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Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/蝙蝠一家

お題箱より
「せれなさんのジェイディクのどちらかが動物になる話が見てみたいです!」

と、いうコトで動物のお話です。
最初に考えた時は手っ取り早くヴィランに活躍して貰おうと思ったのですが…?
結局、蝙蝠一家ののんびりしたお話になってしまうのはきっと私の妄想力が足りない所為でしょうw
あんまり馴染みがないんだよなぁ、獣姦(コラ)



「ナイトウィングと連絡が取れなくなった…」

普段以上に重苦しい声のブルースに、兄の居住地を訪れた兄弟らが見たものは机の上の書類が散乱し、マグカップは倒された酷い部屋だった。

「なンだ、これ…!」

部屋は長い間留守になっていたのだろう、妙に饐えた臭いが鼻に付きジェイソンは思わず顔を顰める。

「…おかしいね…彼ならちゃんと連絡を残して出かける筈なのに」

テーブルから落ちたマグカップを拾ってティムも呟く。
何事にも丁寧で律儀な長兄なのだ、こんな風に部屋を荒らして姿を消すだなんて事件に巻き込まれたとしか思えない。

バスルームを覗きに行ったダミアンが首を振りながら戻ってきた。

「やっぱり何処にも居ねぇ…」

普段は強気な彼が珍しく肩を落としたのに、その場に居た2人の兄が目を丸くする。

「…なんだよ」

居心地悪そうに睨んだダミアンが、兄のその先に“何か”を見つけて指をさした。

「……トッド、ドレイク…後ろ…」

ベッドの上に脱ぎ捨てられた洋服がほんの少し動いたので素早く3人は身構える。

「「「!!!」」」

生唾を飲み込むと、洋服の隙間から顔を覗かせたのは小さな猫で「にゃぁ」弱々しい声に彼らは顔を見合わせたのだった。



ディックのアパートで見つけた猫は親離れして間もない猫のようだった。
ハチワレの容貌に足先だけが白くなった、所謂【靴下を履いた】猫である。
黒い毛並みは上等なビロードのようで美しい。
彼は外部者の兄弟に唸り声1つあげず、擦り寄ってきたから「まさか…」良からぬ想像が脳裏を掠める。

部屋の惨事はそのままに、兄弟は光の速さでウェインの屋敷の地下、ケイブへと戻ったのだった。

「ねぇ、大変!
 ディックが猫になっちゃったよ!!!」

いの一番に駆け込んできたティムが扉を開くなり、叫ぶ。

「最近のヴィランで姿を変えるとか、そういった能力の奴はいなかったか」

続いて大股で入ってきたのはジェイソンで、最後に来たダミアンは恐々と両手でディックを抱えていた。

「おや」

英国紳士であるアルフレッドが連れられたディックに反応する。

「では坊ちゃまも飲めるミルクを用意しましょうか」

彼は一礼すると奥の通路へと消えていく。
人間しか住まないこの場所に『猫用ミルク』なんてあるのだろうか、疑問に思ったけれど此処は大富豪・ウェインの屋敷なのだ。きっと直ぐに執事は猫になったディックにとって最高の環境を整えてくれるだろう。

「…さて」

何枚ものモニターと睨めっこしていたブルースが、やっと兄弟らの方へ椅子を回す。

「少し、これからの事を考えようか」

重苦しい声のブルースに呼応するように、

「にゃあん!」

猫のディックも小さく鳴いた。



――結局のところ、話し合いでは何の成果も上げられなかった。

ディックを宥めすかして全身スキャンしたものの、出た答えは『猫』そのものでディックとの関連性や生体反応は何一つ見出せず、ただ猫のディックが雄猫で痩せてはいるものの健康体であるということだけだった。

ティムの膝の上で丸くなっていたディックがぴくりと髭を動かす。

猫になっても自由気ままなところは人間の頃と変わっていなくて、膝の上で丸くなってみたり、モニターの裏側から此方を覗いてみたり、足元で毛づくろいを始めたりと彼は何事にも縛られなかった。

「あぁ、でもどうしたら良いのさ…!」

慣れた手つきでディックの頭を撫でたティムの手のひらに、もっと撫でてと言わんばかりにディックは小さな頭を押し付ける。
見ていたジェイソンが大きくお腹をくすぐってやると、嬉しそうに身体をくねらせたからダミアンも見ていられずに即席のねこじゃらしを目の前で振ってやった。

兄弟の一連の動きを見て、アルフレッドが微笑む。
ブルースは頭を抱えると

「少しこちらでも調べる。
 お前たちはディックの相手をしてやってくれ…」

そう、背中を向けた。



ディックが“猫”として生活して半月。

今やすっかりアルフレッドの拵える専用の食事と屋敷中を駆け回る運動のお陰でその黒い毛並みはつやつやと、首に巻いた青のベルトも良く似合う美しい家族となっていた。

「ただいま!ディック!どこだ!?」

学校から帰ったダミアンは初めにディックを探して挨拶するのが当たり前になっていたし、ティムが自室で調べ物をしているときは膝でのんびり過ごすのが常で、お気に入りのベッドはジェイソンので、ぽかぽかな昼間はよく丸くなって寝ているのだった。
勿論、ブルースが難しい顔をしているとその膝に飛び乗って「撫でて」と頭を押し付けるのも忘れない。

家族のアイドルは姿を変えたってアイドルのままだった。

そんなある日のこと――

ダイニングルームでアルフレッド特製のクラムチャウダーを掬っていたところへ、家族のスマートフォンのアラートが一斉に鳴り響く。

ゴッサムの凶悪な犯罪者のアラートは別に設定してあったから、これは“家族”からの緊急連絡だ。
家族、なら此処に全員揃っているし、一体…?誰もが眉を顰めたところへ、音に驚いたのかディックがブルースの膝に飛び乗る。逆毛を立てた姿が珍しく、一瞬彼は目を丸くしたが安心させるように背中を擦った。

機械類の扱いに長けたティムが受け取ったアラートを表示させる。

連絡の主は長兄でもあるディックからで、慌てた彼の様子が映し出されていた。

『ねぇ!僕が猫になったってニュースが流れてるんだけど!?』

血相を変えた端正な顔立ちに驚いたのは逆に連絡を受けたウェイン家の家族で、一斉に彼らは黒い猫のディックを見遣る。

『え、なになに!?
 何があったの?!』

顔を背けられて驚くディックに、アルフレッドが冷静な声で話しかける。

「ぼっちゃま、お久しぶりです。
 今からお屋敷に来て頂けますか?」

『Hi、アルフレッド!
 ディックなら僕と一緒だから、15分くらいでそっちに着くよ』

ひょっこりと顔を覗かせたクラークに丁寧にアルフレッドはお辞儀をして通信を切断したのだった。



「え、僕が!?猫に!?」

事のあらましを聞いて素っ頓狂な声を上げたのは“人間”のディックで、懐かしい匂いに“猫”のディックがひっきりなしに喉をゴロゴロと鳴らしていた。

「…ブルース、まさかとは思うけど…忘れちゃったのかい?」

アルフレッドの淹れた暖かい紅茶を啜りながら悪戯っ子のように微笑む。

「あ、あれは…その…」

冷静沈着なブルースにしは珍しく言葉を濁したその姿に、ジェイソンら兄弟が訝しげな視線を投げる。

話は凄く簡単なことだった。

長期の潜入任務だ、とブルースに頼まれたディックが遠く離れた内紛の多い砂漠の地域へと潜伏調査を行う直前。
たまたま捨てられていた子猫を拾ってしまったディックは猫をどうしようかとクラークに相談していた。
最初の頃こそ事情を知るクラークが面倒を見に何度か部屋を訪れていたのだが、彼も街のヒーロー、それに一般人も兼任していたから公私の忙しさに、すっかりとその任が頭から抜け落ちてしまって。
それに、最初半月ほどだと言われていた潜伏調査も度重なるトラブルで任務期間も伸び、そして最悪なことに機械の故障も重なって碌にクラークとも連絡が取れなかったのだと言う。

――だからディックの部屋に居た猫は別にディックの化身ではないし、彼自身も人間のままである、と。

「大切な息子と連絡が取れなくなったから…少し…取り乱してしまっ……」

言葉少なに居心地悪そうにそっぽを向いたブルースに、子供たちが溜息を吐く。

「皆様に伝えるタイミングを見失ってしまったのです」

簡単につまめる小さなサンドイッチを置きながらアルフレッドがフォローする。

「ただ、猫の坊ちゃまとの生活も良かったでしょう?」

尋ねられて、それなりに“猫”のディックとの生活を謳歌していた兄弟は口を噤んでしまった。

「…とりあえず、お前が無事でよかったよ」

まだ納得していないのか、口を尖らせたジェイソンが呟く。

「そうだね、『ナイトウイング復活!』って大きな見出しにしなきゃ」

ティムも頷く。

「でもよ、コイツ…ディックはなんて呼んだら良いんだ?」

安心しきった顔でディックの膝で毛繕いをする猫にダミアンは言う。

「ディック」

ブルースが低く呟くと

「なぁに?」

「みゃぅ!」

2人のディックがブルースを向く。

「ほら、コイツも自分の事が“ディック”だって思ってるみたいだし」

ダミアンが続けると、うーん、“人間”のディックが頭を抱えた。
と、彼は満面の笑みで顔を上げた。

「じゃぁ、コレを期にみんな僕の事『お兄ちゃん』って呼――」

「呼ぶかよディッキーバード」

「そんな、憧れのロビンをお兄ちゃんだなんて、そんな…」

「グレイソンで区別出来るだろ」

おいおいに口走る弟たちに「もうっ!」ディックはまたぷっくりと頬を膨らませるのだった。


クラークも交えた和やかな話し合いは随分と遅い時間まで続き、最終的に各々が好きに人間も猫も“ディック”と呼べばいい、に落ち着いた。

任務のあと、直ぐに呼び出された“人間”のディックは疲れたのだろう。
ダイニングの隅に置かれた椅子で事切れていて、ぴったりと寄り添うように“猫”のディックも眠りこけていた。

「…ディック」

悪戯に呼んだ小声に黒猫の耳がぴくりと反応する。
少し遅れて、黒髪も揺れた。

「みゃぅ?」

「……なぁに?」

「おやすみ、俺のディッキーバード」

囁いた声に、夢うつつにディックの頬がふっと緩んだ。

「おやすみ、僕のジェイバード」


*おしまい*

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