SNOWBALL FIGHT

雪に喜ぶヒヨコたち。

何も無い、小さな町に雪が降った。

故郷の冬は長く、冷たかった。
どんよりと低い雲、グレイの空。
不純物を多く含む霙にも似た雪はべちゃべちゃとしてコートを濡らすし、何より空気が刺す様に冷たかった。

かじかんだ指を、母が必死に擦ってくれたことを思い出す。


「わぁ、雪だーー」


部活中、渡り廊下に出た木村が歓声を上げる。
部活前から降り始めた雪は、うっすらとグラウンドを白い世界に変えていた。

――そんな、珍しくも無い。

1年のサーブ指導にあたっていた俺はさして気にも留めず、練習を続ける。

「なぁなぁ、帰りに雪合戦しようぜ、雪合戦！」

盛り上がる輩を尻目に、俺は大きく手を打ち鳴らした。

「集中力切らさなイでー！」



＊



耳まで真っ赤にして、雪合戦を楽しむ木村を尻目に、俺は自動販売機で買ってきたコーヒーを飲み干す。

「しないのか、雪合戦」

木村が駆け寄り、俺を誘う。

「いイや、審判だからナ、俺は。
　木村のチーム負けてルぞ」

云うと、こんにゃろ！！木村はまたグラウンドへ駆け出していった。


此処には、かじかんだ手を温めてくれる人は居ない。
あるのは無機物のコーヒー缶だけ。


「助太刀～～頼む～～～～！」

集中砲火を浴びながら、じたばたと叫ぶ木村に俺は重い腰を上げた。

「スケダチ料、高いヨ！」

足元の雪を掬い、小さく丸めると力の限り振りかぶって投げ込む。

「反撃じゃ～～～！」

木村が叫ぶのと、俺が駆け出すのと同時だった。


――どうして、俺は日本に来ちまったったんだろう。
答えは、今でも出せない。


けれど、
この国に降る白い雪はそれほど嫌いじゃなかった。


「負けたら承知しなイよ、木村！」

背中越しに云うと、木村が威勢よく雪球を投げる。


広がるのは、群青色の空。小さく瞬く星。
きっと明日にはこの雪は無くなってしまうだろうから、
精一杯この白い雪と戯れようか。


＊FIN＊