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子供の頃の冬。

「クリスマスパーティ？」

言われて、スマイルはきょとんと首を傾げた。

「あぁそうだよ、今年はお前たちが頑張って大会で優勝もしたしね」

オババが似合わない金色のモールを壁に貼り付けながら答える。

「なぁなぁ、お菓子いっぱいあるんか？」

向こうの壁で、ポスターを貼っていたペコが笑顔を向けた。

「おいペコ！ちゃんと押さえてろよ！！！」

隣でアクマの怒号が飛ぶ。

「それって、僕が参加していいの？」

オババに今度は赤いモールを差し出しながら言ったスマイルに、オババはぽんと頭を撫でた。

「当たり前だよ、スマイル。クリスマスはみんなでお祝いするもんだ」

それから、道夫と4人で近所のスーパーまで足りないもの買いに行って
帰ってきたら卓球教室の皆が集まって最後の飾りつけをしているところだった。

普段は素っ気無い卓球台にきらきらしたテーブルクロスが掛けられ、所狭しと紙皿が並べられている。
山盛りのポップコーン、色とりどりのクッキーにチョコレート。
普段はAM放送ばかりのラジカセからはクリスマスソングが流れていて、
流石にチキンとケーキは無かったけれど、それは立派なパーティ会場になっていた。

持ってきたシャンメリーを道夫に渡しながら、スマイルは歓喜の声を上げる。

「うわぁ…」

「凄いだろ？」

いつの間にか、サンタ帽を被ったオババがお茶目に笑う。
頷いたスマイルの隣でペコが「にっわねーの！」なんて言うもんだから、すぐに鉄拳制裁が下った。

痛みに蹲るペコを無視して、アクマがあっち行って何か食おうぜとスマイルの手を引く。

上のクラスの中学生からオレンジジュースを分けてもらい、窓辺に腰掛ける。
小さくクッキーを齧っていたらポップコーンにポテトチップス、それからグミにクッキーを両手に抱えたペコが隣にやってきた。

「そんだけしか食べねーの？
　今日はどんだけ食っても良いってよ」

むしゃむしゃとポップコーンを食べ始めるペコにアクマがまた難癖をつける。

「少しは綺麗に食べれんのか」

「うっせーやい！」

その後も豪快にお菓子を平らげるペコを見て、スマイルはそれだけでお腹いっぱいだよと苦笑した。

空がオレンジ色になった頃、サンタの格好をした道夫が一人一人にお菓子の入ったブーツを配って、クリスマスパーティが終わりを告げる。

ひとり、またひとりとタムラを後にして、とうとう残ったのはペコとスマイルだけになった。

「オババーお菓子もう無いんかよー」

片づけをするオババのシャツをペコが引っ張る。

「お前、あんだけ食ったのにまだ食べるつもりかい！」

呆れ顔のオババにスマイルもつられて笑った。

「ね、ペコそろそろ帰ろう」

ペコの背中をつつくと、彼は「うん」笑顔を作る。



「あ～楽しかったなぁクリスマスパーティ！」

タムラを後にして、裏路地を歩きながら白い息を吐いて、ペコ。

「…うん」

俯いて、スマイルは頷いた。

「あれ、スマイル。楽しくねーの？」

クリスマスパーティは楽しかった。
けれど、家に帰っても一人きりだ。あったかいチキンも、イチゴの載ったケーキも無い。

「かーちゃん、今日も遅いんけ？」

「…うん」

「なら、オイラん家で食ってくべーよ」

ペコがスマイルの手を引っ張る。

「…えっ。
　急にお邪魔したら…迷惑だよ…」

スマイルは振りほどこうとするが、ペコはなかなか離してくれない。

「みんなで食べた方が楽しいかんな。ホレホレ！」

ぎゅっと手を掴まれて、とうとうスマイルは逃れられなくなってしまった。

「…うん、ありがとう。ペコ」

はにかんだスマイルにペコが嬉しそうに頷いた。


――この先ずっと、ペコと過ごせますように。

小さな祈りが、群青色の空にそっと溶けた。


＊NEXT＊