I know U

バットマン/ジェイディク

診断メーカーお題
貴方はjaydickで『自分だけ知ってればいい』をお題にして140文字SSを書いてください。

「……喉が痛い」

日曜の朝、ゆらりとリビングに現れたディックが開口一番に頭を抱える。

トースターから焼けたパンを引っ張ったジェイソンは「あちっ」厚切りの食パンを白い皿に放り投げ、耳たぶに手を遣った。

「喉？」

ジェイソンは聞き返す。

昨晩はそんなに激しかっただろうか、そんなに喘がせてしまったか？
それとも無理に呑み込ませてしまったのが悪かっただろうか？

思い当たる節が多すぎて顔を顰めたジェイソンにディックは小さく苦笑して頭を振る。

大雨の中帰宅して、そのままロクにシャワーも浴びずに恋人を求めて。
久しぶりの行為だったのと、新しい“玩具”に興奮していつも以上に盛り上がってしまったのは自分の責任でもある。
それに「出せ」と頭を引き剥がされたのに「…飲んじゃった」と恋人の性を飲み下したのも。

「……違うよ」

ディックはゆっくりと続ける。

「多分、風邪」

ジェソンの着古したTシャツを一枚着ただけの状態で、彼は悪びれもせず『風邪』だと宣言する。

「……くすり、ある？」

冷蔵庫を開けてオレンジジュースを取り出したディックに、ジェイソンはマグカップを渡す。

「――鎮痛剤はあると思うが…」

ちょっとジェイソンは考えて、「買ってくる」そうずり落ちたジャージを引っ張り上げた。

「パンは？」

両手でカップを包み込んで、子供のようにジュースを飲むディックが尋ねる。

「…冷めてたって食えるだろ」

ジェイソンは昨晩脱ぎ捨てたTシャツに腕を通して顔を覗かせる。

「どのみち、この家にお前の食えそうなモンは置いてねぇし。
　ついでに食い物も買ってくるよ」

彼は言ってテーブルに置きっぱなしの鍵を掴む。

――此処はジェイソンが住む酷く環境の悪いアパートで、電気と水が通っているくらいで“文化的”な生活からは遠い世界だった。

「何が食いたい？」

振り向いたジェイソンに、ディックは甘えて絡みつく。

「…ジェイソン」

唇を寄せた恋人の顔をジェイソンは押しやる。

「ふざけてないで、だ」

「もう、冗談なのに」

頬を膨らませたディックに、ジェイソンは続ける。

「チキンスープなら飲めるか？」

調子が悪いとき、よく執事が作ってくれていたから。
特製のチキンスープが浮かんで彼は口にする。

「いいね。
　マカロニ茹でて、久しぶりに食べたいかも」

頷いたディックにジェイソンは頭を撫でると「ちゃんと服着てあったかくしろよ」そう言って部屋を出て行った。

しんと静まり返った部屋で、一人残されたディックは恋人の焼いたパンを小さく齧る。
水分の少ないパンは痛んだ喉に適さない食べ物だったが、つい、手が伸びてしまった。

それから慌てて出て行った恋人に想いを馳せる。

――珍しく慌てたジェイソンの姿。それは、僕だけ知ってればいい――

少しだけ歪んだ思いが、飲み込んだパンと一緒に身体に落ちていった。

＊END＊