左の星

大学生スマイル妄想。
右肩の蝶の歌詞が大好きで浮かんだ話の割に全く何処にも掠ってない罠。

日曜日のショッピングモールは、家族連れやらカップルやらでそれはもう大盛況だった。
そんな喧騒の中、似つかわしく無い存在がただ一人――スマイル。
冷静を纏った彼が、何故この場に居るのかというと、単に母からの頼まれごとで買い物に来ていたのだった。

お使いを早々に済まし、さっさと撤退することも考えたが来て20分で帰るのも電車賃が勿体無いし釈然としないのでショッピングバッグを片手に店内をぐるりと一周していた。
そろそろ帰ろうか、思った矢先にエスカレーター手前にひっそりと展開する小さな宝石屋に目が留まる。
宝石店と言うには少しばかり簡素であり、よく見ると其処はパワーストーンを取り扱う店のようだった。
女性向けのコーナーが多い中、革製品と組み合わせた男性用のコーナーもしっかりと陳列してあったのに安心して、彼は店内にそっと足を踏み入れた。

ハートと薔薇に彩られた女性用のコーナーを流し、黒とシルバーで展開された自分用のコーナーでじっくりと商品と向き合う。
オニキス、水晶、ターコイズ…およそ自分には縁の無い世界だったが、とある石に目を留める。
自分と同じ、月を模した石――ムーンストーン。
少しだけ白濁した中に、青く輝く不思議な煌きに心奪われる。

「月下の海に輝く光、なんて云われてるんですよ」

彼の購買意欲を察したのか、レジ前の女性店員が話しかける。

「月下の海に輝く光…」

「色も洋服に合わせやすいですし、おすすめです」

彼女は何点かムーンストーンのアクセサリーを並べたが、その一点にスマイルの視線は集中した。


「…あの、これ、ください」



＊



3ヵ月後。

大学の数少ないスマイルの友人は、彼の左耳に小さなピアスが輝いていることに気付いた。
控えめな彼に良く似合う、薄い青色の、小さなピアス。

「それ、何の石なんだ？」

話題に選べば、珍しくスマイルにしてははにかんで答えるのだ。


「ムーンストーン。同じ名前だから、つい」


「月の石に星の形か。オツだな」


――友人の言葉に、遠い空の下に居る恋人をそっと想う。


腕時計を見遣って、スマイルは話題を変えた。

「もうすぐ予鈴が鳴るよ、教室に行こう」



左耳に開けたのは、心に近かったから。
どうか、この想いが君に届きますよう。


＊FIN＊