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Serena*Mのあたまのなかみ。
TENET/未来主×若ニル。

主人公さんのことを知りたがるニール君の話。

アルカイド…おおぐま座の恒星で2等星。北斗七星を形成する恒星の1つでもあり、ひしゃくの柄の先に位置する(wikiより)

「入るぞ」

男が執務室を覗くと、パーテーションに区切られたデスクに人の気配はなく、ただ静寂が広がっていた。

「おっと、留守か」

男は独りごちる。
少し前、マヒアとアイヴスが忙しそうに駆けて行ったのを見かけたから、何か小さなトラブルでも起きたのかもしれない。常に誰かが詰めている執務室に誰も居ないなんて珍しかった。

――蚊帳の外か。

また男は溜め息を吐くと首を振って自身のデスクに向かう。
窓際の一番端、よく日の光が入る席が男の専用席で、すぐ近くにニールのデスクも設えてあった。
共有スペースでもある執務室なので、どの座席も整理整頓が行き届き、パーテーションに貼られた写真やデスクに置いた飾り物なんかが其々の個性を表している。意外ときっちりとケースごとに書類を纏め、誰が見ても“分かりやすい”席なのがアイヴスで、デスクの上はほこり一つ落ちていなかったし、パーテーションに恋人の写真の一枚も貼られていなかった。
そんな彼の対極に位置しているのは男の相棒でもあるニールで、彼のスペースは乱雑に紙が散り、舐めたキャンディの包みもそのままに積み重なっている。誰かから貰ったのだろうか、太陽電池で首が動く向日葵の玩具が陽光を浴びてカタカタと首を振っていた。
男は、電話の横に置かれた真四角のメモ帳に見慣れた文字が並んでいるのが目に入る。斜めに癖の強いニールの字は筆圧が弱くて「読めない」よく男は注意していた。それでも不思議なもので、ずっと目にしていると崩した筆記体に丸が連なったような文字でも読めてくるもので、その気はなくともメモに書かれた文字を解読してしまう。

ソルベが好き
時間があれば懸垂
辛いものは得意
数字は弱い?
朝に強い

そこに連ねてあるのは“自分”についての情報で、てっきり任務に関わる内容やホイーラーと交わしたランチ情報の店名なんかが書いてあると思っていた男には虚を衝かれた。
――と、

「も~~~アイヴスったら人遣いが荒いんだから!」

盛大な文句を片手にニールが勢いよく執務室のドアを開ける。
声に顔を上げた男とニールの視線がぶつかる。彼が自分のデスクの前に立っているのに気付くと、ニールは大股で駆け寄った。

「ボス!!!!」

男の隣に着くと、視線の先にあるメモ帳に更に慌てる。身を捻るようにしてメモ帳を引っ掴むと、隠すように背中に手を回した。

「よよよよ読んじゃった?!」

裏返った声で振り向くニールに、男は持ったコーヒーカップに口付けながら目を細める。

「…生憎。目に入ってしまってね」
「えーん。今日はこっちに顔を出さないって思ってたから…」

ニールは眉を寄せて困った顔を作ると本人を目の前に言い訳する。
いつも見かける文字よりも随分と崩れた文字だったから、きっとホイーラーですら解読は出来ないだろう。男は頷く。――男はニールからの酷い文字を見慣れていた。

『会議飽きた』
『お腹空いた』
『ご飯食べて帰ろうよ』

ミーティング中、デスクの下から渡されるティーンエイジャーのようなメモ書きに男は時に苦笑し、時に頷いたり小さく首を振ったりと反応をするから、ますますニールは楽しくなって男にメモを渡すのだ。

「随分と“私”に詳しいんだな」

口の端を上げた男に、ニールは背中を丸めて身長を縮こませる。

「……だって貴方のこと、もっと知りたいじゃない?」

上目遣いに覗き込んだ空色の瞳に、男は余裕だった。
書かれた情報を小さく口にすると、「もうっ!」ニールは男の口を手のひらで塞ぐ。塞がれてもまだもごもごと男は何か呟いていたが、少しすると静かになったのでニールは手を離した。

「これだけ知っていれば、充分だろう。もしかしたら私よりも詳しいかもな」

笑った男の言葉にニールは大きく首を振る。

「足りないよ。
……あっ、ほら。考え事してる時に顎に手を遣るのとか」

ニールからの指摘に、男は今、自分が顎に手を添えて話を聞いていたことに気が付く。そして素直に目を丸くして彼の観察眼を褒めた。

「…本当だ」
「ね、だから」

ニールは続ける。

「このメモは忘れてぇ~~」

潤んだ瞳でお願いしても上司であり相棒の男にはどうやら効果はないようで、そのまま意味深な流し目で話を続けられてしまう。

「…そうやって観察しているだけで私に詳しくなれると?」
「だ、だって貴方は忙しいし」
「見てるだけで君は満足なのか?」
「…そう、じゃないけど…でも…」
ゆっくりと距離を詰める男に、思わずニールは後退る。すぐに頑丈な作りではないパーテーションに背中が触れて、ニールには逃げ場が無くなってしまった。

「…実戦で教えようか。その方が記憶に残るだろう?」

パーテーションに手を突き、見上げた男の雄性をニールは充分に知っている。いつだって男はニールにとって憧れの存在であり、何所をとっても完璧な恋人なのだ。

「――もっともっと、貴方の事を教えてくれる?」

貴方の知らない、アナタのこと。
貴方の癖、嗜好、何でも良いから全部僕に教えてよ――

空色の瞳に浮かんだ魔性に珍しく男も乗ったようで、長身な恋人に背伸びするとそのまま柔らかい唇に喰らい付いたのだった。

*おしまい*

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