Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル
Twitterより:
「従業員の労働環境改善よ!」
プリヤの一声で残業禁止を言い渡され、夕方に本部事務所を放り出された主ニルちゃん。
奇しくもその日はクリスマス。予定もないし、と街のレストランを訪ねるも今日は何処も満席…
「何か買って帰ろうか」とテイクアウトを提案するも、どのお店も予約でいっぱい。仕方なくスーパーで値引きされたしなびた惣菜と1/4カットのケーキを買って「寂しいクリスマスだな」なんて買い置きのシャンパンをかち合わせる。
「でも、貴方と過ごせる最高クリスマスだよ」って微笑むニールでおしまい!
…です。キャプションで全てがバレるシリーズ。
*
アルデラミン…ケフェウス座で最も明るい恒星。唯一の2等星(wikiより)
Twitterより:
「従業員の労働環境改善よ!」
プリヤの一声で残業禁止を言い渡され、夕方に本部事務所を放り出された主ニルちゃん。
奇しくもその日はクリスマス。予定もないし、と街のレストランを訪ねるも今日は何処も満席…
「何か買って帰ろうか」とテイクアウトを提案するも、どのお店も予約でいっぱい。仕方なくスーパーで値引きされたしなびた惣菜と1/4カットのケーキを買って「寂しいクリスマスだな」なんて買い置きのシャンパンをかち合わせる。
「でも、貴方と過ごせる最高クリスマスだよ」って微笑むニールでおしまい!
…です。キャプションで全てがバレるシリーズ。
*
アルデラミン…ケフェウス座で最も明るい恒星。唯一の2等星(wikiより)
それは、単に彼女の気まぐれか、組織の上層に立つ人間としての声明か。
「労働環境改善よ!」
テネット本部の事務所へ久しぶりに顔を出したと思ったら、声高らかにプリヤはそう宣言する。
別に、この組織の労働環境が過酷なわけではない。
ただ仕事内容が捜査や軍事演習まで多岐に渡るから、自然と過激な勤務体制に変わってしまうだけだった。
「プリヤ…急に言われても…」
会議室でニールとマヒアの3人で設計図と睨めっこしながら潜入ルートの確認作業をしていた男が小さく抗議する。
けれど女帝は男の意見など意に介さなかった。
「ミーティングは止めにしてあと5分で部屋を退出して。
他の部屋の皆ももう帰らせたわよ」
プリヤはそう男に得意げな顔を向ける。
「アイヴスたちも向こうで残ってたみたいだけど…?」
広げた設計図をくるくると丸めながら尋ねたマヒアに、プリヤは「さっき部屋から叩き出した」なんて物騒な返事をする。
「だから貴方たちも叩き出されたくなかったらさっさと支度して頂戴!」
はい、はい!急かすように手を叩いたプリヤに、男もニールと目を合わせて苦笑する。
確かに、少し前から3人の電話がよく震えていた。緊急の連絡であれば身に着けているスマートウォッチが鳴るはずなので緊急性がないと判断し、3人で議論をしていたのだ。――きっとアイヴスやホイーラーからの連絡だったのだろう。
男は腕時計を見遣る。表示された時刻はもうすぐ夜の8時。
夕食には遅い時間だが、普段よりずっと早い帰宅になりそうだ。
「マヒア、この後予定でも?」
既にニールと夕食を摂るつもりでいた男はマヒアにも声を掛ける。
「おいおい、ボス。今日は何の日か分かってるのか?」
「…12月25日」
「クリスマスじゃないか。
今日は家族が待ってるんだ、折角誘ってくれたのに悪いな」
男はその日の事をすっかり忘れていた。確かに今日のホイーラーは妙にそわそわしていたし、いつもきっちり纏めている髪を下に下ろしていて雰囲気が柔らかかった。
「だからか」
1人、顎に手を遣って納得した男が呟く。
それから、はっとした顔でニールを見つめた。
「……ん?僕?
大丈夫だよ、何も予定はないから。一緒にご飯食べよ」
彼の心を見透かしたように朗らかに笑うニールに、マヒアが男を小突いた。
*
「ほらほら、帰った帰った!!」
威勢の良いプリヤの声に見送られて、玄関ホールで男はマヒアと別れる。
12月の寒空に吐く息が白く、巻いた厚手のストールをニールは引き上げて口元を覆った。
「さっむ!」
「…もう12月も終わるからなぁ」
真面目に言う男の、耳に着けたふわふわのイヤーマフが笑いを誘ってニールは顔を崩す。
「…どうした?」
「ううん、貴方のそのマフが可愛いなぁって思って」
「…可愛いも何も、君が選んでくれたんだろう」
「そうだっけ」
「今年は何も用意出来なかったな、済まない」
「いいよ、別に貴方からお返しが欲しくて贈ってるものでもないし」
「でもきっと、君は今年も何か用意してるんだろう?」
「うーん…まぁ、ね。
それより、早くご飯にしようよ!凍えちゃう」
ニールはポケットから手を出すと、男の手を引っ張る。大股で歩き出した彼に、引きずられないように男も小走りになった。
イルミネーションの施された並木道を歩きながら、ニールはお気に入りのイタリアンのドアを叩く。
「空いてる?」
「大変申し訳ありません、本日は満席でして…」
肩を落として隣のブロックのピザの美味しい店を覗いたが、其処も「本日は予約のみの受付でございます」断られてしまった。
最近開拓したチャイニーズのお店、時々食べたくなるベトナム料理…
大きなハンバーガーで有名なお店ですら満席だと断られ、歩き疲れた男とニールの2人は街中に佇む小さな緑地広場のベンチに腰を下ろした。
「…全滅、だったな」
「はは…まさか此処まで断られるとは思ってなかった」
「外で食べるのは諦めて、何か買って帰ろうか」
「わぁ、いいね! テイクアウトなら買えそうだし。
帰り道にあるダイナーに寄ってみよう」
男の提案にニールは顔を輝かせる。
チラリと腕時計を見ると、時刻は8時30分を過ぎたところで、30分近くもこうして無駄足を踏んでいたのだった。
「そうと決まれば、善は急げ!」
ダッフルコートのフードを揺らして立ち上がったニールに、男もコートの襟を立てて立ち上がる。
「ピザもいいし…あ~インドカレーとかも美味しいよねぇ!」
冷たくなった手先を擦り合わせて温めるニールの手を、男は黙って掴むとコートのポケットへ引き込む。
珍しく“恋人”らしい行動の男に「好き!」ニールは言って頭を寄せた。
*
「あー…ごめんなさい。今日はレストランの方で手一杯で」
「すみません、今日はテイクアウトしてないんです」
「店じまいの時間だから、悪いね」
ドアを叩く店、全てからテイクアウトも断られてしまって男とニールは途方に暮れる。
「…まさか」
「まさか」
「こんな」
「こんな」
「…真似するな」
「だってもう何も考えられないよ~~~」
ニールの住む家に向かう地下鉄に揺られながら2人は言葉少なになる。
「…出たところの食料品店で適当に買って帰ろう」
ため息交じりの男の声に「賛成」力なくニールも賛同した。
*
売れ残りで割引のシールが張られたチキンウィングと、ちょっとしなびた野菜の盛り合わせ、それに味は悪くない冷凍食品のラザニアなんかを適当に買って、男は居室のドアを開ける。
「あーーーーーーーもーーーーーーーーーーーー!」
男が玄関に置かれたコートハンガーにコートを掛けている間、酒瓶の入ったビニールを置いてニールは豪快にソファにダイブする。
首に巻いたストールが解けるまでじたばたとソファで暴れていた彼に、男はキッチンで買ってきた惣菜類を温めながら声を掛けた。
「ニール、コートはちゃんと脱ぐ」
肘置きの部分に頭を突っ込んだまま動かないニールを無視して男は冷たいサラダをローテーブルに置く。
「今日はあっちじゃなくていいの」
――普段、食事はキッチンにある小さなダイニングテーブルで済ませている。ソファで飲み食いするのはムービーナイトくらいだったから、ニールは首だけを動かして男に尋ねた。
「折角のクリスマスディナーだ、アメフトの試合でも見ながら盛り上がろう」
男は所狭しと買ってきたワインの瓶やグラスを置くと、解凍を知らせるレンジの音に足早にキッチンに去って行く。
「あ~ぁ…」
もう一度ニールは口をへの字に曲げるとクッションに頭を押し付けて、そして男に言われた通りにコートを脱ぎに玄関に行った。
買ってきた惣菜を皿に盛り付けたり、温めたラザニアを取り出そうとしている男を手伝ってニールは食べ物をローテーブルに並べる。
そのままでも良かったのに、真っ白な器に盛られたチキンウィングを1つつまみ食いしてニールは値引きのシールが貼られた小さなカップケーキも男に言われるがまま皿に置いた。
拳ほどの大きさのマフィン型で焼かれたスポンジに、白と緑と赤のクリスマスカラーでデコレーションされたバタークリームが乗っている。幼い頃だったら「サンダさんのケーキだ!」なんて喜んだのかもしれないが、成人した今見るとバタークリームは重いし、紙カップには油が滲んでいて随分とお腹に溜まりそうな菓子であることに気付いてあまり気分は上がらない。
なら買うな、と言いたいところだがやっぱりこうしたイベントごとは楽しみたい。ホイーラーの見ていたパティシエの美味しいケーキだったら良かったのかもしれないが、なんと今日は半額のケーキだ。高望みしたって仕方ない。
「これで最後?」
ケーキを乗せた皿を見せるように男に振り向くと、「最後だ」男が冷凍食品のゴミを片付けながら頷く。
「早く食べよ。もうお腹ペコペコだよ」
ニールは促して、一緒にソファに座った。
ケーブルテレビのアメフト専門チャンネルにテレビを合わせて、男とニールはシャンパンのグラスをかち合わせる。
「「cheers!」」
やっと迎えたクリスマスのディナーに在り付けたのは夜の10時前。
ニールの乱雑な部屋にはクリスマスの装飾なんてされてなかったし、テレビだって録画だから今の試合なんて真夏のものだ。並べられた食事は在り合わせの値引きされた惣菜と冷凍食品で、ケーキに至ってはなんと半額だった。唯一、シャンパンだけは店の中で高価格なものを選んだが、食料品店に置いてある量産品なので繊細な味には欠ける。
全然“クリスマス”らしくないクリスマスに男はブリトーに齧り付きながら苦笑した。
「寂しいクリスマスだな」
「…そう?」
フルートグラスの中でぱちぱちと弾けるシャンパンの泡を数えながらニールは首を傾げる。
「仕事は途中で放棄してしまったし、レストランにはそっぽを向かれるし…こんな寒い中散々歩き回って、結局あり付けたのはスーパーの特売品と油っぽいケーキだけ」
苦労を凝縮させた男の言葉に、ニールはカラカラと笑う。
「でも貴方とずっと手を繋いで歩けたし、僕は結構満足かも?」
彼はグラスのシャンパンを一気に飲み干すと、男の方を向いて地上に降り立った天使のような、満面の笑みを作った。
「貴方と一緒に過ごせるクリスマスなんて、どんなクリスマスでも最高だよ」
――その日食べたクリスマスケーキが美味しかったか、それとも不味かったなんて男もニールも覚えていない。
“聖なる夜”に相応しい、ずっとずっと甘い時間を過ごしたことだけは確かだった。
*おしまい*
「労働環境改善よ!」
テネット本部の事務所へ久しぶりに顔を出したと思ったら、声高らかにプリヤはそう宣言する。
別に、この組織の労働環境が過酷なわけではない。
ただ仕事内容が捜査や軍事演習まで多岐に渡るから、自然と過激な勤務体制に変わってしまうだけだった。
「プリヤ…急に言われても…」
会議室でニールとマヒアの3人で設計図と睨めっこしながら潜入ルートの確認作業をしていた男が小さく抗議する。
けれど女帝は男の意見など意に介さなかった。
「ミーティングは止めにしてあと5分で部屋を退出して。
他の部屋の皆ももう帰らせたわよ」
プリヤはそう男に得意げな顔を向ける。
「アイヴスたちも向こうで残ってたみたいだけど…?」
広げた設計図をくるくると丸めながら尋ねたマヒアに、プリヤは「さっき部屋から叩き出した」なんて物騒な返事をする。
「だから貴方たちも叩き出されたくなかったらさっさと支度して頂戴!」
はい、はい!急かすように手を叩いたプリヤに、男もニールと目を合わせて苦笑する。
確かに、少し前から3人の電話がよく震えていた。緊急の連絡であれば身に着けているスマートウォッチが鳴るはずなので緊急性がないと判断し、3人で議論をしていたのだ。――きっとアイヴスやホイーラーからの連絡だったのだろう。
男は腕時計を見遣る。表示された時刻はもうすぐ夜の8時。
夕食には遅い時間だが、普段よりずっと早い帰宅になりそうだ。
「マヒア、この後予定でも?」
既にニールと夕食を摂るつもりでいた男はマヒアにも声を掛ける。
「おいおい、ボス。今日は何の日か分かってるのか?」
「…12月25日」
「クリスマスじゃないか。
今日は家族が待ってるんだ、折角誘ってくれたのに悪いな」
男はその日の事をすっかり忘れていた。確かに今日のホイーラーは妙にそわそわしていたし、いつもきっちり纏めている髪を下に下ろしていて雰囲気が柔らかかった。
「だからか」
1人、顎に手を遣って納得した男が呟く。
それから、はっとした顔でニールを見つめた。
「……ん?僕?
大丈夫だよ、何も予定はないから。一緒にご飯食べよ」
彼の心を見透かしたように朗らかに笑うニールに、マヒアが男を小突いた。
*
「ほらほら、帰った帰った!!」
威勢の良いプリヤの声に見送られて、玄関ホールで男はマヒアと別れる。
12月の寒空に吐く息が白く、巻いた厚手のストールをニールは引き上げて口元を覆った。
「さっむ!」
「…もう12月も終わるからなぁ」
真面目に言う男の、耳に着けたふわふわのイヤーマフが笑いを誘ってニールは顔を崩す。
「…どうした?」
「ううん、貴方のそのマフが可愛いなぁって思って」
「…可愛いも何も、君が選んでくれたんだろう」
「そうだっけ」
「今年は何も用意出来なかったな、済まない」
「いいよ、別に貴方からお返しが欲しくて贈ってるものでもないし」
「でもきっと、君は今年も何か用意してるんだろう?」
「うーん…まぁ、ね。
それより、早くご飯にしようよ!凍えちゃう」
ニールはポケットから手を出すと、男の手を引っ張る。大股で歩き出した彼に、引きずられないように男も小走りになった。
イルミネーションの施された並木道を歩きながら、ニールはお気に入りのイタリアンのドアを叩く。
「空いてる?」
「大変申し訳ありません、本日は満席でして…」
肩を落として隣のブロックのピザの美味しい店を覗いたが、其処も「本日は予約のみの受付でございます」断られてしまった。
最近開拓したチャイニーズのお店、時々食べたくなるベトナム料理…
大きなハンバーガーで有名なお店ですら満席だと断られ、歩き疲れた男とニールの2人は街中に佇む小さな緑地広場のベンチに腰を下ろした。
「…全滅、だったな」
「はは…まさか此処まで断られるとは思ってなかった」
「外で食べるのは諦めて、何か買って帰ろうか」
「わぁ、いいね! テイクアウトなら買えそうだし。
帰り道にあるダイナーに寄ってみよう」
男の提案にニールは顔を輝かせる。
チラリと腕時計を見ると、時刻は8時30分を過ぎたところで、30分近くもこうして無駄足を踏んでいたのだった。
「そうと決まれば、善は急げ!」
ダッフルコートのフードを揺らして立ち上がったニールに、男もコートの襟を立てて立ち上がる。
「ピザもいいし…あ~インドカレーとかも美味しいよねぇ!」
冷たくなった手先を擦り合わせて温めるニールの手を、男は黙って掴むとコートのポケットへ引き込む。
珍しく“恋人”らしい行動の男に「好き!」ニールは言って頭を寄せた。
*
「あー…ごめんなさい。今日はレストランの方で手一杯で」
「すみません、今日はテイクアウトしてないんです」
「店じまいの時間だから、悪いね」
ドアを叩く店、全てからテイクアウトも断られてしまって男とニールは途方に暮れる。
「…まさか」
「まさか」
「こんな」
「こんな」
「…真似するな」
「だってもう何も考えられないよ~~~」
ニールの住む家に向かう地下鉄に揺られながら2人は言葉少なになる。
「…出たところの食料品店で適当に買って帰ろう」
ため息交じりの男の声に「賛成」力なくニールも賛同した。
*
売れ残りで割引のシールが張られたチキンウィングと、ちょっとしなびた野菜の盛り合わせ、それに味は悪くない冷凍食品のラザニアなんかを適当に買って、男は居室のドアを開ける。
「あーーーーーーーもーーーーーーーーーーーー!」
男が玄関に置かれたコートハンガーにコートを掛けている間、酒瓶の入ったビニールを置いてニールは豪快にソファにダイブする。
首に巻いたストールが解けるまでじたばたとソファで暴れていた彼に、男はキッチンで買ってきた惣菜類を温めながら声を掛けた。
「ニール、コートはちゃんと脱ぐ」
肘置きの部分に頭を突っ込んだまま動かないニールを無視して男は冷たいサラダをローテーブルに置く。
「今日はあっちじゃなくていいの」
――普段、食事はキッチンにある小さなダイニングテーブルで済ませている。ソファで飲み食いするのはムービーナイトくらいだったから、ニールは首だけを動かして男に尋ねた。
「折角のクリスマスディナーだ、アメフトの試合でも見ながら盛り上がろう」
男は所狭しと買ってきたワインの瓶やグラスを置くと、解凍を知らせるレンジの音に足早にキッチンに去って行く。
「あ~ぁ…」
もう一度ニールは口をへの字に曲げるとクッションに頭を押し付けて、そして男に言われた通りにコートを脱ぎに玄関に行った。
買ってきた惣菜を皿に盛り付けたり、温めたラザニアを取り出そうとしている男を手伝ってニールは食べ物をローテーブルに並べる。
そのままでも良かったのに、真っ白な器に盛られたチキンウィングを1つつまみ食いしてニールは値引きのシールが貼られた小さなカップケーキも男に言われるがまま皿に置いた。
拳ほどの大きさのマフィン型で焼かれたスポンジに、白と緑と赤のクリスマスカラーでデコレーションされたバタークリームが乗っている。幼い頃だったら「サンダさんのケーキだ!」なんて喜んだのかもしれないが、成人した今見るとバタークリームは重いし、紙カップには油が滲んでいて随分とお腹に溜まりそうな菓子であることに気付いてあまり気分は上がらない。
なら買うな、と言いたいところだがやっぱりこうしたイベントごとは楽しみたい。ホイーラーの見ていたパティシエの美味しいケーキだったら良かったのかもしれないが、なんと今日は半額のケーキだ。高望みしたって仕方ない。
「これで最後?」
ケーキを乗せた皿を見せるように男に振り向くと、「最後だ」男が冷凍食品のゴミを片付けながら頷く。
「早く食べよ。もうお腹ペコペコだよ」
ニールは促して、一緒にソファに座った。
ケーブルテレビのアメフト専門チャンネルにテレビを合わせて、男とニールはシャンパンのグラスをかち合わせる。
「「cheers!」」
やっと迎えたクリスマスのディナーに在り付けたのは夜の10時前。
ニールの乱雑な部屋にはクリスマスの装飾なんてされてなかったし、テレビだって録画だから今の試合なんて真夏のものだ。並べられた食事は在り合わせの値引きされた惣菜と冷凍食品で、ケーキに至ってはなんと半額だった。唯一、シャンパンだけは店の中で高価格なものを選んだが、食料品店に置いてある量産品なので繊細な味には欠ける。
全然“クリスマス”らしくないクリスマスに男はブリトーに齧り付きながら苦笑した。
「寂しいクリスマスだな」
「…そう?」
フルートグラスの中でぱちぱちと弾けるシャンパンの泡を数えながらニールは首を傾げる。
「仕事は途中で放棄してしまったし、レストランにはそっぽを向かれるし…こんな寒い中散々歩き回って、結局あり付けたのはスーパーの特売品と油っぽいケーキだけ」
苦労を凝縮させた男の言葉に、ニールはカラカラと笑う。
「でも貴方とずっと手を繋いで歩けたし、僕は結構満足かも?」
彼はグラスのシャンパンを一気に飲み干すと、男の方を向いて地上に降り立った天使のような、満面の笑みを作った。
「貴方と一緒に過ごせるクリスマスなんて、どんなクリスマスでも最高だよ」
――その日食べたクリスマスケーキが美味しかったか、それとも不味かったなんて男もニールも覚えていない。
“聖なる夜”に相応しい、ずっとずっと甘い時間を過ごしたことだけは確かだった。
*おしまい*
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