Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/ロビン(ディック)
“グレイソン”ではあるけれど、もうあの頃の“グレイソン”じゃないんだな、って気付いてしまったディックのお話。
唯の妄想の産物。
“グレイソン”ではあるけれど、もうあの頃の“グレイソン”じゃないんだな、って気付いてしまったディックのお話。
唯の妄想の産物。
不意に目が覚めてしまった真夜中過ぎ、妙に頭が冴えてしまって珍しくベッドサイドの小型のテレビをつけたら、古い白黒の映画が目に入った。
濃い髪色の髪の毛を綺麗に纏め上げられた女性のワンピースのコントラストがとても綺麗でチャンネルを変えられずそのまま見入る。
其れは古い映画のようで、若い男女2人が逢引をするのだろう、縞模様の大きなテントの裏口で落ち合うシーンにディックは妙な懐かしさを覚えた。
――あぁ、此処はサーカスのテントだ。
裏口から入った2人は舞台の袖からそのサーカスを覗き見する。
途中、出演を待つ猛獣に吼えられたり、菓子売りのクラウンに新入りかと勘違いされたりと小さなトラブルに巻き込まれながらも2人はサーカスの花形である空中ブランコをやっとの思いで見学する。
逆光に振り上げられるブランコ乗りの太い二の腕、二回転してなお笑顔を振りまく団員たち…
あの頃の記憶が脳裏を霞め、ディックは思わず己の二の腕を擦る。
まだ子供だったあの時に比べると体躯もしっかりしてきたし、何より同じ年の頃だった兄は既に舞台に出演していた。
――僕だって、フライング・グレイソンズのメンバーだ。
ディックはきゅっと拳を握り締めると何かを決意したように頷く。
鼻息も荒くテレビの電源を落としベッドに潜り込むと、明日どうやって父に相談しようかと思いを巡らせながら瞼を閉じた。
その日見た夢は、鮮やかな天然色のサーカスの夢だった。
*
「ねぇ父さん、お願いがあるんだけど」
パーティからの朝帰り、まだ少しだけとろんとした表情の養父を捕まえてディックはせがむ。
「…ん?なんだい、ディック。
お前からのお願いなんて珍しいな」
ブルースは濃い目の紅茶を啜りながら小さな息子に視線を合わせる。
「僕、空中ブランコに乗りたい」
両手を広げてくるりと回ったディックは人を惹き付ける力を持っていて、まるでその場にスポットライトが当たったような華やかさがあった。
「空中ブランコ?サーカスのか?」
其れはディックの心の傷であるのをブルースは知っていたから、彼の言葉に難色を示す。
「だって僕もグレイソンだ。
フライング・グレイソンズの一員なんだ!」
キラキラとした瞳を向けられて、「ダメだ」と叱るわけにもいかなかったから、ブルースは小さく顔を顰めたままアルフレッドを呼んだのだった。
「1日だけでいい、名のあるサーカスのブランコ乗りを招待してくれ」
「ありがとう、父さん!
僕きっと成功させてみせるよ!」
弾けるようなディックの笑顔に、思わずブルースも頬を緩めるのだった。
*
曲芸なら、自信があった。
だって僕はバットマンの相棒のロビンだから。
身軽に彼の周りを飛び跳ねる、ボーイワンダーなのだから。
*
笑顔でブランコ乗りの一団に溶け込んだディックだったが、その表情はブランコに乗るにつれてどんどん堅くなっていった。
身体能力の高い彼は直ぐに空中での回転のコツを掴み、あっという間に二回転出来るようになっていた。
「筋がいいぞ、ディック!
このままうちのサーカスで興業するか」
逞しい二の腕の、リーダーが豪快に笑う。
「そうね、男の子でこんな身軽な子なら、きっともっと素敵なアクロバットも出来るようになるわ」
ディックに空中での身体の動かし方を教えてくれる少し年上の女性も微笑む。
「二人同時の空中回転も夢じゃないかもな!」
ディックと同い年の少年も歯を見せて笑った。
地上での練習までは良かったのだ。
けれど、実際にブランコに乗るとタイミングが遅れ、リーダーの腕を掴みきれず、安全のために敷いたロープの上に落ちてしまう。
――あの悲劇の記憶が本人の気付かない内に身体を硬直させたのか?
最初の一跳びについてはそんな記憶がフラッシュバックしたものの、二度目からはしっかりと前を見据えて美しく跳ぼうと努力をしていたから、答えはNOだった。
「…ごめんなさい」
練習の終わりの時間、俯いたディックの頭をリーダーは大きく撫でる。
「そんな1日で出来てしまったら俺たちの商売上がったりさ。
でもディック、お前は筋がいい。必ず出来るようになるよ」
「そうよ、ディック。だから私たちのサーカスを見に来て頂戴。
きっと今度こそ出来るようになるわ」
豪華な羽飾りを付けた女性もしゃがんでディックを元気付ける。
「今度お前が来る頃には3回転マスターしてるからよ。
早く出来るようになれよ!」
少年も言ってディックの肩を叩く。
ディックは顔を上げて「みんな、ありがとう」そう笑顔を作るのが精一杯で、
彼らから送り出されると後部座席に駆け込んで思い切り泣き声をあげたのだった。
――僕はフライング・グレイソンズの一員で。
あの頃、ブランコは身近なもので練習だけとはいえ、父と一緒に跳べたのだった。
今だってロビンとしてゴッサムの街を駆け回っていたから、やり方さえマスターすれば変わらずにブランコに乗れだろうと。
けれど、現実は違っていた。
最後に握手をしたリーダーの手は豆だらけで、自分の切り傷だらけの手のひらと大分違っている。
――もう、住む世界が、生きる場所が違うのだ。
その事実に打ち据えられ、ディックは肩を震わせた。
「ねぇ、アルフレッド」
運転席でハンドルを握るアルフレッドにディックは話しかける。
「今日僕が泣いたこと、父さんには知らせないで。
楽しそうに練習をしてたって伝えといて」
――だって、僕はウェインの息子で、ロビンだから。
「それから――もっとパトロールも頑張るから、って」
――さよなら、グレイソンの末の弟。小さなブランコ乗り。
涙を拭って前を見据えたディックに、ルームミラー越しにアルフレッドが頷く。
ウェイン家の高級車は屋敷へ続く一本道を疾走する。ゴッサムの陽が落ちるのは早く、まだ5時前だと言うのに宵闇が迫っていた――
*FIN*
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