Serena*Mのあたまのなかみ。
バットマン/ジェイディク
『世界で1番お姫様のグレイソン、欲しいと思った洋服は色違いで揃えちゃうし気に入った物もガンガン買っちゃう。
しかも支払いはパパ支給のブラックカードで何の罪悪感もなく』
…と、妄想したのを収穫しました。
『世界で1番お姫様のグレイソン、欲しいと思った洋服は色違いで揃えちゃうし気に入った物もガンガン買っちゃう。
しかも支払いはパパ支給のブラックカードで何の罪悪感もなく』
…と、妄想したのを収穫しました。
乾いた風の気持ち良い風の吹く秋の午後、愛車のメンテナンスをしていたジェイソンはクッキー片手に裏庭をうろついていた長兄に声を掛けられた。
「ねぇ、僕もバイク乗りたい」
彼の我儘はいつものことだ。
ちょうどオイルも入れ替えて試運転したかったのもあって、ジェイソンは二つ返事で引き受ける。
「あと15分で終わらせるから、支度してきてくれ」
きっとその辺を一周して、少し足を延ばしたゴッサム湾の公園にでも行けば突発のデートコースとしては上出来だろう。ついでにジェラートでも食べれば完璧の筈だ。
整備したての愛車を撫でて頷いたジェイソンに、ディックから声が掛かる。振り向いた先に佇む彼の人は、自身を象徴するかのような青いフルフェイスに、レザーのライダースジャケットが珍しい。合わせたスキニーパンツとエンジニアブーツから、彼の格好はバイクに乗る為だけに整えた服装のようだった。
「どう?」
濃い黒のシールド越しにディックはジェイソンに尋ねる。
「お前、絶対コケると思ってその格好にしたろ」
相変わらずに憎まれ口を叩いてジェイソンは笑う。
違いますぅ、声を尖らせたディックを無視してジェイソンもヘルメットを取りにガレージへ戻る。
壁に取り付けられたフックに無造作に引っかけてある使い古したジャンパーを掴んで、普段使いのヘルメットを取ろうとしたジェイソンの手が止まる。少し考えて、わざわざ着替えた恋人に失礼だろうと、隣のまだ新しい赤いメットに手を伸ばした。ピカピカの其れはディックのと色違いのデザインで、何年か前のクリスマスに買い揃えたものだった。
「あ、お揃いの!」
ガレージから出てきたジェイソンの手に持ったヘルメットに気付いて、ディックが嬉しそうに飛び上がる。
「まだ新しいのあったの思い出した」
つれなくジェイソンは返すと、大型の愛車に跨りヘルメットを被る。
彼に続けるようにディックもバイクに跨ると、ぴったりとジェイソンに身体を寄せた。腰に回された手をしっかりと掴んで安全を確認すると、ジェイソンは愛車のスロットルを回した。
*
ゴッサム湾を望む公園に行く途中の赤信号で、ディックがジェイソンの背中を突く。
「ぁ?」
振り向くと「行きたい」示すようにディックが通りの先の建物を指差す。それは最近上陸したブランドの旗艦店で、暫く前の夜のニュースで開店の様子が伝えられていた。
「分かった」
返すように頷いて、ジェイソンは滑らかに通りを曲がる。
店の地下にある駐車場にバイクを停めると、ヘルメットで妙にぺしゃんこになった髪を直しながらディックが笑顔を向けた。
「ありがと!」
「…いや」
新規開店した店にこんなボロボロの格好で入って問題ないだろうか。ジェイソンは肘の薄くなったジャンパーを見遣って舌打ちする。
「畏まったお店じゃないし、大丈夫だよ」
そんな彼の心を見透かしてかディックはジェイソンの背中を擦る。
そのまま外で待っていようかと思ったのも気付いたのか、そのまま腕を絡められた。
「来た事あるのか」
「出来たばっかりの時に、ちょっとだけ」
ディックの返事にジェイソンは沈黙を貫いてディックと共に入店する。
「いらっしゃいませー」
黒と白を基調としたハイブランドを意識した店内の作りではあったが、流れる音楽は重低音が響き、若者に向けたファストファッションの店のようだった。
「…ね」
ディックの言葉にジェイソンは頷く。
若者向けのファストファッションとは言っても、6階建てのビルを丸ごと、それに地下に駐車場まで設えたソレは資本のある会社が背後に付いているのだろう。このまま急成長を遂げるのか、それとも崖を転がり落ちるように負債を重ねるのか。経済欄で暇つぶしが出来るな、店の名前を覚えておこうとジェイソンは店内に視線を走らせた。
「あっ、ねぇ。あれ! どう?」
顔を険しくしたジェイソンと対照的に、ディックは買い物デートを楽しむらしい。
エスカレーター横のマネキンに着せられた洋服を指差して、急かすようにジェイソンを引っ張った。
「別に、好きなので良いんじゃねーの」
パイソン柄のブーツを履いたマネキンと恋人の顔を交互に見てジェイソンは首を振る。
「えーちゃんと似合う、とか可愛い、とか反応してよ」
並べられた洋服を手に取りながらディックは続ける。
明るい色のタンクトップ、ベルトの妙に多いズボン…
自分の身に当てたり、ジェイソンの背中でサイズを合わせてみたりでディックの買い物は忙しい。
メンズフロアを一巡りすると、今度ジェイソンを待ち構えていたのはディックのファッションショーで、随分と長い間くるくると変わる洋服姿を見せつけられていたのだった。
なかなか気に入った一着を見つけられないでいたディックの声が変わったのは、試着室のフロアから真っ赤な夕焼けが見える時間だった。
「どう、これ!
僕にぴったりじゃない?」
試着室のカーテンを勢いよく開けてディックは新しい洋服をジェイソンに見せる。
ソファに座ったジェイソンの傍らには試着の終わった洋服が山と積まれていて、それは全てディックのお眼鏡に叶わなかった商品だった。
ファストファッション特有の縫製が甘い場所があったり、単純にサイズが合わなかったり…
中には気に入ったデザインもあったものの、似合う色味が無いと泣く泣く返品へ重ねた服もあった。
「あーー…もうソレで良いんじゃねぇ」
心底興味無さそうにジェイソンは返す。けれど、恋人のいつもと違ったファッションを目に焼き付けたくて顔を上げた。
目の前のディックは普段は着ないような派手な柄のTシャツに、ダメージ加工の入ったデニムのオーバーオールで、変な商人のような丸いピンクのサングラスが――妙にしっくりと似合っていた。
思ったより可笑しくない恋人の格好に、ジェイソンが目を瞬かせる。
「どう?
なかなか良くない?」
狭い試着室でくるりとターンしたディックに、「…おう」ジェイソンは頷いて
「悪くない」
そう続けた。
「良かった! じゃぁ、これ買っちゃおうっと」
出てきた時と同じように勢いよくカーテンを閉めて、ディックが着替え始める。
やっと帰れる…、首を鳴らしたジェイソンの長い溜め息が試着室のフロアに響いた。
*
「じゃぁね、これと…これと……」
あれだけ長いファッションショーを行い、購入する洋服も決まったと云うのにまだジェイソンはレジに進めないでいた。
今度のディックは買う洋服の色違いをポイポイとカウンターの店員に渡している。
ファストファッションでブルースが身に着けるようなブランドよりも価格が安いとは言え、バーコードを読み込む度に増える金額は止まるところを知らない。
「…ん~それで全部かな?」
最後にゼブラ柄のクラッチバックを渡してディックは店員に告げる。
渡された服と小物を数えて店員が金額を伝えると、ディックは小さな財布を取り出して真っ黒なクレジットカードを渡した。
――そのカードには見覚えがある。。
それは、父名義のものだ(一応ジェイソンも持っているが、こうして使ったことはない)。
まるで自分のカードのように「1回で」なんて伝えるディックをジェイソンは小突く。
「…自分で買えよ」
買えない額でもないし。思わず出た言葉に、ディックは振り向いて首を傾げる。――どうやら彼に、家族カードを使う罪悪感は無いらしい。
「じゃぁ、こっちのカードなら良い?」
財布から取り出したのは、また別の黒いカードで、それはジェイソンも知らないクレジットカードだった。
自分のカードもブラックかよ…。頭を掻いたジェイソンにディックは続ける。
「これはティムのカードだからいいかな?
こっちはダミアンからの……あっ家族カード以外に個人カードもあるよ。支払いはブルースになってるけど」
金色のカードに黒いカード、小さな財布から無限に出てくる色とりどりのクレジットカードにジェイソンは目を白黒させた。
――なんで、オレはコイツと付き合ってるんだろうか。
素朴な疑問の回答は、大量の買い物で頭が回らなくなったジェイソンには分からなかった。
*おしまい*
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