Serena*Mのあたまのなかみ。
PUI PUI モルカー
モルカーと女の子のお話が浮かんだので書き殴った次第。
人間とは愚かなり。
モルカーと女の子のお話が浮かんだので書き殴った次第。
人間とは愚かなり。
モルカーなんて嫌いだ。
*
あたしはモルカーが嫌いだ。
ぷいぷいうるさいし、人の事見つけると嬉しそうに耳をぴくぴくさせるし、エサやりだって必要だし。
モルカーが嫌いだって言うと、父さんは少し寂しそうな顔をする。
『来た時は同じ髪の色だ、ってあんなになついてたのになぁ』
そんなことあたしは知らない。
でも、確かに小さい時はモルカーが好きだった気がする。
ぽかぽかお日様の差す日曜日、父さんがモルカーの洗モルをして、母さんがお弁当を作って。
ぷいぷい走るふわふわのモルカーに乗って、お気に入りの小さいモルカーのぬいぐるみとピクニックした記憶がある。
ある時から母さんの具合が悪くなって、お腹が大きくなって、そしてあたしに弟が生まれた。
病院から帰ってきた母さんと弟を連れてきたのはモルカーで。
今まであたしが一番だった世界はその日から変わってしまった。
「お姉ちゃんでしょ」「お姉ちゃんなんだから」「お姉ちゃんらしくして」
あたしは好きでお姉ちゃんになったわけじゃない。
びーびー泣くだけの弟に父さんも母さんも付きっ切りで、あたしの事を見てくれなくなった。
「モルカーに乗りたくない!!!!」
弟を連れてピクニックしようと準備した日曜日、あたしはぬいぐるみを投げつけて抗議した。
そうしたら、
初めて、父さんも母さんもあたしを見てくれた。
――その時のモルカーがどんな顔をしてたかなんて、あたしは知らない。
*
ある日の帰り道、ランドセルに付けたモルカーのぬいぐるみにクラスの男子が反応した。
「お前、モルカーのキーホルダーなんてつけてんの!」「それ最新のじゃん!」「すげぇ」
「ちょっと男子ィ、やめなよー」
隣の友達がそう怒ってくれたけど、別にあたしは気にしない。
だってあたしはモルカーが嫌いだし、これは父さんがお土産に買ってきてくれたから仕方なく着けていたのだ。
もうモルカーで喜ぶ年でもないのに。
父さんは未だにあたしがモルカーが好きだと思っていて、こうして時々モルカーのおもちゃを買ってくれる。
「…別にいいよ。あたしモルカー好きじゃないし」
「そうなの? お家のモルカー可愛いじゃん。いいなぁモルカー。私も乗ってみたい!」
「…別に。毎日エサやりしなきゃいけないし、運転中も時々言う事きかないしで全然だよ」
その時だ。
「もーーーらい!!」
男子があたしに体当たりして、モルカーのキーホルダーを奪って行く。
あたしはよく分からないけど、新しいモルスポーツカーで、めちゃくちゃ格好良いらしいのだ。――男子の基準ってよく分からない。
「こら~~~~!!!!!」
あたしの代わりに拳を上げた友達、けれど彼女が捕まえるよりも早く男子を転ばせたのはあたしの家のモルカーだった。
「PUI~~~~!!」
ガレージから飛び出したモルカーが顔の全面で男子と正面衝突している。スピードは出ていないし、そもそもモルカーはふわふわしてるからたいした怪我にはならないだろう。せいぜい膝を擦りむくくらい。
家から驚いて飛び出した母さんが男子の手当てをして、それからその子の家に謝りに行く。
いじめっ子のそいつの家の母親もやっぱり嫌な奴で、自分の息子が人を突き飛ばしてあたしのキーホルダーを奪ったのに「子供が欲しがるようなものを着けるのが悪い」「きちんとガレージにモルカーを繋いでおかないのが悪い」「凶暴なモルカーは早く処分すべき」そんなところまで言って、あたしは顔を上げた。
「いい加減にして!
そもそもキーホルダーを奪ったのが悪いのにどうしてそれを謝らないの!? 学校でも悪い事したら謝るって教えられてるよ!!
それにモルカーは関係ない!あの子はあたしの代わりに引き留めようとしてくれただけ!!擦りむいただけで病院で精密検査!? 小学生でも大袈裟だなって分かるよ!! あの子は悪くない!あの子に謝れ!!!!!!」
多分、最後の方は何を言ってるか自分でも分からなかったと思う。
どうして大嫌いなモルカーのことを庇っているんだろうか、あたしは。
普段でも弟と喧嘩しない私の剣幕に隣の母さんは驚いているようで、
それに男子の母親もびっくりしていたようだった。
その後の話は有耶無耶に、あたしは母さんに手を引かれて家に帰る。
「…好きなんでしょ、モルカー」
「…別に。好きじゃない」
母さんの言葉にあたしはやっぱりそう返す。
家のガレージで、小さくなってるモルカーにあたしは人参をあげた。
モルカーにエサをあげるのはあたしの役割で、弟にお願いした筈なんだけど忘れてるらしい。
お水も取り換えてないし、トイレの掃除もされてなかった。
「…ごめんね」
あたしは言ってお水と取り換える。
顔の所の毛がちょっと毛羽立ってて、あたしは整えてあげた。
――ふわふわで、あったかい。
「…ごめんね…怖かったでしょ…」
父さんは安全運転だ。
モルカーの嫌がることはしないし、接触事故も起こしたこともない。
きっと、この子にとって初めての“事故”なのだ。
「PUI~…」
震えるモルカーをあたしはそっと撫でる。
「…ごめんね…ごめんね…」
ぎゅっと顔を押し付けると、枯草みたいなちょっと焦げた匂いがして、ぱさぱさの毛が懐かしい感じがした。
あたしの涙に気付いたモルカーが、「PUI!!」心配そうな声をあげる。
「…大丈夫、どこも痛くないよ…」
そうだ、この子は優しい子なのだ。
あたしが夜中に熱を出したとき、弟が怪我をしたとき。
元気な姿を見せるまでガレージで鳴いてるって父さんが教えてくれた。
「PUI~」
小さくモルカーが揺れて、あたしに顔を押し付ける。
ごめん、ごめんね。
ずっと好きでいてくれたのに、あたし、ずっと素直になれなかった。
「今度の休み、父さんに頼んで洗モルしてもらおうか。
ブラッシングして綺麗になろうね」
それから、男子を怒ってくれた友達にもちゃんと言おう、ありがとうって。
家に帰ったら今日のことで父さんに怒られちゃうかな。
でも、怖かったらここで寝てもいいよね。
しゃくしゃくと小松菜を食べるモルカーを見ながら、ぼんやりとあたしは子供の頃を思い出していた。
「ほーら、モルカーだよ!」
「わぁ!すごい!ふわふわ!!見てとうしゃん!」
「そうだねぇ、ふわふわだねぇ」
「見て見て、あたしと同じくるくるの毛!」
「同じだからこの子にしたんだよ。ほら、この子も嬉しそうだ」
「PUI!」
「とうしゃん、お名前はなんていうの?」
「ん? まだ決めてないなぁ。良い名前をつけてあげようね」
「えっとね…えっと…」
――そうだった。
この子の名前は私がつけたんだ。
小さく名前を呼ぶとモルカーの耳がぴくりと反応する。
――覚えてたんだね、ちゃんと。
あたしはもう一度涙を拭うと、またぎゅっとこの子に抱き着いた。
――モルカーなんて大嫌いだ。
ううん、違う。
モルカーが嫌いなあたしがあたしを大嫌いだったんだ――
*おしまい*
*
あたしはモルカーが嫌いだ。
ぷいぷいうるさいし、人の事見つけると嬉しそうに耳をぴくぴくさせるし、エサやりだって必要だし。
モルカーが嫌いだって言うと、父さんは少し寂しそうな顔をする。
『来た時は同じ髪の色だ、ってあんなになついてたのになぁ』
そんなことあたしは知らない。
でも、確かに小さい時はモルカーが好きだった気がする。
ぽかぽかお日様の差す日曜日、父さんがモルカーの洗モルをして、母さんがお弁当を作って。
ぷいぷい走るふわふわのモルカーに乗って、お気に入りの小さいモルカーのぬいぐるみとピクニックした記憶がある。
ある時から母さんの具合が悪くなって、お腹が大きくなって、そしてあたしに弟が生まれた。
病院から帰ってきた母さんと弟を連れてきたのはモルカーで。
今まであたしが一番だった世界はその日から変わってしまった。
「お姉ちゃんでしょ」「お姉ちゃんなんだから」「お姉ちゃんらしくして」
あたしは好きでお姉ちゃんになったわけじゃない。
びーびー泣くだけの弟に父さんも母さんも付きっ切りで、あたしの事を見てくれなくなった。
「モルカーに乗りたくない!!!!」
弟を連れてピクニックしようと準備した日曜日、あたしはぬいぐるみを投げつけて抗議した。
そうしたら、
初めて、父さんも母さんもあたしを見てくれた。
――その時のモルカーがどんな顔をしてたかなんて、あたしは知らない。
*
ある日の帰り道、ランドセルに付けたモルカーのぬいぐるみにクラスの男子が反応した。
「お前、モルカーのキーホルダーなんてつけてんの!」「それ最新のじゃん!」「すげぇ」
「ちょっと男子ィ、やめなよー」
隣の友達がそう怒ってくれたけど、別にあたしは気にしない。
だってあたしはモルカーが嫌いだし、これは父さんがお土産に買ってきてくれたから仕方なく着けていたのだ。
もうモルカーで喜ぶ年でもないのに。
父さんは未だにあたしがモルカーが好きだと思っていて、こうして時々モルカーのおもちゃを買ってくれる。
「…別にいいよ。あたしモルカー好きじゃないし」
「そうなの? お家のモルカー可愛いじゃん。いいなぁモルカー。私も乗ってみたい!」
「…別に。毎日エサやりしなきゃいけないし、運転中も時々言う事きかないしで全然だよ」
その時だ。
「もーーーらい!!」
男子があたしに体当たりして、モルカーのキーホルダーを奪って行く。
あたしはよく分からないけど、新しいモルスポーツカーで、めちゃくちゃ格好良いらしいのだ。――男子の基準ってよく分からない。
「こら~~~~!!!!!」
あたしの代わりに拳を上げた友達、けれど彼女が捕まえるよりも早く男子を転ばせたのはあたしの家のモルカーだった。
「PUI~~~~!!」
ガレージから飛び出したモルカーが顔の全面で男子と正面衝突している。スピードは出ていないし、そもそもモルカーはふわふわしてるからたいした怪我にはならないだろう。せいぜい膝を擦りむくくらい。
家から驚いて飛び出した母さんが男子の手当てをして、それからその子の家に謝りに行く。
いじめっ子のそいつの家の母親もやっぱり嫌な奴で、自分の息子が人を突き飛ばしてあたしのキーホルダーを奪ったのに「子供が欲しがるようなものを着けるのが悪い」「きちんとガレージにモルカーを繋いでおかないのが悪い」「凶暴なモルカーは早く処分すべき」そんなところまで言って、あたしは顔を上げた。
「いい加減にして!
そもそもキーホルダーを奪ったのが悪いのにどうしてそれを謝らないの!? 学校でも悪い事したら謝るって教えられてるよ!!
それにモルカーは関係ない!あの子はあたしの代わりに引き留めようとしてくれただけ!!擦りむいただけで病院で精密検査!? 小学生でも大袈裟だなって分かるよ!! あの子は悪くない!あの子に謝れ!!!!!!」
多分、最後の方は何を言ってるか自分でも分からなかったと思う。
どうして大嫌いなモルカーのことを庇っているんだろうか、あたしは。
普段でも弟と喧嘩しない私の剣幕に隣の母さんは驚いているようで、
それに男子の母親もびっくりしていたようだった。
その後の話は有耶無耶に、あたしは母さんに手を引かれて家に帰る。
「…好きなんでしょ、モルカー」
「…別に。好きじゃない」
母さんの言葉にあたしはやっぱりそう返す。
家のガレージで、小さくなってるモルカーにあたしは人参をあげた。
モルカーにエサをあげるのはあたしの役割で、弟にお願いした筈なんだけど忘れてるらしい。
お水も取り換えてないし、トイレの掃除もされてなかった。
「…ごめんね」
あたしは言ってお水と取り換える。
顔の所の毛がちょっと毛羽立ってて、あたしは整えてあげた。
――ふわふわで、あったかい。
「…ごめんね…怖かったでしょ…」
父さんは安全運転だ。
モルカーの嫌がることはしないし、接触事故も起こしたこともない。
きっと、この子にとって初めての“事故”なのだ。
「PUI~…」
震えるモルカーをあたしはそっと撫でる。
「…ごめんね…ごめんね…」
ぎゅっと顔を押し付けると、枯草みたいなちょっと焦げた匂いがして、ぱさぱさの毛が懐かしい感じがした。
あたしの涙に気付いたモルカーが、「PUI!!」心配そうな声をあげる。
「…大丈夫、どこも痛くないよ…」
そうだ、この子は優しい子なのだ。
あたしが夜中に熱を出したとき、弟が怪我をしたとき。
元気な姿を見せるまでガレージで鳴いてるって父さんが教えてくれた。
「PUI~」
小さくモルカーが揺れて、あたしに顔を押し付ける。
ごめん、ごめんね。
ずっと好きでいてくれたのに、あたし、ずっと素直になれなかった。
「今度の休み、父さんに頼んで洗モルしてもらおうか。
ブラッシングして綺麗になろうね」
それから、男子を怒ってくれた友達にもちゃんと言おう、ありがとうって。
家に帰ったら今日のことで父さんに怒られちゃうかな。
でも、怖かったらここで寝てもいいよね。
しゃくしゃくと小松菜を食べるモルカーを見ながら、ぼんやりとあたしは子供の頃を思い出していた。
「ほーら、モルカーだよ!」
「わぁ!すごい!ふわふわ!!見てとうしゃん!」
「そうだねぇ、ふわふわだねぇ」
「見て見て、あたしと同じくるくるの毛!」
「同じだからこの子にしたんだよ。ほら、この子も嬉しそうだ」
「PUI!」
「とうしゃん、お名前はなんていうの?」
「ん? まだ決めてないなぁ。良い名前をつけてあげようね」
「えっとね…えっと…」
――そうだった。
この子の名前は私がつけたんだ。
小さく名前を呼ぶとモルカーの耳がぴくりと反応する。
――覚えてたんだね、ちゃんと。
あたしはもう一度涙を拭うと、またぎゅっとこの子に抱き着いた。
――モルカーなんて大嫌いだ。
ううん、違う。
モルカーが嫌いなあたしがあたしを大嫌いだったんだ――
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