Serena*Mのあたまのなかみ。
ペコって心の扉すぐ開く子だよね。
って話。
って話。
ヒーローが戻った、夏が終わった。
高総体、それに続くインターハイに、学校の定期テスト。
あれからの1ヶ月は目まぐるしく過ぎ、やっと蝉の声に「うるさい」と思えるように落ち着いたある日の事だった。
「新作のマックフルーリー食いに行くべ」
何の疑いも無く、部活に行こうとした僕をペコが引き止めた。
「部活は?」
「1日くらい、平気デショ。
卓球なら、タムラで打てばいいし」
僕は頷くと、ペコに従った。
ダメ、と言って引き下がる性格じゃないのは分かってたし、たまには僕も甘いものが食べたいなんて柄にも無く思ったからだ。
でも、流石に何も言わないで部活をサボるのは気が引けたので(報告する時点でサボりじゃないと思うんだけど)体育館に寄って、私用があるので休むことだけキャプテンに伝えた。
***
駅前のマクドナルドは、僕たちと同じような高校生で溢れていて、見知った顔も何人か見かけた。
そんな中で、大通りに面したテラス席を見つけて、そこに腰を下ろす。
「スマイルは、何頼んだんよ?」
「カフェモカ」
「かふぇもか??
コーシーじゃねぇの、ソレ」
珈琲、と聞いただけでペコがしかめっ面をする。
彼の前には新作のマックフルーリー オレオベリー味と、シナモンロール、それにパンケーキが並んでいた。
「コーヒーだけど、チョコレートも入ってるよ」
最近、このファストフードは女性客を取り込みたいのかこう言ったカフェらしいメニューを取り入れていた。
僕としてはカフェになろうと、そのままのハンバーガーショップでも特段困りはしなかったけれど。
「…飲んでみる?」
チョコレート、と聞いて黒目が輝いたペコに差し出すと
「間接チューだな」
そう言って一口、口を付け…そして咽せた。
「コーシーの味するっ!!!!」
「そりゃぁ、コーヒーだから」
涙目で返されたコーヒーにちょっと哀れみを覚えつつ、大通りに目をやるとそこは見知った人物がタバコを蒸かしていた。
「…あれ、アクマじゃない?」
シナモンロールをパクついていたペコが顔を上げる。
「アーーークマーーー!」
ペコが立ち上がってぶんぶんと手を振ると、彼は気付いたようだった。
前かがみの大またで、ずんずん近づいてくる。
「恥ずかしいだろーが!」
んな大声で呼ぶなっ!小突いて、空いた席へと滑り込む。
「…何してんだ?」
「シナモンロール食べてんよ」
「そりゃぁ、見たら分かるわ。
落とすなよ、汚ねぇ」
そうして、僕に向き直る。
「部活、いいのかよ」
「うん、今日は休むってちゃんと言ったからね。
アクマは?」
「俺は毎日暇してっからな。
ちょっとパチスロでスってむしゃくしゃしてたところだ」
「甘いもの食べると元気になるぞ!」
「…それはペコだけだしょ」
「オメーだけだ、それは」
「これから、何か予定あるの?」
「なにも。」
「オイラにマンゴー味のフルーリー買ってくれろ~」
無理矢理に会話に入り込むペコに、小さくアクマがため息を吐いた。
「俺、こんな奴に負けたのかと思うと…いたたまれねぇ」
「…それを言ったらお終いだよ…」
僕も素直に賛同する。
こんなにも自由人なペコだったけど、卓球台の前になるとその性格は大きく変わった。
天性のセンス、ズバ抜けた運動神経。
「で、何が欲しいんだって?」
「マンゴー味」
食べかけのオレオベリー味を差し出してペコが言うと、悪態をつきつつもアクマはそれを買いに行った。
口は悪いけど、本当に良い奴なんだ。アクマって。
暫くして、アクマがコーヒーとマンゴー味のフルーリーを持って戻ってきた。
「オメェ、そんだけ食ってまだ食うのかよ」
テーブルの上には、甘いお菓子の残骸。
「フルーリーは食べ物ではアリマセン。飲み物デス」
ペコはそう言って受け取ると、ぐるぐるとかき混ぜながら新作フルーリーを食べ始めた。
「見てるだけで胸焼けしそうだな」
ブラックのコーヒーを飲んでアクマ。
僕は頷いた。
瞬く間にフルーリーはペコの胃の中に消えて、アクマも一緒にタムラに行く事になった。
大通りの郵便局の前で、また意外な人物と出会う。
「…ホシノ?」
「おーチャイナじゃーーーん」
それは、辻堂高校の制服を着た孔だった。
たどたどしい日本語と英語で話を聞くと、本国の母に誕生日プレゼントを贈った帰りだと云う。
「チャイナ、これから何すんの?」
チュッパチャップスを舐めながらペコが首を傾げると、彼は短く答えた。
「寮、帰ル」
「それなら、オイラと卓球すんよ」
球を打ち返す動作をしながら云うペコに、彼はちょっと困った様に腕時計を見て答えた。
「門限ニ間ニ合ウナラ、OK」
うっしゃ!
1ゲーム取った時のように喜んだ彼の後ろから、低い声が聞こえた。
「お前たち、こんな所で何故油を売っている?」
「かっ、風間センパイ!!!!!」
アクマの背ががびしっと伸びる。
あの頃から時間は経ったけれど、彼の中で風間竜一の存在は絶対的なモノのようだ。
「竜ちゃん?」
くるりと振り向くペコ。
「その名で呼ぶな」
風間は小さく呟くと、ペコのあたまをぐちゃぐちゃっと撫でた。
きっと、彼の事を竜ちゃん、なんて呼ぶのはペコくらいなものだろう。
「先輩は、何をしているでありますか?」
…アクマの口調が、海王に居た頃に戻っている。
「あぁ、私用で使う道具を調達して貰ってな。それを取りに行った帰りだ」
海王高校は卓球の名門校だ。
卓球に関することなら、全て部費で賄われる。私用で使う物が、何なのか少しだけ気になった。
けれど、尋ねたところで答えては貰えないだろう。
「何買ったんさ?」
ペコは、いとも簡単に他人の心の扉を開ける。
「新しいお菓子だったら、オイラにもくれろ?」
「残念だが、ザンギリ頭。
君の欲しいようなお菓子ではないのだ」
「なに?」
「餌だよ、犬の」
犬の餌!
あの、ドラゴンが犬の餌を買っている!
それはとてつもなく驚きの答えだった。
「犬飼ってるんけ?」
「いや、学校の周りに捨てられていてな。
可哀想なので保護している。今、他の部員が譲渡先を探しているところだ」
卓球の権化と云われた風間竜一も、随分丸くなったものだ。
他人にも自分にも厳しかった彼が、こうして弱者のために奔走している。
「…それって、急ぎ?」
なぁなぁ、ペコが制服の風間を引っ張る。
「いや、明日届ける予定だから急ぎではないが…」
急に迫られて、風間の視線が遠く揺れる。
「オイラたちさ、これから卓球するんよ。
竜ちゃんも行くべ」
――こうして、タムラにはオールスターが揃うことになった。
***
「オババー、台借りんよー」
そう言ってペコがタムラに入り、いつもの様にオババが切り返す。
「まーた部活サボったのかい?いい加減に…」
けれど、言葉の続きはその後に続く顔ぶれに消えてしまった。
「チャイナにアクマに…ドラゴン!
…一体何があったんだい?」
オババが最後に着いた僕に尋ねる。
「…どうもこうも…
ペコが卓球しよう、って誘った結果だよ」
「卓球バカばっかりだね」
オババは心底楽しそうに笑うと、今日は卓球教室だよと付け加えた。
――タムラの卓球教室。
僕も子供の頃、何度か顔を出したことがある。
ペコは関係無しに大人と卓球してたけど。
「懐かしいね、教室」
いつもより小学生の多い、タムラの卓球場。
スキンヘッドの風間と、ただのチンピラにしか見えないアクマ、それに眼光の鋭い孔。
小学生が遠巻きに眺める気持ちもよく分かる。けれど、オババは手を叩いて言ったのだ。
「今日はこのお兄ちゃんたちが教えてくれるってよ」
一番の乗ったのは、やっぱりペコだった。
「オイラと卓球しようぜ~
あの眼鏡のお兄ちゃん、もんのすごいカットが上手なんよ」
僕を指差す。
「…え、止めてよ、そーゆーの…」
一歩後ろに下がったけれど、後ろには風間が立っていた。
「…指導者の経験値を積むのも必要だ」
…苦手なんだけどな。
思ったけれど、ペコと一緒に卓球台に立ってしまった。
その後の事は、あまり覚えていない。
(思ったより一生懸命指導してたようだ)
最初、遠巻きに見ていた風間だったけれど、今では少年相手に卓球の理論を教えている。
スキンヘッドで、強面の彼の周りにはいつかのアクマを彷彿とさせる眼鏡の少年が何度も頷いて聞き入っていた。
孔はというと、女の子からの早口の日本語攻撃に戸惑いながらも中国式ペンホルダーを見せて違いなんかを説明している。
首の後ろのタトゥーが見えたらしく、少女たちからカッコイイと言われて助けを求められた。
アクマはずっと、球拾いをしながら風間や孔のフォローをしていた。
彼よりずっと、才能のある者たちばかり集まっていたから、彼にとっては当然の選択だったのかもしれない。
7時近くになって、やっと卓球教室は終了した。
「助かったよ、アンタたち」
オババが、冷たいスポーツドリンクを投げて寄越す。
「今日、コーチが捻挫しちまって休みでね。
どうしようかと思ってたんだ」
「タダ働きかよ~このオババ!」
ペコはタムラに置いてあるお菓子から、キャラメルを取って言う。
5個いっぺんに放りこんで、もごもごと口を動かしていた。
「ははは、だから今日の卓球台は使い放題だよ」
「…使い放題、って言われても…なぁ?」
アクマが見回すと、そこは疲れた顔をしたオールスターズだ。
「こんな卓球も悪く無いだろう?」
紫煙を吐いたオババに、風間が頷いた。
「指導者の気分、と言うのかなこれは」
「日本語、難シイネ」
孔が首を振る。
けれど、その顔は嬉しそうで決して嫌な顔ではなかった。
「人使いが荒いババァだぜ」
相変わらずの球拾いをして、アクマ。
ついでにモップで床磨きまでしている。
風間が時計を見ながら呟いた。
「孔、門限は平気なのか。
必要なら、説明するぞ」
辻堂高校は、此処よりもちょっと遠い。
指導者たる風間は、やはり厳格だった。
「門限8時マデダカラ、マダ大丈夫」
「スマイル~オイラお腹ペッコペコちゃんよー」
「…そうだね、そろそろ帰ろうか」
僕も言って、みんなでタムラを後にする。
いつも2人で歩いた道が、5人に増えて
そして取り留めの無い会話が増えてなんだか変な気分だ。
駅で風間と孔を見送って、アクマともそこで別れる。
「…気をつけて。」
「卓球場の主人に、充実した時間だったと伝えてくれ」
「面白イカッタ」
「またなー竜ちゃんとチャイナ!
今度は卓球してくんろ!」
ペコは二人が見えなくなるまで手を振って、そして大きく伸びをした。
「楽しかったな、スマイル」
「…悪くなかったと思うよ」
部活に出るより、ずっと疲れたけれど。
「んじゃ、帰るか!」
ペコが急に駆け出して、僕も其れを追う。
あの夏は終わったけれど、卓球の夢はまだ、見れる。
宵闇のバスターミナルに、小さく星が瞬いていた。
*FIN*
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