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Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/主ニル

Twitterより
捜査のアレコレで髪の毛の色の変わるニール君、ある日脱色に大失敗してまだら模様のブリーチになっちゃって
大慌てで主さんがドラッグストアに薬剤買いに行って染め直してくれる幻覚を見てた
それからは主さんがペタペタとカラーリングしてくれるってヤツ(基本的にホテルで染める)
…ってヤツ。


ガクルックス…みなみじゅうじ座の恒星。十字を構成する4つの星の中で唯一の赤い星(wikiより)


「ッあーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」

浴室から響いた相棒の絶叫に、のんびりと英字新聞に目を通していた男がはたと顔を上げる。
場所はイギリスの地方都市。地方とは言っても高層ビルが建ち、五つ星ホテルを揃える其処は十分に都会だった。
男とニールの2人は、ここ1ヶ月ほどこの地を拠点にして諜報活動を行っている。男は男の任務があり、ニールはニールで其々の活動を行っていたが、体を休めるホテルはこうして同じ場所を使っていた。大規模な都市には劣るものの、由緒あるホテルも多いのはこうした地方都市ならでは。少し古めかしい、古い時代を思わせる豪奢な内装のホテルは居心地が良くて、男もニールもお気に入りだった。

「どうした、そんな大声を出して」

男はソファから声を張り上げる。
リビングのように使う広間から、ニールの居るであろう浴室までは随分と距離があったし、浴室のドアも閉められていたからこうして大声にならざるを得なかった。駆け寄っても悪くないと思ったのだが、夕食も終えて寛いでいた時間だ、わざわざナイトガウンを締め直してまで立ち上がる気力は湧かなかった。
浴室からの返事はない。任務に携わるようなトラブルではないだろうと男は慌てず、掛けた眼鏡を押し上げる。細い銀の華奢なフレームが、洗練された男の魅力を十二分に引き出していた。其れが、諜報活動に必要な“変装”であればどれ程良かったか。始めこそ変装のアイテムの1つだった眼鏡が、いつの間にか生活必需品の一部となってしまった年月に男は肩を落とした。男は眼鏡を外して疲れ目を労わるように目頭を押さえる。未だニールからの返答はなかったから、「やれやれ」男は立ち上がってガウンを締め直すとゆっくりと浴室に向かった。

「…ニール、開けるぞ」

男は浴室のドアノブに手を掛ける。既に薄く開いていた扉の隙間から、ツンとした科学的な臭いが男の鼻を付いた。
――あぁ、そうだ。
男は部屋に帰ってきた時の会話を思い出す。

「んじゃ、ちょっと髪の毛染めて来るね」
「また?」
「…ん、だって同じ町だし。もし鉢合わせしたら困ったことになるでしょ」
「そうだな」
「まだ薬剤は残ってるしさ。
 もう少し明るめに抜いて、ちょっとだけ髪も切ろうかな。後ろの方は手伝ってくれる?」
「なんなら、刈り上げても?」
「そこまでの勇気はないなぁ…風邪も引いちゃいそう!」

…なんて言って、ニールは浴室を占領したのだ。
彼の諜報活動は既に終わっている。このまま男を残して本部へ戻る予定だったのだが、つい昨日、マヒアからもう1件裏取りが欲しいと連絡があったのだ。男の諜報活動は終わっていない。だから、この仕事はニールが請け負うことになった。
中規模の都市とは言え、何処でどんな風に人間が繋がっているか分からない。本来であれば別の人間が負うべき任務ではあったが、諜報活動を得意とするニールは「いいよ」2つ返事で話を呑んだのだ。
夕食時までのニールは地毛に近いダークブロンドだったが、今度は少し明るく染め直すと言う。
あまり諜報活動でも容姿を変えない男にとってはくるくると髪の色も髪型も変えるニールの大胆さは少し眩しくもあった。

「大丈夫か」

古い換気扇の轟音に驚きながらも男はドアを開ける。
大きな鏡張りの洗面台の前で、ニールは頬を押さえて硬直していた。

「…ニール…?おい…」

男は相棒の肩に手を掛ける。

「ボス!!!!!!!」

弾けるように振り向いたニールの目尻は赤く、混乱しているのは誰が見ても明らかだった。

「どうしようどうしようこれ」

染めたばかりなのだろう、まだ濡れた髪の毛を掻き毟ってニールは頭を抱える。

「…? だから、何があったって聞いてるんだ。
 慌てないで順を追って説明してくれ」

どんな時だって組織の“ボス”は冷静だ。
焦るニールを落ち着けるように肩を抱き寄せて背中を撫でると、長い溜め息が男の耳に届く。彼の肩を水滴で濡らしたニールはぽつぽつと言葉を紡いだ。

「…率直に言うと、失敗した」
「…失敗?」
「ほら見てよ、このまだら模様」

ニールは男の肩に置いた頭を上げると、膝を折って男の目の前に頭を差し出す。それから髪の毛を掻き分ると染め上がった金髪を見せた。
男としては綺麗なハニーブロンドに染まっていると思ったのだが、よく見ると毛先と根本の色合いが随分と違っていた。——染料が足りなかったのか成分が強すぎたのか。所々にまだ暗い金髪が残る仕上がりになっていた。根本ばかりが明るい色に染め上がっていたから、余計にその違いが見て分かる。

「…君が染髪に失敗するなんて珍しいな」
「ちょっとさ、冒険してみようと思っていつもとやり方を変えたんだよね…その結果が…」
「コレ、か」

言葉を詰まらせたニールを補うように男は言葉を続ける。

「染料は」
「あとちょっとだけ、残ってる」
「…じゃぁ、少しだけ足掻いてみようじゃないか」

どんなゲームだって最後の5分が肝心なんだ、肩を落としたニールに男は笑うと、浴室に置かれたラタン製の椅子に彼を座らせる。水の滴る髪の毛をもう1度丁寧に拭き上げると、残った薬剤とまだらに染まったニールの頭を見比べた。

「…これは、随分と派手に」
「もう酔っぱらってからは染めないって誓うよ。
 まだお店開いてるかな? 買いに走った方が良い?」
「…いや、これだけ残っていれば問題無いよ。
 髪も切って問題無いだろう?」
「そうだね…もう切っちゃった方が目立たないかも」

鼻の辺りまで伸びた前髪を引っ張ってニールは苦笑する。
さっぱりと丸坊主になんてなって戻ったらホイーラーに何て揶揄われるかなぁ、呟いた言葉に「男前だって惚れられるかもな」男も悪ノリする。
男はそのまま渡された薬剤を混ぜると、

「――さ、前を向いて」

美容師さながらの手付きでニールの顔を両手で包み、しっかりと鏡に向き合わせた。そんな真剣な表情の男を横目で見たニールは「……僕の方が惚れ直しちゃう」なんて告白をひっそりと心に仕舞ったのだった。



「今度は随分と濃い色なんだな」

ガラス張りの洗練されたバスルームに、男の声が反響する。

「ちょっと真面目な雰囲気にしようかなって。
 一応、肩書だけなら会計士だしね」
「黒髪の君なんて新鮮だな」

バスタブに体育座りしたニールに、慣れた手付きで男が刷毛を滑らせる。見慣れたブロンドの髪が見えなくなるのは寂しいが、其れも仕事の一環だと思えば仕方ない。流れるような動きで男はニールの髪を黒く染め上げて行った。

――あの一件から。

あの日から、諜報活動で変装するための染髪は男が引き受けることになった。
普段から丁寧な仕事をする彼に任せれば、髪の毛だって綺麗に染めて貰えるし、一緒に整えてだってくれる(くだんの件で男に仕上げて貰った髪の毛はプリヤにも褒められる出来栄えだった。ニールにしてはサイドの髪の毛を残しながらも後頭部も刈り上げられて違和感しか無かったのだが、“洗練された”男性に見えてとても精悍な男に見えるのだという)。鏡に映った真剣な眼差しの男を好きなだけ眺められるのもニールだけの特権だ。雑談を交えながら一緒に過ごせるし、洗髪ついでに同じバスタブに身を沈められるのも嬉しい時間だった。この時ばかりは恋人に少し甘えたことを言ったって許される。

「よし、もう大丈夫」

男は頷くと刷毛をビニール袋に投げ入れる。

「何分くらい置く?」
「久しぶりだから15分くらい置いてみようか」

ニールの問い掛けに男は後片付けをしながら答える。

「15分もこのまま?」

体育座りしたまま男を見上げると、男は少し困ったような薄い笑みを浮かべた。

「…どうして欲しいのかな」
「え~っと… まずは温かいお湯を溜めて…それから一緒にお風呂に入るのはどう?」

遠慮がちに見上げた双眸に男は目を細める。

「…そしてそのまま“頭も洗って欲しいな”って言うんだろう? 君は」
「バレてた?」
「…いつだってお見通しさ」

男は囁いて恋人へ顔を寄せる。
上唇を食むように優しい口付けを捧げると悪だくみをする子供のようにウインクを1つ送った。

「…湯を素直に溜めるのと、15分間の“耐久”を試すのとどっちが好みだ?」

―—分かってる癖に。

ニールは片眉を上げると、男の着たシャツを引っ張る。

その間の15分を“どう”過ごしたのかは2人だけの秘密だ。
けれど、ニールの髪が綺麗に染め上がったこと。それだけは事実だった―—

*FIN*

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