君へ心の旋律を

友人のサツキさんへ。
巌窟王のカヴァラカンティ。激しくキャラ崩壊注意

「君はピアノが上手だね」

午後の優雅なお茶の時間、ユージェニーの新しい婚約者となったカヴァルカンティはそっと囁いた。
同席している父のダングラール男爵は始終上機嫌で、これからの銀行の行く末や資産の相続についてなんかを延々と語っていた。

「…ずっとね、ピアノで生きて行くのが夢なの」

美しい旋律を奏でる手を止めずにユージェニーが呟く。
絵空事なのは分かっていた。自分は父の決めた人と政略結婚をし、きっとこのピアノも彼の趣味にそぐわなかったら売却されてしまうのだろう。

「…音楽は嫌い？」

ユージェニーは続ける。

「嫌いではないよ」

少し冷めかけた紅茶を啜ってカヴァルカンティは答える。
白い磁器のカップが空になったから、侍女が注ごうと近寄ったが彼は片手で其れを制した。

「君も飲もうよ、ユージェニー。
　君と仲良くなろうと思って此処へ来たんだから」

「そうだぞ、ユージェニー。ピアノなんていつでも弾けるだろう！」

父であるダングラールに言われて、反抗するつもりもなかったから
ユージェニーはあと4小節分の旋律を残して立ち上がった。

「…良い音が浮かんだの。少し書き留めてきても良いかしら」

父の機嫌を損ねないように精一杯笑顔を振りまくと、意外にも婚約者が其れに許可を出した。

「また、君の音を聴かせてくれるかな」

「…それがお望みなら」

言い放った言葉に、ダングラール男爵が何か云いかけたがカヴァルカンティはそっと歩み寄り、そして跪いてその片手に口付けを捧げた。

「今度来るときは、貴女に似合うような薔薇を持参しましょう」

怪訝な顔で会釈をすると、ユージェニーはそのまま部屋を後にする。
淡いピンク色のドレスが彼の好きな小さな薔薇を彷彿とさせた。




自室のドアを閉めて、重厚なドアに持たれながらユージェニーが呟く。

「…トゲがあって、薔薇なんて大嫌いよ」

出窓に活けられた、真っ赤なバラの花束には

【お誕生日おめでとう　　アルベール】

小さなカードが添えられていた。


＊FIN＊