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Serena*Mのあたまのなかみ。
リクエスト
『誰かと仲良くしているディクを見て嫉妬するジェイソン』

相変わらずの俺アース(言わずもがな)
ナチュラルに一緒に暮らしてる感。
よく考えたら結構ディック側の視点ばかりで書いてて、ジェイの心情ってあんまり書いたことないよなぁと気付いた一品。
ディックが自分一筋なのも分かってるけど、やっぱり他の男とニコニコ話してるのはあんまり良い気分もしないだろうなー…と思いつつ、恋人にはクールな顔をしていたい(見栄っ張り)難しいお年頃なジェイソン氏。
そんな感じ。





ブルードヘイブンの街外れに出来た、新しいショッピングモールは開店して3ヶ月経った今でも随分と盛況なようで、遅めの昼食時間になっても家族連れやカップルでごった返していた。人の多さに目を白黒させながら、ジェイソンとディックはフードコートの端の方にやっとの思いで空席を見つけて座り込む。

「お昼もすっかり過ぎてるのに…やっと座れたね」

人を多く座らせるためだろう、小さめに設計された椅子にがさがさとビニール袋を鳴らして座ったディックから、荷物を受け取ってジェイソンはテーブルの足元に並べる。

「随分と買ったな」

其れは日本のアパレルブランドの袋で、縫製がしっかりしていて壊れにくいし、シンプルなデザインで幅広い年代が着こなせると評判の良いものだった。

「ん~、そうかな。
 ジェイの下着もそろそろ無くなりそうだったし、僕のも新しい替えが欲しかったし。あっ新しいシャツも買ったから後でサイズ合わせてみてね。似合うと思うんだ」

矢継ぎ早に話す恋人と、人の多さにうんざりしていたジェイソンはジーンズのポケットからくたびれた財布を取り出すとそのままディックに渡す。

「荷物見ててやるから、好きなの買ってこいよ。
 俺のも適当でいいから」

彼は付け加える。

「…そう?」

あまり人混みが苦手ではないディックは会話を中断させたことはさして気にせず、目を瞬かせる。

「でも自分の分は出すよ?」

財布を戻そうとしてきたのでジェイソンは首を振った。

「あの人混みに並ぶ労力だと思えば」

視線の先には飲食場所を囲むように並んだ店舗其々に長蛇の列があり、見ているだけでも具合が悪くなりそうだとジェイソンは思う。

「…じゃぁ、食後のコーヒーは僕に出させて」

真ん中のテーブルに小さめのボディバックを置いたディックは恋人の財布を受け取って細い通路に消えてゆく。
コットン素材の優しい青色のシャツと控え目にくるぶしを出したパンツスタイルが爽やかで、思わずジェイソンは目を細める。
対する彼は履き込んだお気に入りのジーンズと、グレーのインナーで年中いつでも着まわしが出来る格好だった。

「~~っ」

ずっと立ちっぱなしだったのにも疲れて、ジェイソンは肩を回して伸びをする。

向かいの椅子に置かれた荷物はさっきのアパレルブランド以外にも幾つかの服屋やインテリアショップのもあって、随分買ったな…とジェイソンは欠伸を噛み殺す。

ここ最近、一緒に出かけると云えばジェイソンのアパート近くのスーパーやダイナーばかりで“デート”らしいデートもしてなかったから『新しく出来たショッピングモールでも行ってみよう』と提案したのだが、結局買い物の内容は同棲する二人の生活雑貨ばかりで代わり映えしなかったな、と少しだけ後悔するのだった。

「…ふぅ」

一通り肩のストレッチをして溜息を吐くと、ジェイソンはフードコートを見回す。
見知った青いシャツの恋人は何処かと探すと、出入り口近くの一番人の並んだステーキショップに並んでいるのが目に入った。
――ジェイソンは肉が好きだ。
だからこそ並んだ店なのだろう。

彼の目の前には大柄な黒人男性が子供を抱えて並んでおり、どうやらディックはその子に微笑んだり手を振ったりして時間を潰しているらしい。時々子を抱いた大柄な男性と、その前に並ぶ細身の女性とも談笑していたから見ている自分まで温かい気分になれるのだった。
と、彼の後ろに並んだ人物がディックの肩を叩く。
ディックと背格好のあまり変わらない人物だったが、少しだけ長めに伸ばした鳶色の髪と、派手なピアスのデザインが家族連れとティーンのカップルの多いフードコートに妙に不釣合いで、彼が昔の恋人を知る人物なのだろうと容易く想像が出来る。

そんな昔の知り合いにも、変わらずにディックは爽やかな笑顔を向けていた。
くすくすと顔の前に手を充てて笑う仕草に、自分の知らない時代の話をしているのかと思うと変に心がざわつく。

――自分だって、元カノの一人や二人、すれ違ったり、話し込んだこともあったのに。

時々その人物からディックが小突かれ、また彼が何かを喋りだすと恋人は楽しそうな笑顔を向ける。

先ほどまでの気分の良さは何処へやら、妙にイラついてしまって、反対側のポケットからスマートフォンを取り出すと手早くテキストメッセージを送った。

『Tボーンステーキ、ガーリックライス、大盛り』

画面から顔を上げると、短いメッセージは直ぐに恋人に届いたらしく、彼が会話を中断してスマートフォンを取り出すのが見える。
覗き込もうとする後ろの人物に手でブロックするジェスチャーをして、ディックは素早く返信を打って寄越した。

『OK、どっちも大盛りで持って行くね。
 サイドにポテトは付ける?』

『いらん』

一番短い言葉を選んで返信すると、それきりディックからの返事は途絶えてしまった。

相変わらず遠くの目の前ではディックが優しい微笑みを浮かべてかつての関係のあった“誰か”と談笑している。
やっぱり面白くなくて“らしくない”思いながらも思わずジェイソンは立ち上がって大股で恋人の所へと歩いていった。

――ゴッサムに比べたら平和なこの町だって、窃盗は多い。
こんな人混みの中にあんな荷物を置き去りにしてしまったら、一つ二つ紛失してしまうかもしれない。
決して高い買い物ではないが、それでも折角買ったモノを盗まれるのは心が痛む。
…けれど、どうしても心のざわつきを押さえられなかったのだ。

慣れないモールでの買い物に、心も疲れ果てていたのかもしれない。
その感情が【嫉妬】であることにも、まだジェイソンは気付いていなかった。

「…よう」

注文口まであと少しの所で、ジェイソンは談笑する二人の間に割り込む。

「ジェイ?」

突然の恋人の登場にディックが目をぱちくりとさせる。

「…どうも」

後ろを振り向いてその男を一瞥すると、彼は急にしおらしくなってしまった。

「どうしたの?」

かつての“誰か”との会話を中断されてもディックは意に介していないようで、まっすぐとした視線がジェイソンに注がれる。

「……知り合いか?」

――邪魔して悪かったな、なんて心にもない言葉を続けるとディックは小さく頷く。

「ちょっとね」

其れ以上は深く探らないジェイソンに、ありがとう、彼は続ける。

「少ししつこかったから、来てくれて良かった。
 荷物、大丈夫?」

顔を上げて云われた刹那、注文口の店員が手を伸ばす。

「お次でお待ちのお客さま~こちらへどうぞ!」

お昼を過ぎてもピークタイムの其処は、店員の笑顔が張り付いたままだった。

「ポテトも追加で」

短く告げて、ジェイソンは列を離れる。
振り向きざまに見た“恋人を知る誰か”は遠目に見たよりもあっさりとした容姿で、随分小さく見える。

注文口のディックが、頭上のメニュー表を見ながら注文をしている声が耳に残った。

フードコートの座席に戻ると、其処は5分前と変わらない様子でジェイソンはホッと胸を撫で下ろす。
普段よりも大きい【安心】の感情が、それが単に荷物に対するものなのか恋人に向けられたものなのか、やっぱりジェイソンには分からなかった。





小さな呼び出し用ベルを持って席に戻ってくるディックの顔は妙に明るい。
彼が座るタイミングで、ジェイソンは声を掛けた。

「お前は何にしたんだ?」

「チキンステーキにガーリックライス。
 僕も精つけようかなって」

おどけて笑った恋人に、ジェイソンの顔から表情が消える。

「…もう、冗談なんだから真に受けないでよ」

ぷくっと頬を膨らませたディックに、ジェイソンは首を振った。

「悪ぃ」

――別に精を付けてくれたって、全く問題はないのだが。

「…ね、さっきの」

テーブルに置いたジェイソンの手を包み込んで、ディックが身を乗り出す。

「あれって、しっ――」

彼が耳元で口を開いた時、置かれた呼び出し用ベルが勢い良く鳴いた。

「…取ってくる」

恋人の言葉を遮るように、握られた手も振りほどいてジェイソンは席を立つ。
彼を見上げて、お願い、優しく笑顔を作ったディックはやっぱり会話を中断されたことを気にしていないようだった。


――嫉妬。
商品受け取り口まで人混みを縫うように歩くジェイソンはその言葉を反芻する。
初めて意識した感情に、心のざわつきが急に落ち着いた気がして「いやいや」独り、彼は頭を振った。

「あれ、ご注文…違いました?」

受け取り口で頭を振ったジェイソンに、店員が尋ねる。

「…こっちの話だ…すまない」

彼は大きめのトレイに所狭しと並べられた昼食を軽々と持ち上げて、恋人の待つ座席へと歩く。
鉄板から肉の焼ける音と、ガーリックの良い匂い。
盛られたフライドポテトは揚げたてで、添えられたケチャップの赤が白い皿によく映えていた。
視覚から訴えられた情報に、胃が活発に動き出したのが分かる。

――認めるものか、見知らぬ誰かに嫉妬した、なんて。

もう一度その言葉を反芻して、ジェイソンは席へ急いだ。

「待たせたな」

そう言ってトレイを置くと、とびっきりの笑顔がジェイソンを迎える。

「わぁ、美味しそう!
 僕も一口貰っていい?」

丁寧にナプキンを広げる恋人に、ジェイソンは頷く。

「…ジェイ?」

急に険しい顔になった恋人に、ディックが首を傾げる。

――嫉妬するのなら、コイツを知らなかった自分に嫉妬してくれ。

「いや、なんでもない。
 冷めちまうから早く食おう」

彼は一人納得すると、恋人との遅い昼食を楽しむことにしたのだった。


*FIN*

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