Serena*Mのあたまのなかみ。
まさかの完全なオリジナル(笑)
そのタニシはいつも田んぼの端の方で小さくうずくまっておりました。
先に生まれたお兄さんタニシやお姉さんタニシがせっせと田んぼの掃除をしておりましても、小さなタニシはほうぼうに生える稲がとても恐ろしいものに見えてなかなか掃除が出来ません。
いつも田んぼの端にひっそりと居るタニシをお兄さんとお姉さんは気にしていましたが、お掃除が忙しかったので「あの子はまだ小さいから掃除が出来ないのだ」と周りのタニシに言っておりました。
或る夏の夜のことでありました。
お空にぴかぴかと光る丸いものが気になって、タニシはネコヤナギ先生に尋ねました。
「ネコヤナギ先生、あのお空に光るのはなんでしょう。
まぁるいバターですか」
ネコヤナギ先生はうつらうつらとしておりましたが、タニシがあんまり熱心に尋ねるものですから、やっと目を覚まして教えてくれました。
「あれはな、お天道さんだよ」
「違うよ、先生。お天道さんはこの暗闇が終わった後に出てくるものだよ」
タニシは村の子供たちが拝んでいるのを見た事がありましたから、そう答えました。
「それでは、お月さんだろう」
ネコヤナギ先生は静かに言います。
「お月さんが見守ってくれるから、ゆっくりおやすみ」
「はい、先生」
タニシは先生にお辞儀をすると、またゆっくりと田んぼの端に帰ってゆきました。
ネコヤナギ先生はタニシが眠りにつくのを見届けると、また枝をゆらしてうつらうつらとし始めました。
それから、タニシは夜中に目を覚ましてもお月様が居るから何も怖くないのだと安心して眠れるようになりました。
優しく光るお月様が、タニシは大好きになりました。
季節は巡り、秋になりました。
田んぼの稲はたわわにお米を実らせ、タニシもやっと一人で掃除が出来るようになりましたが身体は小さいままでした。
お兄さんタニシやお姉さんタニシは小さいままのタニシを心配しておりましたが、「温かくなれば大きくなれますよ」と優しくタニシを元気付けてくれましたから、タニシも元気にはいと返事をしておりました。
お友達のミミズとスズメと一緒にネコヤナギ先生のお話を聞いておりましたら、先生の後ろに小さな女の子が居るのにタニシは気が付きました。
スズメにそのことを教えますと、スズメが先生に尋ねました。
「先生、先生の後ろの女の子は新しいお友達ですか?」
ネコヤナギ先生はそよそよと枝を揺らして答えました。
「仲良く遊んでくれるかい?」
「はい」
タニシもミミズもスズメも、人間のお友達は初めてでしたから大きな声でお返事をしました。
「では、今日はもう話は止めにしてみんなで遊ぶと良いだろう」
ネコヤナギ先生は言って、木陰を作ってくれました。
人間の女の子は今よりももっと小さな時にお母さんとはぐれてしまい、泣いていたらネコヤナギ先生が声を掛けてくれたと教えてくれました。そして、何度もお家に帰りたいと言いました。
先生の話を聞くのは面白いし、ここで暮らすと楽しいよとミミズは言いましたが、女の子は悲しい顔をするばかりでした。
ネコヤナギ先生もこれには困ってしまったようで、今日の学校はそれでお開きになってしまいました。
田んぼの端で、お兄さんタニシのお手伝いをしながらタニシは「お兄さんやお姉さんが居なくなってしまったら寂しいな」と悲しくなっておりましたら、心配したお姉さんタニシがご飯を沢山よそってくれました。
或る夜の事です。
寒くて目が覚めてしまったタニシは、お空にお月様を探しましたが今日は見つける事が出来ませんでした。代わりに、チカチカと小さな光が沢山きらめいております。
田んぼの隅で女の子が座ってお空を見ておりましたから、思い切ってタニシは話しかけました。
「こんばんは」
「こんばんは、タニシさん」
女の子もこの生活に慣れてきたようで、しくしくと泣き出すことは無くなりましたがそれでも時折悲しそうな顔でお空を見ていることがありました。
「今日はお月様が見えないんだね」
タニシは言います。
タニシがお月様が好きなのはみんな知っておりましたから、女の子も頷きました。
「きみはあのキラキラしているのを知っている?」
タニシは尋ねます。女の子が知らなかったら先生に尋ねようとタニシは考えましたが、答えは女の子が知っておりました。
「あれはお星様って言うのよ」
「おほしさま?」
「そうよ。お月様の周りでキラキラと輝いているの。
今日はお月様らいらっしゃらないから、もしかして探して輝いているのかもね」
「いいなぁ、ぼくはお星様になりたいな」
タニシは言いました。
「お星様になりたいの?」
「お星様になったらずっとお月様と一緒に居られるのでしょう?
それならきっと幸せだもの」
女の子はじっとタニシの話を聞いて、そうしてゆっくりと話し始めました。
「わたしね、お星様なんだって。
お母様が言ってたの」
「わぁ、凄いな」
「でもね、お母様のところから離れたくなくって、ずっとお空に行くのを嫌がっていたの。
そうしたら、お星様になる方法を忘れちゃったみたい…」
俯いた女の子に、タニシは言いました。
「きっと大丈夫だよ。思い出すまで、一緒に遊ぼう。
もしお星様になれたら、ぼくがお月様が好きですって伝えて欲しいな」
女の子が笑ったので、嬉しくてタニシも笑いました。
なんだか二人の秘密の話が、少しだけタニシを大きくした気がしました。
寒い冬の日も、タニシとミミズとスズメと女の子はネコヤナギ先生の所でお話を聞いたり、みんなで遊んだりしておりました。
田んぼの霜柱が少なくなり、梅のおばあちゃんのつぼみが膨らみかけた頃、女の子は居なくなっておりました。
ミミズとスズメは首を傾げましたが、タニシだけはお星様になってお月様の傍で輝いているのだろうと分かりましたから、今までよりも一層お空を見るのが大好きになりました。
ネコヤナギ先生だけは、少しだけ寂しそうに枝を揺らしておりました。
*終わり*
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