琥珀色に浮かぶジュブナイル

バットマン/ジェイディク

2020.09.20開催【HEROES UNIVERSE ONLINE β】で無配したジェイディクSSです

オンライン上ではありましたが、久しぶりのイベントの空気を吸えて本当に楽しかったです。

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タイトルは同人スロットメーカー【https://slot-maker.com/slot/5483/】より

――変わったな、と傍らで洗剤を無造作にカートに入れるディックを見てジェイソンは思う。

「ボディーローションは△△の香りじゃなきゃイヤ」
「ルームフレグランスは〇□社のにして」
「柔軟剤は××が1番好き」

付き合いたての頃はそんな拘りばかりで、狭いジェイソンのアパートはディックの“お気に入り”で溢れかえっていたのだ。
セーフハウスの1つくらい…そう思うだろう。
けれど、彼のお気に入りは“全て”の家へ置かれるのだ。気分によってボディソープやバスソルトを変える恋人は揃えるお気に入りの数も膨大で。自分の使うシェービングクリームを取り出すだけで骨が折れた。

「どうしたの？
　別の方が良かった？」

ジェイソンの視線に気付いたのか、ディックが手を止めてじっと彼を見つめる。

「あ、あっちのがお得かも！」

恋人の先に見えた黄色い【特売】の札に、ディックは手早く洗剤を棚に戻すとカートを押しやった。

下の弟は「ディックから良い匂いがする」とよく抱き着いては喜んでいたものだが、
以前は外商から直接購入していたボディークリームが、今やスーパーで買った便利なポンプ式のクリームになっただなんて、微塵も思わないだろう。

少しだけ笑みを零した恋人に、

「？　変なの」

ディックは首を傾げて2パック連なった特売の洗剤に手を伸ばしたのだった。

＊

――変わったなぁ、隣で真剣な眼差しをシャンプーに向けるジェイソンを見てディックは思う。

「どこの銘柄だって同じだろ」
「安いので問題ない」
「1番近いのを取れ」

そう言って生活用品を揃えるジェイソンのアパートは乱雑としていて、見るからに“男の部屋”と言った風だった。
窓には薄汚れたロールカーテンが1枚だけだし、シャワーカーテンだってフックから外れてそのまま放置だ。

バスルームの棚に雑然と並ぶ生活用品がなんだか寂しくて、つい必要以上に自分の好みを持ち込んでしまったのはまだ付き合いたての頃の話。
最初こそディックの好みで揃えていた生活用品だったが、今ではジェイソンの方が拘りを持ってしまったらしく、こうして棚の前で悩んでいるのだ。

今日は何で悩んでるんだろう、恋人の眼差しの先を覗くと綺麗な花畑の描かれたパッケージと白熊とペンギンの描かれたパッケーシを見て口を尖らせている。

どっちも買っちゃえば。思ったけれど、ディックは何も言わずに見守った。

「なぁ、ディッキー。
　どっちがいいかな」

振り向いた真剣な翡翠色の瞳に、ディックは微笑む。

「ジェイソンと同じ香りならどっちでも好き」

――其れは、恋人が嫌がる答えなのは分かっていたけれど、ディックの本心だった。

フローラルな香りは自分が、メントールの入ったさっぱりしたシャンプーはジェイソンの好みで。
それで頭を悩ませていたのは分かっていたから。

＊

「なんだかすっかりお前に感化されちまったな」

買ってきたシャンプーをバスルームの棚に並べながらジェイソンが頭を掻く。
並んだジャンプーは2本、ペンギンと花畑のボトルだった。

「…そう？
　僕はジェイソンに似てきた気もするけど」

特売だった洗剤を洗面台の下に仕舞ってディックは恋人を見上げた。

「悪いとは言ってない」

ジェイソンは返してバスタブに腰を落とす。

「僕も」

つられてディックもジェイソンの隣に座ると、甘えるように頭を預けた。

「ほら、子供の頃、僕たちって同じ服のロビンだったじゃない？」

赤・黄・緑の派手な色合いに、生足を晒して。
若い頃の苦い記憶に、ジェイソンが苦笑する。

「きっとこのままだと僕もジェイソンも自我が無くなって、また“ロビン”になっちゃうよ」

笑ったディックに、ジェイソンも珍しく笑い声をあげた。

「俺とお前で1人のロビンか。
　それも悪くない」

「…きっと少しずつ、僕たちはお互いに影響されながら……ちょっとずつ変わっていくんだね」

ずっと一緒だよ。初代のロビンが続けた言葉は、2代目ロビンの唇で塞がれた。

暖かな午後の昼下がり。少しずつ最高気温に近づく陽気に、2人のロビンが1つに融解するのも時間の問題なのだった――

＊おしまい＊