Serena*Mのあたまのなかみ。
まさかのアクムー妄想。
好きなんだ、この二人。ムー子ちゃん可愛くね?
多分、ペコにもスマイルにもアクマにも対等に渡り合える女子、それがムー子なのだよ。
好きなんだ、この二人。ムー子ちゃん可愛くね?
多分、ペコにもスマイルにもアクマにも対等に渡り合える女子、それがムー子なのだよ。
高校を退学してから暫く。
深夜の工事現場でアルバイトをしていると、色々な人間模様が垣間見れると、アクマはそう思う。
終電前の若いカップル(時折、壮年も見かけるが)、終電間際に携帯電話片手に走り去るサラリーマン、終電を過ぎた酔っ払い…
仕事をしながら、休憩時間に、そんなちょっとした時間に人間を観察するのが最近のアクマの密かな楽しみだった。
そんなある夜のこと。
今夜は土砂降りの雨だからと(今も随分と強い雨が降っている)現場に集合するも、暇を言い渡されてしまったアクマは時間を持て余してしまったので、急に出来た休みだから、とその界隈を少しだけブラつくことにした。
地元の駅から1つ離れた町だったが、その町の雰囲気は地元とは違い、意味もなく裏路地に足を進める。まだ終電には時間があったからと変にアクマは安心しきってその町を歩いていた。
と、角を曲がった先から地元の制服を着た高校生が走り去ってゆく。何度か試合で見た辻堂の制服ではなかったから、私立の制服だろうとアクマは踏んだ。でも、何故こんな時間に私立のお坊ちゃんが?
気になって角の先を見遣ると、其処は直ぐに行き止まりになっていて、この雨の中傘も差さずにずぶ濡れの少女が俯いていた。
*
それが、アクマとムー子の出会いだった。
*
「…大丈夫か?」
天性の世話好きが、彼女に傘を差し出す。
急に黒ずくめのスキンヘッドから傘を差し出された彼女はたじろいだが、別に変な気は起こさねぇよとアクマは続ける。
仕事用にと持ってきたタオルも一緒に渡すと、遠慮がちに、でもはにかんで少女は其れを受け取った。
「ありがとう。貴方、優しいね」
決して美人の類ではないが、妙に人を安心させる笑顔。
「こんな時間に女が出歩いてたら危ないだろ…」
その笑顔が縁の切れた知人を彷彿とさせて、アクマをそっぽを向いた。
彼女は受け取ったタオルで髪を拭く。小さくくしゃみをしたので、アクマは腕を掴んで歩きだした。
「え、い、痛いよぉ…」
「こんなところに突っ立ってたら風邪引くだろうが」
連れてきたのは駅の目の前にある24時間営業のファストフード店で、濡れ鼠の彼女に店員は少しだけ厭な顔をしたが直ぐにマニュアルの笑顔を貼り付けた。
「いらっしゃいませ!
注文はお決まりですか?」
「ホットコーヒーにMサイズのポテト…それから」
ちたりと傍らの彼女に目を遣ると、彼女がメニュー表のシェイクを指差す。
ずぶ濡れになってシェイクとは、こいつ馬鹿なんだろうか。アクマは内心で溜息を吐く。
「ストロベリーシェイクで」
支払いを済ませ、番号札を受け取る。
暖かい店内で青白かった彼女の顔に、やっと赤みが差してきたように思う。
「ごめんね、これ、洗って返すから…」
すっかり重くなったタオルを畳んで、彼女は言う。
「いいよ。仕事用だし、そんなモンしか無くてすまねーな」
「ううん、助かった」
彼女はまた、微笑をアクマに向ける。
蛍光灯の元で見ると、彼女は素朴な顔立ちなのがよく分かった。もしかしたら、まだ高校1年生なのかもしれないと彼は一人頷く。
「えっと、名前、訊いてもいいかな?」
彼女はシェイクのストローを回しながら呟く。
「あぁ、オレか?
佐久間学だ。呼び捨ててくれていい」
「じゃぁ、マー君だね」
「はぁ!?」
思わず目を剥いたアクマに動じずに、彼女は続ける。
「あたしね、ムー子。みんなからそう呼ばれてるから、そう呼んで」
ムー子が言った時に、やる気の無い店員の声が響く。
「お待たせしましたーポテトMですー番号札お預かりしますねぇ」
アクマが番号札を渡し、ポテトのトレイをムー子に差し出す。
「いいの?」
あたし、お金ないんだけど…
俯いた彼女に、アクマは苦笑する。
んな、見れば分かるって。
言いたいのをぐっと我慢して続けた。
「腹減ってるだろ?」
「うん。いただきます」
ムー子はシェイクの蓋を開けると、出来立てのポテトを其の中へと差しこみ、そして口へと放り込む。
その動きがあまりにも自然だったからアクマは何もつっこめなかったが、それが旧い友人の行動と全く同じなのに気付くのに時間は掛からなかった。
――俺も、お前のようなヒーローになれるのだろうか。
ずっと自問自答していた、その答え。
「怪我ぁ、ねぇか」
「うん、平気。
なんか分かんないけどね、あたし、人を怒らせちゃうこと多いんだぁ」
心を許したのか、彼女の声が柔らかい。妙に間延びした其の声は人をイラつかせるのには充分な気がしたが、本人にその自覚は無いらしい。
「んで、呼び出されたのか」
「先輩、もうすぐ卒業だから僕たちがお金使ってあげますよーって。
意味わかんないよねぇ」
ポテトとシェイクはが見る間に減ってゆく。
口調はこんなにのんびりしているのに、食欲は人並み以上だった。
「…先輩?」
「うん、あたし来年高校卒業すンだよぉ。3年だもん」
てっきり1年だと思っていたアクマはもう一度目を剥く。
「なぁにその顔~ヘンなの~~」
ムー子はひとしきり笑うと、ポテトとシェイクを一人で片付けた。
「ありがとうございましたぁ~~」
間延びした店員の声に押されて、自動ドアを潜る。
とっくに終電は過ぎていたから家まで送るとアクマは言ったが、
「此処から歩いて近いから~大丈夫だよぉ」
そうやんわりと断られ、けれどタオルだけは洗って返すからとしっかりと連絡先の交換だけは行った。
「じゃぁねぇ、マー君。また遊んでねぇ」
渡したビニール傘で、何度も振り返りながらムー子が手を振る。
やっと街灯の先に彼女の姿が見えなくなって、アクマはパーカーを頭まで伸ばすとタクシー乗り場まで走った。
――雨は予報通り、土砂降りになっていた。
それから、律儀にタオルを返したくれたムー子と
それきりかと思っていたのだけれど、彼の仕事現場が家の近所だと知ると休憩時間を狙ってやって来るようになり、それがいつの間にか簡単な弁当が付き、当たり前の光景になっていた。
若いねぇ、そう先輩も見守るのでアクマも無下にすることが出来ず、結局ずるずるとその現状に甘んじてしまう。
「道路、出来てきたね」
出合った当時はコンクリートがぼろぼろになって酷い道路だったが、今ではすっかり平らに均されて美しいアスファルトになっていた。
「…来月でこの現場、終わりなんだ」
アクマの吐く息が白い。
世間ではもうすぐクリスマスになる頃だった。
「そっかぁ、会えなくなるねぇ」
ムー子がスニーカーの先を擦り合わせる。
内股の彼女の履くスニーカーは、親指側だけゴムが削れてつるつるとしていた。
「…電話あるだろ」
缶コーヒーを飲んでアクマ。
「だってぇ、マー君お仕事でお昼寝てるじゃん」
「事前に言ってくれたら起きてるよ」
「それじゃぁ電話の意味ないよぉ」
「じゃーどーすりゃいいんだよ」
少しだけ口調を荒らげたアクマに、ムー子がしゅんとなって俯く。
「あ、悪ィ…」
直ぐに頭に血が上るのは彼の悪い癖だった。
「…いいよ、あたしバカだから…」
見上げた顔は涙が浮かんでる。
「あたし、バカだからマー君の言ってること分かんない時もあるよ。
でもね、マー君はあたしの話ちゃんと聞いてくれるから、あたしも頑張って学校卒業しようって思ったんだ。
あたしね、あたし…」
急に泣き出されて、アクマの思考が止まる。
男は女の涙に弱い、なんて言うけれど弱いんじゃなくってパニックになるだけだろ、と彼は先人に悪態を吐いた。
「…ごめん、帰るね」
紙袋を押し付けて、ムー子が走り去ってゆく。
中を開けると、以前美味しいと褒めたたまごサンドが綺麗にラップに包まれていた。
「…クッソ!」
【工事中】の立て看板を殴って、後で叱られたのは言うまでも無い。
*
それは、本当に偶然だった。
何となく自分の住む町を見下ろしたいと、対岸の江ノ島シーキャンドルへと足を運ぶ。
クリスマスシーズンの今はカップルも多く、なんだから心が荒れそうだと自嘲しながらのんびりと苑内を散策する。
と、ある男女グループが目に入る。何か揉めているようで、ぼんやりと暇人のアクマはそれを見ていたが暫くすると一人を残してグループは大またに離れていった。
「…俺と同じか」
思って視線を戻すと、それは以前見知った親しい顔。
「…ムー子?」
考えるより早く、彼は駆け出していた。
「お前、何してんだよ」
上がった息を悟られないように、少しだけゆっくりと。
アクマは声を掛ける。
「…あれぇ、マー君?」
あの懐かしい声で、首を傾げるムー子。
「あたし、また怒らせちゃったのかなぁ」
俯いた彼女を、アクマはぎゅっと抱きしめた。
自分でも分からなかったけれど、そうしたいと、身体が勝手に動いた。
「…だからテメェは俺が居ないとダメだっつってんだよ」
「…うん」
ムー子が恐る恐る、アクマの背中に手を伸ばす。少しだけ高い体温が、背中からも伝わった。
「…学校、卒業できそうか?」
「大丈夫だって。先生、褒めてくれたよ」
「そうか、なら…」
「?」
「…その、卒業したら、家、借りるか…」
アクマの言葉に呆然と見つめるムー子だったが、漸く言葉を理解したのかうん、ぎゅっと抱きしめられた。
*
「オラ、ムー子行くぞオメー」
「あぁん待ってよぅ」
藤沢の改札口で、やっと人並みに髪が伸びたアクマがムー子を振り返る。
「なんでテメーはそんなに遅いんだ!」
「だってぇ、マー君が今日出かけようって急に言うからだよぉ」
ムー子の腕を掴んで大またで歩きだす。
「早いよぅ~~」
小走りについていくムー子が尋ねる。
「ねぇ、マー君。ところで何処に行くの?」
アクマはニヤリと笑って答えた。
「体育館だよ、県立の」
――そう、あれから一年。
今日は高校総体の日だ。
*FIN*
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