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Serena*Mのあたまのなかみ。
ニンジャバットマン/ジェイディク

単に神前婚するネタをジェイディクでしようと思ったら、ニンジャのアースじゃないと成立しないな、と思った程度の話です。




「お祭りに行きたい」

其れはダミアンの一言から始まった。

蝙蝠衆の隠れ里に住んで暫く経った頃、随分と里の子たちと慣れたダミアンが彼らから【祭り】の存在を聞いたらしい。
上座に座るディックが

「お祭り?」

首を傾げると、侍した頭がダミアンの言葉を補則する。

「きっと夏祭りのことでしょう。
 この里は実りの秋に神社で小さな宴を開きますが、山の向こうの海の村は夏の満月の夜に豊漁を願い、感謝する大きな祭りが開かれます」

「それそれ!」

前のめり気味に米粒を飛ばしたダミアンに、向かいに座ったティムが嫌な顔を浮かべた。

「僕は行かないよ。
 そのあたりは頭と城下の方に奴らの動向を探った衆の人たちと落ち合う予定をしてる。別に今行かなくても死なないだろ?」

彼は頭に振り返る。
苦笑して頭は肩を竦めた。

「山の向こう…ってよく塩の交換をする?」

興味を持ったのだろう、ディックが静かに箸を置き「ごちそうさま」両手を合わせる。

「そうです、海の村ですから、あそこは。
 この辺では1番大きなお祭りかと思いますよ」

頭が朗らかに続けると「行きたい」そんなキラキラとした視線のダミアンがディックに向かう。

「う~ん……」

可愛い弟からのお願いにディックが困ったように頭を捻る。

チラリと視線を動かすと目の前に大口でご飯を掻き込むジェイソンの姿が目に入って、彼は続けた。

「ジェイ、山の向こうの海の村への道は分かる?」

――彼が1番この地を歩き回り、兄弟の誰よりも詳しいのを思い出してディックは切り出す。

「あの村ならそんなに酷い山道でもないし、ダミアンの足でも余裕だろ」

小さな弟を鼻で哂ってジェイソンは茶を啜る。

「…トッド!」

怒った声のダミアンをディックは制した。

「3人で行くんだから、仲良くしなくちゃ。ね?」

「は!?なんで俺がお前らと一緒に…」

面食らった顔をしたのはジェイソンで、

「だって小さな男の子と僕が山道で山賊に襲われたら困るでしょう?」

悪気なく呟いた言葉にティムが吹き出した。

「ちょ、ディック…笑わせないで」

――誰よりも強い貴方を襲う不届き者なんて!

「そうだぞグレイソン!」

同時に年少者のダミアンも吼える。

「いいの、いいの。ジェイは僕らのボディガード♪」

上機嫌に続けたディックに、頭が声を殺して笑っていた。



「村の者には話をしてあります。
 道中、お気をつけて」

そう頭に送り出され、ディックとジェイソン、それにダミアンと里の子が頷く。

今日は海沿いの村の祭りの日。
子供の足もあるし、祭りは夜まで続くものだったから海沿いの村の、里と交流のある庄家に一行は世話になるように手筈を整えていた。
同行する里の子はこの庄家の親戚筋でもあったから、こうして今回一緒に彼らと出かけることが許されたのだった。

「お祭り、楽しみだな!」

ダミアンが言うと少年も「うん!すげぇ大きなお祭りなんだよ」そう、小さな頃に見たと言う【神輿】の話を始める。

浜辺から程近い神社からその神輿は村を練り歩き、そして最後は海に感謝と共に流されるのだと言う。
その時に一緒に流す灯篭も美しいと頭が説明してくれた。

「きっと綺麗なんだろうね」

波間に揺らめく灯篭を想ってディックが呟くと、まるで興味はないと言った風にジェイソンはそっぽを向いた。

「さ、じゃぁお祭りの始まるお昼に間に合うように頑張ろうか」

先を歩く子供たちにディックが声を掛けると、元気な声が帰ってきた。



頭と、そして少年の言っていたようにその村の祭りは大変賑わしいもので、普段の静かな村しかしらないディックらは少々面食らってしまった。

神社を出、村を練り歩く神輿は絢爛豪華で、祝詞と共に海に送られる姿はとても雄大だった。
美しい夕焼けに金の張り物をされた神輿は輝き、其れを守るように流された灯篭もきらきらと美しい。
夕焼けが夕暮れになってくると、凪いだ海に浮かぶ灯篭が遠くチラチラと光り、それも幻想的な風景だった。

浜辺から近い神社では酒や食事が振舞われ、1日中神輿を担いでいた男達をねぎらう宴と、そして今年の豊漁の儀も無事に執り行われたことへの感謝の宴が開かれていた。
山の里ではあまり見かけない新鮮な魚料理にダミアンは目を白黒させ、初めての味に舌鼓を打っていた。

振舞われた酒に少し気分が高揚したディックは酔いを覚まそうと神社の境内、宴の場から少し離れた拝殿へ続く階段に腰を下ろす。
満月の晩に行われる祭りであったから、月明かりの美しい、静かな宵だった。

真ん丸く浮かんだ月に薄く雲がかかり、遠く見える海にその薄い光が反射している。
もうすっかり灯篭の火は見えなくなってしまったから、ただキラキラと水面を月光が照らしていた。

夏の盛りだと言うのに、海風の吹くこの村の風は涼しい。
少し塩気があるのも海沿いならではの風だった。

「…ん…」

その涼しさに、火照った身体が冷やせるようでディックは伸びをする。
と、階段に伸びる影に彼は気付いた。

「…ジェイ?」

聞き覚えのある足音にその影が止まる。

「ジェイソン」

確信したようにその名を呼ぶとその人は低く声を発した。

「此処に居たか」

黒の着物が月明かりの闇に溶ける。

「ん…ちょっと酔ったみたいだから、少し覚まそうかなって」

隣に座ったジェイソンに頭を預けてディックは言う。

「そうか」

対するジェイソンの答えはいつも短い。

「お祭り…凄かったね」

煌く水面を見つめながらディックは呟く。

「“日本”って凄いね。
 たくさん、神様がいる」

彼は続ける。

――彼らの住む忍びの里にも神社があった。
以前、頭が話してくれたように秋には実りの祭りが開かれる、里の守り神が。

「何にでも神様が居るらしいからな」

ジェイソンは頷く。
八百万の神、ディックが囁く。

頭やティムがその“神様”について随分丁寧に説明してくれたことを彼は思い出した。

「…此処は、この村全体の神様で、海の神様でもあるもんね」

後ろの本殿を振り向いてディックは言う。
薄明かりに浮かぶ古い本殿は怖くも見えたが、今宵は人々の思いに浮かれているようで優しい雰囲気を纏っているようにも見えた。

「それなら――」

ジェイソンはいつもより体温の高いディックの肩を引き寄せる。
珍しく積極的な恋人に、ディックは「?」首を傾げた。

少しだけ酒に酔った、ぽわんとした瞳がジェイソンを見つめる。
紅潮した頬は、情事の表情とよく似ていた。


「此処でお前に『愛してる』って言えば神に誓ったことになるな?」


ジェイソンは耳元で囁く。

「…えっ!?」

ディックの瞳が瞬き、みるみるうちに頬が真っ赤に染め上がる。

「リチャード、愛してる」

駄目押しに告げて背中ごと抱きしめると、突然の展開にディックがただ瞬きしているのが視界の端に映った。

「…ぇ、え、ジェイ、あの……」

まだ目を白黒させるディックに、ジェイソンは薄く笑う。
其れは滅多に見る事の出来ない、彼の年相応の優しい微笑みで、

「誓ってやるよ、この国の此処の神に」

言って、無防備なディックの額に短く口付ける。

「…あとで戻って来いよ。
 じゃないとダミアンが心配する」

ジェイソンは言って、来た時と同じように独り階段を下る。
彼の影が見えなくなると、やっと思考が現実に戻ったディックが頭を抱えた。

――絶対、ジェイソンも酔っ払ってる……!



翌朝。

昨晩から一睡も出来なかったディックと、村の若者たちに酔い潰されてもっと酷い顔のジェイソンが裏の井戸で顔を合わせる。

視線がぶつかって、慌てて背中を向けたジェイソンに、思わず後ろからディックは抱き付いた。

「……昨日の、覚えてる?」

「…あれは、その…」

珍しく言葉を濁したジェイソンに、ディックは抱きしめた両腕に更に力を込める。

「…酔っ払いだとしても、嬉しかったよ」

がっしりとした広い恋人の背中に彼は頭を押し付ける。
まだ体内に残るアルコールの匂いと、強い彼の体臭に嗅ぎなれない磯の香りが混ざっていた。

「いつか、元の世界に戻れたら。
 そしたらちゃんと――」

ジェイソンの呟きを最後まで聞かないで「うん」答えるようにもう1度頭を押し付ける。

――元の世界に帰れる保証なんてこれっぽっちもない。
けれど、ジェイソンの奥さんになるのも悪くないなぁとディックは心の中で微笑んだ。

腕の力を緩めると、ジェイソンはくるりとディックに向き合う。

「…ディック」

笠の無いジェイソンの顔をこうして見るのは久しぶりで、緑の瞳が朝日を写しこんで綺麗だった。
そんな彼の低い声に呼応するようにディックが背伸びをする。

控え目に愛を誓った2人は、新しい朝を迎えようとしていた――

*おしまい*

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