チョコレヰト・ドリヰム

スマイルの妄想→チョコレートドリーム

「な～～～スマイル～～～オイラにチョコレートおくれよぅ」

終礼のチャイムが鳴った、長い廊下でペコがスマイルに纏わりつく。
靴箱を開ければ小さくラッピングされたチョコレート、移動教室から帰ってくれば机の中にはリボンの包み紙。
廊下を歩けば隣のクラスの女子が紙袋を押し付ける。

そんな1日にスマイルは相当飽き飽きしていたが、隣のペコはまんざらでも無い様子だった。
無論、ペコだってチョコレートの3つや4つ貰っている。
ただそれは、スマイルのように【本気】のチョコレートではなくて、【義理】のチョコレートだった。それはペコにだって分かる。彼に手渡されるチョコレートはパーティパックの小袋チョコやコンビニで売ってる100円程度のお菓子だったから。

だから、ペコはスマイルの【本命チョコ】を狙っているのだった。
手作りのチョコレート、駅ビルで臨時展開されているチョコレートフェアのショコラティエ、TVで特集されていたベルギーの王室御用達のチョコレート…
スマイルの持つサブバックにはそんな夢の様なチョコレートがぎっしりと詰まっている。

だから。

伸ばした手がバッグに触れる前に、その手首はスマイルにしっかりと掴まれてしまった。

「ダメだよ、ペコ。
　これは僕が貰ったものだから」

そう言ってから、声を落として続ける。

「…校内では、渡せないけど。帰り道に、ね」

云うと、ペコが満面の笑みを浮かべた。

「ぉうっ！」


＊


へとへとになった部活の帰り道、スマイルからサブバックごとチョコレートを手渡されたペコは上機嫌だった。
街灯の薄明かりにチョコレートを出して品定めをする。

「おぉ～～これってばイタリアのチョコじゃんすか！すっげぇなスマイル！」

ニッカリと笑うペコと別れの三叉路になって、鞄の中からすっとスマイルは薄いチョコをペコに押し付けた。

「おょ？オイラに？」

「…うん。
　僕からの、気持ち…」

少しだけ俯いたスマイルに、ペコが首を傾げる。伏せた睫毛の先がか細く揺れていたから、彼にしては緊張しているのが分かった。
ちょっとだけ考えて、ペコは大きく頷いた。

「大丈夫よ、スマイル。一番にお前のチョコ食うかんな！」

云うな否や、綺麗に包装された赤い包み紙を剥がすと何の変哲もない板チョコを豪快に齧り取った。

「…あっっ、ペコ、それ…」

スマイルが制する間も無く、半分程になったチョコを持ってペコが顔を上げる。口の端が少しだけ茶色に汚れていたから、スマイルはそっとそれを拭った。

「ん？どしたスマイル」

――あのね、そのチョコ、実は…

云おうとして、スマイルは彼にしては珍しい微笑みを浮かべた。

「…ううん、ペコ。
　もし、今日寝れなくなったら、電話して」

歩いて10分、自転車で3分の距離なのに『電話して』なんて珍しいなぁなんて思いながらペコは素直に頷いた。

「じゃぁ、また、明日」

スマイルと別れ、独り薄暮れの路地を歩いてペコは残りのチョコをぱりぱりと削りながらそのチョコは何処のチョコだろうかと包み紙をじっと見つめた。

『Guaraná chocolate』

「ぐぁぅ…？」

チョコレートだけは辛うじて読めたので、きっとこれは高級なチョコレートだと独りで納得した。
ちょっと変な味なのは、きっと高級なチョコの証なのだ。


――もし、今日寝れなくなったら、電話して。

なんて、変な事を云うモンだとさっきのスマイルの言葉を反芻する。
どのチョコから食べようかと考えたところで、家の明かりが見えたから高そうなチョコレートは無理矢理鞄に詰め込んだ。弟たちに見つかったら、速攻で奪われるからだ。

「ただいまーーーー」

玄関のドアを空けて、脱ぎ捨てられた靴を避けながら、自分も器用にスニーカーを脱ぎ捨てる。

ペコが、Guaraná chocolateが強壮薬の含まれたチョコだと知るのは、まだ先の話――


＊おしまい？＊