まぁ、いっか!←
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それが、エルフの風習だとビルボは承知していましたが、
分かった上でトーリンに差し出そうと決意していました。
在り合わせの物で作ったから、ちょっと失敗作かもしれないけど…
子馬の毛並をチェックしているトーリンに近づきます。
「あ、の…」
「…何じゃ?」
振り向いたトーリンに、ビルボは焼きたてのクッキーを差し出しました。
「いつも、トーリン殿にはお世話になってるから…
あの…その…」
「良い匂いじゃな」
彼は一枚摘まむと頬張りました。
「やはり、ビルボ殿の作った料理は美味いな」
1枚がやがて2枚になり、3枚になり。
あっと言う間に差し出したクッキーは無くなってしまいました。
「…それで、儂になんの用じゃ?」
口を拭うと、髭に付いたクッキーがぽろぽろと地面に落ちました。
「美味しかった、ですか?」
「不味かったら、食わん」
それを聞いて、ビルボは嬉しそうにお辞儀をしました。
「喜んで貰えて、良かった!
これは、私の感謝の気持ちです」
「??」
首を傾げるトーリンに、ビルボはもう一度お辞儀をすると他の仲間の所へと戻っていきました。
…やっぱり、言わなくて良かった。
エルフなんて単語を口にしたら、怒って食べてくれなかったかもしれない。
彼の作ったクッキーは、エルフの本に書かれていたクッキーでした。
「おう、どうしたビルボさんよ
ご機嫌だな!」
ボフールに上機嫌に答えます。
「今日はバレンタインデーだからね。
ご機嫌だよ」
【バレンタインデー】の意味も分からないボフールでしたが、
聞いたことの無い言葉の響きが面白く、
その夜は【バレンタインデーの歌】で盛り上がりました。
*
「バレンタインって何?」
昨日の夜、大盛り上がりした次の朝にフィーリとキーリはボフールに尋ねました。
「俺もよく分からん。
ビルボが言ってたから使ってみただけだ」
続けてわっはっは、と笑います。
「ばれんたいん…」
フィーリはビルボに尋ねてみました
勿論、キーリも一緒です。
「ビルボ、バレンタインって何?」
ビルボは驚いた顔をして、そして周囲にトーリンが居ない事を確認しました。
こそこそ話は、フィーリもキーリも大好きな話です。
「…いい?
トーリン殿には絶対に内緒だよ?」
『もちろん!』
彼は話します。
「バレンタインって言うのは…
あの、エルフの風習で…」
『エルフの!?』
「…そりゃぁ、叔父上には言えないなぁ」
「叔父貴は本当にエルフアレルギーだからね」
しっ!
ビルボは二人を睨んで続けました。
「普段、感謝している人にありがとうの気持ちを込めた贈り物をする日なんだよ」
「へぇ!」
「へーぇ!」
二人は頷きます。
「じゃぁ、俺はキーリにしないと」
「オレはフィーリに」
見つめあった二人に、ビルボはやれやれと首を振りました。
「…それで、私はいつクッキーの作り方を教えたら良いんだい?」
『今!』
笑い合った二人に、彼は苦笑しました。
向こうで、トーリンが三人を呼んでいます。
「出発の時間だ!」
置いて行かれないように、駆け出しました。
バレンタイン、がエルフの風習なのと、
昨日だったのはビルボだけの秘密です。
*FIN*