思いついたのでカッとなって書いた話。






それは予想外の事故であり、その結果が“幸”か“不幸”なのかは誰にも分からなかった。





「HAHAHAHAHAHAHA!愛しいバッツィ~ちゃん!
 今日こそお前はこの場でお陀仏だよ!」

ゴッサム湾に面する廃倉庫でジョーカーは声高らかに嗤う。
彼の手に握られているのかこれ見よがしな起爆剤のスイッチで、2人を囲む廃倉庫のそこら中に火薬が仕掛けてあるのだと言う。
壊れた屋根からは月明かりが降り注ぎ、バットマンの漆黒のカウルも薄く照らす。
彼の耳には小さくアルフレッドからの交信が届いていた。

『住民の避難は完了しております。
 …1つ、不穏な動きが。何かは分かりませんが其方に動く影があります』

バットマンはジョーカーを凝視したまま低く唸る。

「残念だな、ジョーカー。
 私は此処でお前と心中するつもりはないしお前をアーカムに入れるまでは死ねないな」

「無理心中だなんて、バッツったら積極的!」

まるで女子高生のように身体をくねらせるジョーカーに、バットマンの目が光る。

「一生一緒に過ごしましょ、バッツィちゃん」

派手な笑い声を響かせたジョーカーの背後に謎の影が忍び寄る。
闇夜に浮かんだ其れは高性能なドローンのようで、ジョーカーが振り向いたのと其れが爆発したのはほぼ同時だった。

『ジョーカー様に栄光を!!!!!!!!!!!!』

――犯罪者でもあるジョーカーは強烈なカリスマ性を持っていて、ゴッサムではまるで神のように彼を崇拝している人間もいると云う。

突然の出来事にバットマンがジョーカーの手からスイッチを掠め取る間もなく、彼が起爆スイッチを作動させる。

瞬く間に響く轟音に彼の周到に仕掛けた爆弾が作動しているのが分かった。

「HAHAHAHHAHAHAHAHA!!!」

爆炎の中、バットマンが最後に聴いたのはジョーカーの狂った笑い声だった。





「…ブルースが?」

アルフレッドの囁きに一番に駆けつけたのはメトロポリスの守護神であるスーパーマンことクラーク・ケントで、彼はすぐさま炎と瓦礫の中からバットマンを救い出し、秘密裏にバットケイブの治療室へと運んだのだった。

いくら日々の鍛錬やスーツの強化をしていたってバットマンの中の人物は生身の人間、ブルース・ウェインでありこうした怪我についてはある程度熟知はしている。
けれど今日の事故は全くの不意打ちであり、ブルースも対処の仕様がなかった。

ぐったりと意識の失ったまま横たわるブルースに、てきぱきとアルフレッドが傷の手当を施す。
バイタルチェックをしようとした彼をクラークは手で制すと、少しの間ブルースを凝視して薄く傍らの執事へと微笑む。

「大丈夫、大きな怪我はないみたい。
 ちょっと脳震盪を起こしてるだけじゃないかな…」

彼は言った後、慌てて目を覆う。
首を傾げたアルフレッドに、悪戯がバレた子供のように寂しげな声で彼は続けた。

「ブルースには内緒にしててね。
 勝手にバイタルを調べるなって言われてるんだ…」

「大丈夫ですよ、クラーク様。
 今は非常時です」

力強く頷いたアルフレッドに、心底ほっとした表情でクラークは顔を上げる。

『助けて!誰か!』

彼の耳に助けを求める子供の声が聴こえたから、彼は口を真一文字に結んでアルフレッドを見遣る。
事態を察した執事は頷くと「ご無事で」そう、超人を送り出した。

急に静かになったバットケイブには、眉間を寄せたまま眠るブルースと
甲斐甲斐しく世話をする執事だけが取り残されたのだった。





その事態が分かったのは、翌朝。
ブルースが目覚めて直ぐの頃だった。

目が覚めた時、“此処が何処か分からない”顔をしたブルースだったが、頭を酷く打ちつけた時は直前の記憶が抜けてたり、モノの名前がトンでしまったりとしているのはしょっちゅうだったからアルフレッドもさして気にも留めなかった。
いつも直ぐに普段の彼を取り戻し、アルフレッドの制止も聞かずにケイブを動き回るから困ったもの。

――けれど今回は違っていた。

大人しくベッドに横たわったまま、真っ白な天井を見つめているのだ。

異変に気付いたアルフレッドは声を掛ける。

「…ブルース様?
 気付けに何かお好みのものでもお持ちしましょうか?」

彼の声に、ゆっくりと身体を起こしたブルースは相変わらず眉間に皺を寄せたままだったがその顔は不安な色が広がっていた。

「  」

掠れた吐息が漏れるだけで、彼の声は執事の耳には届かない。

それからのアルフレッドの行動は素早かった。
子供達に緊急の知らせを回し、「クラーク様!」そう遠い空を思いやって呟く。

同じ屋敷内のダミアンが駆けつけても、ブルースの表情は困ったままだった。

「…父さん…」

実子でもあるダミアンは俯く。
普段は力強い“バットマン”である筈の父が妙に優しく、そして其れが彼を酷く不安にさせた。

続いてやってきたのはティムで「夜中に、ゴッサムで酷い爆破事件があったみたいだけどそれに関係してるの?」とリサーチ力の強さを見せ付ける。

その後に駆け込んできたディックは警官の服のまま、父の柔和な表情に顔を強張らせ、
最後にやってきたジェイソンは初めて見る父の顔に思わず顔を逸らせたのだった。

朝食は屋敷で摂ろうとティムが提案し、ディックも「そうだね。陽の光がある方が元気になれるものね」と薄く笑う。
ゆっくりと歩行する父を支えるのは一番体格の良いジェイソンの役目で、先導するダミアンは道案内を買って出た。

大広間でアルフレッドの作ったシンプルなサンドイッチとコーンスープを囲んでいると、窓の外に現れたのはスーパーマンで、宙を舞う人間の姿にブルースは目を見開いたのだった。

「スーパーマンだよ。
 彼はメトロポリスのヒーローだ」

ティムはそうブルースに告げ、自身の持ち込んだパソコンの画面にスーパーマンのニュースを映し出す。
興味深そうに記事を読むブルースを尻目にディックは窓を開けて彼を広間へと招き入れた。

「昨日バイタルは…?」

「チェックした。
 …あぁ、確かに喉と気管支が腫れてる…」

ディックの囁きにクラークは申し訳無さそうに肩を竦める。

「貴方の所為じゃないよ。
 誰だってそんな事気付けないもの」

ディックは微笑み、長身のクラークの背中を擦る。

「…爆発で酷く熱風でも吸い込んだのかな。肺までは…うん、大丈夫そう」

クラークが手馴れたように席に座るとアルフレッドがサンドイッチを運んでくる。
いつもなら「美味しそう!いただきます!!」そう言って直ぐに食べてしまう朝食が、今日に限っては全く喉を通らなかった。

記事を大方読み終わったのだろう、顔を上げたブルースが口を開く。

「   」

「うん?
 僕はクラーク・ケント。君の友人さ」

咄嗟に吐いた言葉は少しだけ真実と違っていたが、これ以上ブルースの記憶を混乱させたくないとクラークは嘘を吐いた。
――実際は友人以上の関係なのだから、友人と伝えても間違いではないだろう。

「父さん、お腹空いてないのか?」

あまり手の付けられていないサンドイッチに隣のダミアンが尋ねると、彼は曇った表情で喉を擦る。

「腫れてるって」

ディックがアルフレッドに耳打ちすると、彼は主人に声を掛けた。

「大変申し訳ありません、ブルース様。
 今すぐに冷たいお飲み物をお持ちしますね」





朝食の後、アルフレッドが「屋敷内をご案内致しましょう。広過ぎて迷ってしまいますから」とブルースを連れ出し、残された子供達とクラークが膝を付き合わせる。

「…記憶が無い上に、言葉も出ないだなんて」

肩を落としたのはディックで

「でも喉が良くなれば声だって戻るだろう?
 記憶だって屋敷を案内されるうちに戻るかもしれないし」

ジェイソンは少し楽観的だ。

「“ウェイン”のブルースはそれこそ海外旅行とでもでっち上げればいくらでも身を隠せるけど…バットマンはどうするのさ」

父の裏の顔の心配事を述べたティムに

「僕が一緒にパトロールするよ」

とクラークが挙手する。

「でも貴方だってメトロポリスでの仕事があるでしょう?
 いいよ、僕がバットマンになる。」

クラークを制してディックが宣誓する。

「お前だってブルードヘイブンの町があるだろ?
 自分の街くらい、テメェの手で護るさ」

割って入ったジェイソンにダミアンが言う。

「それなら俺はお前が人殺しをしないように見張っててやるよ」

「…僕だって父さんが不在の今、役に立ちたい。
 僕だってロビンだし、バットマンにだってなれる」

ティムが顔を上げる。

皆、ブルースの身を案じており
そして彼が護るこの街の平和を守りたいと説に願っていた。

話し合いの末、皆でバットマンを請け負おうと結論づける。
事の発端であるジョーカーの生死については未だ不明で、これについてはクラークとティムが全力で情報を収集すると誓ってくれた。

――きっと、いつか。
いや、それは直ぐなのかもしれない。
必ずブルースの記憶が戻るのだと誰もが信じていた。





ゴッサムの町に冷たい北風が吹く頃になってもブルースの記憶は戻らないままだった。
しかも、戻らないのは記憶だけではない。

声もまだ、戻ってはいなかった。

喉や気管支の傷自体はとっくに治っている筈なのだが、話そうとしても出てくるのは掠れた吐息ばかり。
しかも火事や花火の映像を見ると、事故を思い出すのか顔を真っ青にして震えるのだった。

「おはようございます、ブルース様」

ベッドルームに朝食を運び入れるアルフレッドが挨拶をすると、ブルースは柔和な表情を浮かべる。
眉間には以前のような皺はなく、笑ったときの目尻の雰囲気が亡くなった母の面影に似ていた。

両親の事故がなければ、この人はきっとこんな風に笑う人物になったのだとアルフレッドは思う。

「今日は孤児院でのチャリティコンサートがありますから、朝食を終えたら支度をしてくださいね」

執事が予定について告げるとブルースは頷く。

「   」

くるくると変わる表情は苦悩のブルースからは想像も付かない豊かさで、表情筋全てを使うその笑顔は子供の頃によく見せた顔と寸で変わりは無かった。

「えぇ、ディック様、ジェイソン様、ティム様もご一緒ですよ。
 そろそろダミアン様もこちらに来られると思いますが…」

考え込むようにアルフレッドが視線を上げると、廊下をパタパタと走る音が聞こえてくる。

「おはよう、父さん!」

ノックせずに開けられたドアにアルフレッドは末っ子を注意したが、ブルースは笑って首を振っただけだった。

「   」

「うん、昨日も練習したからバッチリだよ。父さんも楽しみにしてて」

チャリティコンサートの最後にお礼として子供たちが合奏を披露するのだと言う。
ディックのヴィオラにティムのチェロ、ダミアンはヴァイオリンで、繊細にピアノを弾くのは意外なことにジェイソンだった。
毎晩屋敷には彼らの音楽が響いていて、それを聴きながら温かいウイスキーを嗜むのが現在のブルースの楽しみだった。

ブルースの大きな手がダミアンを撫でると、彼は嬉しそうに笑う。
以前は細かい傷の多かった父の無骨な手が今は柔らかく、爪も綺麗に整えられているのを見て少しだけ寂しさも覚えた。

「じゃぁ、最後の練習をしてくるから…」

また駆け出したダミアンを見送り、アルフレッドは朝食の支度が出来たとブルースに促す。
テーブルにはトーマスとマーサの写真が飾られ、両親と朝食を取るのが日課となっていた。
もう、彼はモニターと睨めっこしながら朝食を掻き込むこともないし、知らない何処かの女性がベッドに潜んでいる心配もない。

「今朝のメインは特製オムレツでございます。
 レモンクリームソースでさっぱりとお召し上がりください」

デザートのフルーツを取り分け、温かい紅茶を注いで部屋を後にすると、アルフレッドにしては珍しく、背中で扉を閉じる。そうしてから窓の外の木枯らしを見つめた後、そっと瞳を閉じた。

――両親を目の前で殺された記憶を持たない主人は温和な性格で、浮かべる笑みは優しく飾り気の無い素直なブルース・ウェインだ。
ゴッサムの闇夜も疾走せず、無理な怪我もせず、危ない武器開発も行わない――

それが、かの主人、トーマス・ウェインの望んでいた息子の姿なのではと思う。
ただ以前の彼を知るアルフレッドには、今の主人はあまりにも大人しく…味気ない。

未だジョーカーの消息は掴めず、ダミアンを始め子供達とスーパーマンの協力によりゴッサムの街には“バットマン在り”と不安定な平和を続けている。

この毎日がいつまで続くのか。
主人の記憶が戻るのだろうか。
いや、記憶が戻ることはブルースにとって幸せなのだろうか?
何も知らないのなら、それは、それで――


今のブルースの姿が幸せなのか、不幸せなのか。
それは、誰にも分からなかった。


*FIN*

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