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Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル

未来主×若ニル

BARで絡まれるニール君と助ける主人公さんって言うベタな展開の話。
モブ視点。

シャウラ…さそり座の二等星。尻尾を意味する(wikiより)


ある、モブ店員の話。



私は小さなバーで働いてる。
働く…と云ったら少し大げさだろうか。年の離れた兄の経営する小さなバーなので、週末の人出が足りない時だけ少し手伝う程度だ。
オフィス街に構えた店舗なので客層は悪くない。穏やかな常連さんが多くて、ちょっとしたお喋りをするのも楽しかった。

その日は、少しいつもと違った日だった。
クリスマス前だったからかもしれない。繁華街のバーにあぶれた連中がウチのドアを叩いたのだ。

いつもは静かなジャズを流す店内が騒がしくなる。
お客さんが入るのは嬉しいことだったけど、私はなんだか嫌な気分だった。そんな時は裏に引きこもるに限る。けれどこうもお客さんが来てしまっては兄もお酒作りで忙しいし、私がフードのオーダーを取って提供するしかなかった。

カウンターの一番端でウォッカ・トニックを飲むお客さん。
綺麗な顔立ちで物腰も柔らかくて、私は好きだった。お酒の飲み方もスマートで、いつも恋人との待ち合わせに此処を使っているらしい。いつもお気に入りのウォッカ・トニックを2杯とナッツを注文して行ってしまうし、チップも弾んでくれるから、私にとっても兄にとっても良い常連さんだった。

フードを出して振り向いたカウンターで、彼が新規のお客さんに絡まれている。
兄が頼んでもいないお酒を出して、絡む客をどうにか剥がそうとしているのが分かった。

「…お姫様みたいな顔だな、兄チャン。
 ちょっと俺と飲もうぜ」
「……」
「無視かよ。お高く留まってんな」
「人を待ってるんで」
「まだ来てねぇじゃねぇか。
 いいだろ、ちょっとくらい」

しつこく絡むご新規さんに、常連さんの顔が曇る。
あんまりこの店で騒ぎは起こして欲しくないけど、こーゆー輩には鉄拳制裁しか無いって兄は言ってた。

「…じゃぁ、僕を満足させられるなら相手してあげる」

常連さんは艶やかに笑ってご新規さんの鼻を突く。
普段の彼とは違う微笑みはこの真面目なバーじゃなくって、繁華街のちょっと色気のある場所に似合う笑顔だった。

「…なんだ、見た目通りのスキモノじゃねぇか」
「ねぇ、貴方のサイズはこれくらい?」

結構酷い言葉を吐いたご新規さんを気にするでもなく、妖しげに微笑んだまま常連さんは手首を指差す。
顔を傾げたご新規さんに、常連さんはゆっくりと続けた。

「僕の彼はね、多分…その瓶くらいはあるかなぁ?」

カウンターの奥に並んだビールの小瓶を指差して常連さんは笑う。

「…だからね、貴方たちみたいな素チンには興味ないの。
 お店にも迷惑だからさっさと出てって」

柔らかい物腰なのに低音を響かせて凄んだ彼に、思わず私も身震いする。
綺麗な彼から“素チン”なんて言葉が出てきたこと、恋人が彼氏だったこと――情報が余りにも多くて、盗み聞こえた話だけど意外過ぎてびっくりしてしまう。
さて、これはひと悶着ありそうだな…思いながら兄に目配せした――その時。

「……悪いな。
 彼は私が先約済みだ」

ひらりとお店のドアが開いて、がっしりとした体躯の男が現れる。
彼は常連さんとご新規さんを遮るように割り入ると、そのまま鮮やかな手付きでご新規さんの手首を掴んでそのまま肩をカウンターに押し付けた。一切の迷いのないその動きに、私はまた驚いてしまう。

「……ぅ…」

関節を的確に押さえ付けられて静かに唸ったご新規さんに、常連さんは「遅いよ」なんて恋人さんに言って兄に頭を下げた。

「騒がしくしちゃって、ごめんなさい。
 …それに、みなさんも」

静まり返ったフロアにもう一度彼はお辞儀をして「行こう」急かすように恋人さんの肩を叩く。
恋人さんはご新規さんの腕をもう一度捻り上げると、

「済まなかった」

兄に頭を下げて多めのお金をカウンターに置いた。

お店を出た2人へまだ吠えてるご新規さんに、兄はぴしゃりと「アンタも出てってくれ!」そう言い放つ。
まだ何か言いたげなご新規さんに「店を間違えたようだな」兄は続けて客を放り出した。――一応、兄はこの仕事を始める前は高級なバーの用心棒をしていたのだ。こういった輩の裁き方なら慣れているし、護身術の類だって会得している。
お客さんは私たちにとって大切な存在だけど、来てくれるお客さんを守るのも仕事だし、何より店の品位だって大切な商売道具だ。
こんな変な輩に買春が出来る店だと判断されるのは私だって怒り心頭だった。

「お騒がせしてしまってすみません」

私はお客さんのテーブルに小さなチョコレートの盛り合わせを置きながら頭を下げる。
気の良い常連さんたちは「大変だったね」私たちをねぎらい、少しだけチップも弾んでくれた。

店仕舞いした後、カウンターの水拭きをしながら私は常連さんの指差したビール瓶を観察する。小瓶とは言え、私の手首は優に超える太さに今度あの人と恋人さんが来たらマトモに顔見れるかしら…なんて不埒な妄想をするのだった。

*おしまい*

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