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Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル

ニール君の語る未来軸。ほんのり主ニル。
キスで蕩かされちゃうニール君が書きたかっただけ。

エルナト…おうし座の二等星。今後、橙色の巨星になるものと予測されている(wikiより)


「――なんだ、てっきり朝帰りかと思っていたんだが」

浴室の便器を抱えたまま動かないニールに、木製のドアを叩いて男は所在を知らせる。
返事の代わりにニールは小さく呻くと、ライトゴールドの髪を揺らした。

「…飲め」

男は短く言うと封を切ったペットボトルを便器の横に置く。薄く青みがかったボトルに入った液体は透明で、どうやらミネラルウォーターの類のようだった。

「…さっさと吐いてしまった方が楽になる」

蹲ったニールを見下ろすように開いた木製のドアに凭れ掛かって男は呟く。ニールも承知とばかりに置かれたペットボトルに口を付けるとごくごくと喉を鳴らし、そして盛大に薄まった胃液を吐き出した。

「…どうだった、彼女は」

嘔吐くニールに構わず男は続ける。

今回はいつもと変わらない単純な任務。
必要な情報を引き出すために、ニールは富豪の娘に近付き、男はその会社へ優秀なビジネスマンとして忍び込んでいた。

「あと、もうちょっとってところ」

一息吐いたのだろうか、帰ってきた時よりも随分と赤みの差した顔になったニールが顔を上げる。振り向こうと身体を捻ったら、「無理しなくて良い」男に止められた。
ハニートラップと言われるほど大袈裟なものではなくても、いつもこうしてターゲットの気を引くのはニールの役目で、彼はいつも誰かをエスコートする役回りが多かった。

「…もう、絶対にあの下調べ間違ってる」

ニールは便座に頭を預けて唇を尖らせる。
ひんやりとしたPP樹脂のそれが、熱くなった頬の熱を奪って気持ちが良い。

「そうか?」
「だって、彼女は恋多き女性で口も軽いって報告にあったし」
「事実、惚れっぽいのは確かだろう?」

男は口の端を上げる。
ターゲットとニールの出会いは簡単、いつも彼女が顔を覗かせるカフェでフランス語の新聞を持ちながら「ここのオススメって何かな?」そう尋ねるだけで良かった。

「…そうだけどさぁ」

ペットボトルに口を付けてニールは肩を落とす。

「ビジネスの話になると口も閉ざしちゃうし、ちょっとお酒でも入れて…って思ったら僕の方がこんなだし」

一通り胃の中の内容物を吐き出して具合も良くなってきたのだろうか、トイレタンクのレバーを回してニールは立ち上がる。ほとんど空になったペットボトルの蓋を閉めると重い体を引きずるようにバスタブへ腰掛け、壁に凭れた。

「ははは」

男は乾いた笑い声上げるとニールの隣に腰掛ける。

「彼女も軽薄じゃないってコトだな」
「…そりゃ、あの企業のお嬢さんだからね。
 素と仕事に関わることは別ってだけ」

残った水も飲み干して、空になったペットボトルをぶらぶらと振るニールに男は肩を叩く。
「?」振り向いたニールに彼は腕を伸ばして壁に手を付けた。

――至近距離に置かれた手のひら、親密な距離に迫る男の顔。

「引いてダメなら」

ぱっちりと幅の広いアーモンド色の瞳がニールを見つめる。くるりと上がった睫毛の1本1本を数えられそうな距離に、彼の心拍数が跳ね上がった。
顔を硬直させたニールに男は囁く。

「……押せばいい」

男はニールに口付ける。
柔らかい上下の唇で彼の下唇と挟むとマッサージするように優しく食み、思わず開けた口を塞ぐように唇を重ねてゆっくりとニールを捏ね回した。同時に背中を引き寄せてベルトの隙間から仕舞われたシャツを引き出し、無防備な素肌をなぞる。

「…ん…ぁ…っ、ふ…」

まだ残ったアルコールで世界が回るニールを、男は更に蕩かす。漏れ出た高音も意に介さず、彼は強気に恋人を弄り倒した。

酸欠になりそうな寸でのところで、やっと男は噛み付いた唇を離す。
強く吸われた其処は、紅を差したような鮮やかな桃色に変わっていた。

「…もう、なんなの」

艶事に潤んだ双眸を恋人に向けてニールは口元を拭う。

「いや、なに。少し駆け引きをな」
「…教えてくれなんて頼んでない」
「実践を積むのが1番だろう?」

珍しく得意げな表情を作った男に「貴方なんて大嫌いだ!」ニールは臍を曲げてそっぽを向いたのだった。



「――報告は以上」

資料を取りまとめているアイヴスに男は出来上がったばかりの報告書をデータ送信する。

任務を終えて、やっと帰った本部の事務所。
あの後、無事にニールはターゲットから必要な情報を聞き出し、男も企業から使えそうなデータ類は抜き取れたから2人はこうして本拠地へ戻ってこれたのだった。
任務に取り掛かるときの下準備は率先して行うニールだったが、後処理には見向きもしないからいつもこうした報告書は男が作る羽目になる。けれど、こうして客観的な視点になれる作業は男は嫌いではなかったし、色々と思い出せる話もあったから苦では無かった。今回も報告書や集めたデータを纏めるのは男の仕事で、彼はずっとパソコンの前から動けないでいた。
男の言葉に、アイヴスは性能の良さそうな小型のノートパソコンを叩いて「受け取りました」片手を上げる。彼の言葉に男も肩の荷が下りる。首を回して固まった肩を回していたら席を外していたホイーラーが事務所のドアを開けた。
マグカップを片手に入室してきた彼女が「ねぇ」開口一番、部屋の隅でぶつぶつと考え事をしているニールに顎を遣る。

「どうしたの、アレ。帰って来てからずっとあの調子よ?
 任務は無事に終わったんでしょう?」
「そのつもりだが」
「…なんでも、自分よりもハニートラップが上手い人を見つけたから負けてらんねぇんだと」

肩を竦ませたアイヴスに、ホイーラーが「男ってほんと変な所で争いたがるわよね」呆れたように吐き捨てて、コーヒーを啜った。
そんな2人の会話を、男はちょっと困ったような、けれど穏やかな微笑みを浮かべて聞いているのだった。

*おしまい*

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