Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/ディックとジェイソン
タイトルはそのまま『愛の才能』
ほんのりジェイディク感。
会話文が続くだけのダラダラした話。
タイトルはそのまま『愛の才能』
ほんのりジェイディク感。
会話文が続くだけのダラダラした話。
――大切なのは、愛される才能。
木製の扉の少し歴史のあるバーで、
重低音の響く、妙な香りのするクラブハウスで。
ディックは瞬時に気の弱い純朴な青年になったり、
強気のワガママな女王様を振舞ったり、
“求める”相手の好みに変貌する、まるで透明なカメレオンのような青年だった。
其れは天賦の才なのか、努力の賜物なのか、彼にも誰にも分からない。
育ての親でもあり、家族であり師でもあるブルースの前では文武両道の面倒見の良い兄を、
年若い弟達の前では微笑を絶やさない優しくて頼れる兄を
何の違和感もなく演じきるから、誰も“本当”のディックを知らなかった。
ただ一人、すぐ下の弟を除いては――
*
「なぁ、いいだろ?
今日はたっぷり金も用意したし、お前と楽しもうって思ってンだ」
大通りを入ったすぐ裏のクラブハウスの出入口で、ディックは見知った顔に迫られる。
彼の顔には覚えがある。
地方の成金財閥の御曹司で、ついこの間のゴッサムの議員選挙にも立候補した男だ。
金にモノを言わせたアピールで、彼の顔が印刷されたポスターが町中に張り巡らされていたから、嫌がおうにも彼の名前と顔を誰もが一致させていた。。
鰓の張った大きめの顔は、ディックの好みから外れていたが、首から下はきちんとトレーニングを積んでいるようで均整の取れた体つきで、其処だけは悪くないとディックは値踏みした。
「ん~、どうしよ?」
――彼の好みは少し頭の弱そうな、自分に従順な存在。
ディックは人差し指を唇に押し当ててわざとらしく首を傾げる。
ぱちぱちと瞬きをして彼の反応を伺うと、にっこりとディックは笑った。
「うん、いいよ。
いっぱい、楽しもう?」
甘えた調子で高級なスーツに身を沈ませると、興奮した吐息がディックの首筋を撫でる。
しっかりと糊付けされた白いカッターシャツから覗く相手の喉元に、ちゅっとディックは音を立てた。
*
「友達が来るまで、ちょっと付き合ってくれません?」
老舗のバーカウンターに座ったディックは、隣に腰掛けた老紳士にそう擦り寄る。
勿論、『友達』が来るだなんて真っ赤な嘘で。
上品な雰囲気を漂わせる紳士に近付きたいと、そう思って声を掛けた。
表情こそ柔和であるものの、鋭い視線の紳士をディックは何かの研究職か大学の教授であると推測する。
きっとその好みは博識で真面目な、議論も出来る青年だと踏んで彼は言葉を選んだ。
「さっきからモルトウィスキーのページをご覧になってますけど…お詳しいんです?
実は僕も最近モルトの世界に魅了されていて……」
遠慮がちに上目遣いで見遣ると、紳士の表情が変わったのが分かったから、
その先を分かって肩を触れ合わせた。
「…もっと詳しく……教えてもらえませんか?」
そう耳元で囁いて、頬に口付けた。
*
「お前、また、男を変えたのか」
実家に帰るよりかは楽だったから、と3ブロック先の弟の住処を訪ねたディックに、辛辣な言葉をジェイソンは浴びせる。
――1番上の兄貴の男遊びの激しさは家族の誰もが知る事で、ただ、誰にも迷惑は掛けていなかったから誰も何もディックに尋ねてはこないのだった。
ただ1人、こうして時々住処に邪魔をされるジェイソン以外は。
面倒見の良い兄を見てきたジェイソンは、口が悪くても心根は優しくて
こうして突然訊ねてくる面倒な客人でも辛辣な言葉を吐きながら「座れよ」そう買い置きのコーラなどを出してくれるのだった。
「変えたつもりもないけど」
――そもそも、付き合ってすらいないし。
出されたコーラのプルタブを引きながらディックは答える。
時間は日付が変わったすぐの時間で、ジェイソンが寝支度をしていたところにお酒の入ったディックがドアベルを鳴らしたのだった。
「どうせ誰も本当の僕なんて興味ないでしょ」
ディック用に、とクッションやブランケット、それから着古したTシャツなんかを抱えたジェイソンを見遣りながらディックは体育座りのまま視線を彼に向ける。
「自分を曝け出せる相手じゃなきゃ、自分なんて出さないだろ
お前は本当の自分を見せたい相手っているのか?」
ソファにクッションを積み上げ、寝巻き代わりのTシャツを投げたジェイソンが兄の呟きに返す。
「さぁ
いないんじゃない」
ディックは投げられたTシャツを掴んで一人ごちる。
――だから僕はこうして男をとっかえひっかえ…
心の内に続けて、また声を発した。
「いいの、僕には愛される才能があるから」
着ていたトップスを無造作に脱いで、渡されたTシャツに腕を通す。
自分より体格の良い弟の其れは少し大きめで首周りもすっかり伸びていたが、突然の来客にもこうして気を遣ってくれる彼の優しさに心が温かくなった。
「なんだそりゃ」
寝支度が終わったのだろうか、ジェイソンもコーラのプルタブを引いてごくごくと喉を鳴らす。
「愛される才能。僕は誰からも愛されてるでしょう」
ソファに置かれたクッションを叩いてふんわりさせながらディックは続ける。
「別に俺はお前の事を愛してないぞ」
一気に飲み干したのだろう、空の缶を振った彼に「僕のも」ディックも空になったコーラを渡す。
「うそ~」
大げさに驚いた顔を作ると、ジェイソンは面倒そうに頭を振った。
「こんな軽薄でコロコロと変わる奴におれは心を開こうと思わないね」
弟の言葉にディックの形の良い眉が曇る。
「…別にジェイに分かって欲しいとか思ってないし」
朗らかな彼には珍しく、不機嫌な声にジェイソンは笑った。
「そりゃ有り難い
おれもお前と深く繋がりたいだなんて思ってないしな」
彼の対応に、もっとディックの顔が不機嫌に変わる。
「なんかそれ、酷くない?」
整った顔立ちで凄まれると其れだけで萎縮してしまいそうだが、生憎子供の事から見知った顔のジェイソンには何も通じなかった。
「普通だろ
お前がそんな態度だから、俺だって軽く返したくなる」
クッションを少し押しやって、ジェイソンがディックの隣に腰掛ける。
木製の枠がキィと小さく鳴いた。
「そんな態度?」
ディックはジェイソンを覗きこむ。
「…作ったお前」
ジェイソンはチラリとディックを見遣ったが、直ぐに視線を真っ直ぐに伸ばした。
「ジェイの前では割と素だと思うけど?」
首を傾げたディックに、ジェイの返しは相変わらず冷たい。
「ほら、その兄貴ぶった言い方とかさ。作ってるだろ」
「…わかんないなぁ」
「ま、『僕には愛される才能がある』だなんて云ってる時点で自分でも分かってないんじゃねぇの」
「…………」
図星を突かれて黙ったディックに、ジェイソンは続けた。
「怖い顔すんなって」
「…だって」
――別に、ジェイソンに好かれたいとか考えてない。
けど――
「別にお前はお前を好きだってやつと付き合えばいい。
それはお前の勝手だし、俺の知らない事で結構だ」
ディックの心を見透かしたようなジェイソンの言葉に、ぱちくりと彼の瞳が見開く。
「ジェイは僕が誰と付き合ってもいいの?」
「お前の人生だろ?俺が口出す道理は無いさ」
鼻で哂ったジェイソンに、つまらなさそうにディックは口を尖らせて膝を抱えた。
「…僕はジェイになら口出して欲しいけどなぁ
ブルースならムカつくけど」
「………」
「??ジェイ?」
急にだんまりした弟に、ディックが声を掛ける。
「お前さ、それ、素?」
眉頭を寄せたジェイソンは“怒っている”表情で、怖いなぁ、ディックは溜息を吐いた。
「えっ、何が?」
「…いや、なんでもない
お前が『愛の才能』なんて変なこと言わなくなったら教えてやるよ」
まるで子供にするようにディックの頭をがしゃがしゃと撫でてジェイソンは立ち上がる。
「えーーージェイのいじわる~」
乱された髪を直しながら、べーっとディックは舌を出した。
「いいからさっさと寝ろ。朝たたき起こすぞ!」
後ろを向いたまま片手を上げたジェイソンが、リビングの電気を消す。
ブラインドもない窓の先、眠る街を寝転がったソファからぼんやりと見つめる。
――愛される事の何処が悪いんだろう。
やっぱりすぐ下の弟とは分かり合えないな、と思うディックだった。
*おしまい*
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