★☆Hello Baby☆★

バットマンシリーズ/ジェイディク

俺アースなジェイディク夫婦が子供を引き取った話。
（わたしの中では最終的に6人きょうだいくらいの大家族になる予定）

そして私は推し夫婦に子供を作る話が好きなんだと気付いたね。。。
色々知らなかった側面を見せてくれるアメコミってすごぉい…

「ねぇどうしよう。すっごく小さいよ？ちゃんと息してるのかな？大丈夫？？」

リビングの端に設えられた小さなベビーベッドの周りを何度も往復しながらディックがすやすやと寝息をたてる赤ん坊を覗き込む。
頭上には優しいパステルカラーのメリーがオルゴールの音を奏でながらくるくると回っていた。

「…生きてるだろ」

ソファに座ってぶっきらぼうに答えるジェイソンだったが、その視線は彼にしては珍しく泳ぎ、心もとない。

「そんなに騒がしくしてたら起きるんじゃないか」

続けて言われて、赤ん坊の鼻先に掌を充てていたディックははっとしてその手を引っ込めた。

「…そう、だね…」

そうしてまた彼は不安げな瞳で目の前で眠る赤子をじっと見つめる。

ぷくぷくした頬にもみじのような小さな手、友達に、と用意した駒鳥のぬいぐるみよりも小さな頭、全てが壊れそうで愛しくて、また、ちゃんと息をしているのだろうかと心配になって鼻先に手を翳す。

ジェイソンもその存在が気になるのか新聞から何度か顔を覗かせ、そしてまた視線を新聞に落とすのを繰り返していた。


――今日は、ジェイソンとディックが始めて子供を迎え入れた日で。

何度もソーシャルワーカーや保護団体と話し合いを重ね、やっと迎えることが出来た日だった。

ほんの数時間前。
ディックが初めて抱いた小さな命は、甘いミルクの香りがして
少しでも力を込めると壊れてしまいそうな繊細さで
けれど力強く泣くその声はまさしく“生きている”証だった。

「こんにちは、僕たちの赤ちゃん」

優しく揺らして挨拶すると、赤ん坊は母にも似た、灰青の瞳をじっと向け可愛らしく泣いた。

「わ、ゎ、どうしよう？！」

傍らのジェイソンに助けを求めると、彼は薄い育児書を見ながら答える。

「お、おっぱいかおむつじゃねーか？！」

「臭いかな？」

お尻に鼻を近づけてもディックは首を振るばかりで、
あたふたとジェイソンがミルクを作り、四苦八苦しながら飲ませたところでやっと赤ん坊は眠りについたのだった。

そして、現在に至る。

「この子の名前、どうしよう」

不意に大切なことを思い出して、ディックは背後のジェイソンを見遣る。

生まれてすぐこの家に連れて来られた小さな命に名前はまだ無く、ただ二人とも「この子」とか「赤ちゃん」と呼んでいたのだった。
もちろん、子供を迎え入れるにあたり考えてきた名前は幾つもある。
けれど、二人とも「子供を見てから名前を決めたい」と深くは決めていなかった。なんせ、性別についてだって引き取った今日になって初めて知らされたのだ。

「…デイジー」

ジェイソンがぽつりと答える。

「デイジー？」
ディックが聞き返すとジェイソンは頷いた。

「花の名前だが、古い言葉で“太陽の目”の意味する言葉らしい。
　…好きだろ、お前」

――本当はティムから聞いた話なのを黙ってジェイソンは告げる。

スーパーマンに憧れを持って、彼の星のヒーローの名前を戴いたディックの子供に相応しい名前だと、
ずっとジェイソンが温めていた名前だった。

「……とても、素敵」

ディックは呟いて、また眼前の“デイジー”と名づけられた赤ん坊を優しく見つめる。

「…これからよろしくね、デイジー。
　君の未来がとても良いものになりますように」

そっと柔らかいブランケットを直すディックに、いつの間にか迫ったジェイソンが肩を抱く。

「……俺たちを両親にしてくれてありがとな」

耳に届いたジェイソンの低い声に、ディックが顔を上げる。

「じぇい――」

言いかけた言葉は、愛娘の鳴き声で掻き消された。

「ふぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇ……」

控え目に泣き声を上げる我が子をディックが抱き上げる。

「ん、今度こそおむつかな？」

鼻をひくつかせたディックに、ジェイソンがチェストからおむつを取り出す。
今までのジェイソンの生き方からは想像できないその家庭的な仕草に、思わずディックは笑みを零す。
可愛い黄色のおむつ替えシートを広げた上に愛娘を寝かせて、彼は傍らのジェイソンに短く口付けた。

「ね、ジェイソン。
　父さんが僕たちを家族にしてくれたように、僕らも家族になっていこうね」


＊FIN＊