東雲に浮かぶアンタレス

TENET/主ニル

一気に沼った（パティンソン君）の幻覚の採取。

毎朝、丁寧に髭剃りで髭の形を整える恋人を、ニールは「几帳面だなぁ」歯磨きをしながら覗き込む。
何処にでも売っているT字の剃刀を使って、彼は晩の間に伸びた髭を剃り上げ、伸ばした顎髭を綺麗に整える。
いつも半分寝ながら電気シェーバーで剃ってしまうニールにはあまりに緻密で遠い世界だった。

＊

シャンプー、リンス、コンディショナーにフェイスウォッシュ…
狭いバスルームの棚に並ぶケア用品に男は背後の年若い恋人を見遣る。連日の作戦会議に、昨日も吸い込まれるようにベッドに倒れ、そのまま深い眠りに入ったのだった。
俯せで眠る彼に大きな枕は占領され、ふわふわとした癖っ毛が朝日に透けていた。

――こんなに種類を揃えて、几帳面だなぁ。

石鹸1つで髪の毛も髭も全て洗い上げる彼にしてみれば、こんなにも多種類の石鹸を使いこなすニールは“繊細”以外の何物でもなかった。

＊

用意されたスイートルームのガラス張りのバスルームで、まるで子供のようにバブルバスを楽しむニールの隣で男が丁寧に髭剃りを行っていた。

2人は、同時に声を掛ける。

「休みの日なのにそんな丁寧に髭剃りしちゃってさ。マジメだなぁ」
「わざわざバブルバスのために早起きするとは、真面目だな」

重なった“まじめ”の言葉に、互いに驚いた顔を作って…そして破顔する。

「ねぇ、僕が真面目なら貴方は何さ？」
「私がマジメ？　ニールは買いかぶり過ぎてるよ」

続けた言葉にもっと笑って、そうして「真面目な者同士、仲良くしよう」ニールは立ち上がって抱擁を求めるように手を広げた。
面倒だとも言いたげに、けれど心優しい男はニールの願いを聞いてその身体を抱きしめる。

「これって全裸でする話？」
「…さぁ」

笑った男に、ニールは笑顔を向けた。

「僕にも剃刀の使い方教えてよ。シェーバーよりよく剃れそうだし」
「なら私は…リンスとコンディショナーの違いでも教えて貰おうかな」
「いいよ、教えてあげる！　貴方の癖っ毛もサラサラになっちゃうかも」

＊おしまい＊