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Serena*Mのあたまのなかみ。

只の捏造話。
① ビルボが独身なのは、トーリンとの繋がりを過去の物にしたくなかったから
② フロドを引き取ったのは、親しい者を亡くした彼の表情に、過去の自分を重ねたから
そんな但し書きが無いと意味不明の内容ですぞ。


(脱兎)

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ビルボの話を聞くのが好きだった。
彼はどのホビットよりも話上手で、聞いたことの無い楽しそうな話ばかりでした。


美しいエルフの話や、
屈強なドワーフの話。


トロルに襲われた話や、
ドラゴンと闘った話もあります。


その中で、フロドが一番好きなのは、ドワーフの王様の話でした。


「それで、王様はどうなったの?」


ドラゴンと闘った王様が、最後に王国を築くところが大好きなフロドは尋ねました。


「トーリンは、そのお山の財産を仲間と分けて、そこに大きな王国を作りました。
 怪我ある人があればベッドを与え、
 病気する人があれば薬を与える、とても心優しい国です。」


ビルボは、遠くを見つめてそっと言いました。


「優しい王様だなぁ!
 僕、大好き!」


フロドは本当にこのお話が好きで、何度もビルボにせがむのでした。
そして、いつもキラキラした金貨を見せて貰うのです。


「ねぇ、ビルボおじさん。
 王様の金貨を見せてくれる?」


「勿論だよ、フロド」


ビルボはにっこりすると、大きな鞄の中からごそごそと小さな箱を取り出し、フロドに渡しました。
(言い忘れていましたが、此処はビルボの袋小路屋敷ではなくブランディバックのお館です)


小さな箱を、もっと小さな手でフロドは開けると、その中の大きなコインを見つめました。
コインに彫られている文字はフロドには分かりませんでしたが、その人物がトーリン王だとビルボが教えてくれました。


「僕もね、いつかおじさんみたいに冒険の旅に出たいな。
 そしてね、王様にご挨拶するの!」


嬉しそうに話す彼に、ビルボも笑顔を作ると、茶目っ気たっぷりに言いました。


「そうだな、その時は私も一緒に冒険の旅に出よう」


「わぁい!」


嬉しくなってベッドの上を飛び跳ねるフロドを、ビルボは暖かい気持ちで見守りました。


 



 


「父さん、母さんおやすみなさい」


毛布を肩まで掛けてやると、むにゃむにゃとフロドは言いました。


「あぁ、おやすみフロド。ゆっくりお休み」


ビルボは言うと、優しく頭を撫でました。


 


両親を事故で亡くしたフロドは今この屋敷で暮らしています。


勿論、屋敷の暮らしが悪いものではありませんが、
ビルボは彼を引き取りたいと考えていました。


何しろ彼は結婚していませんでしたし、幸いにも大きな屋敷もあります。
それに、冒険に憧れたり、本が好きな所が若い頃の自分に似ているようで、
色々と伝えたいと思ったのでした。


 


それから、暫くしてフロドはビルボの事を父さんと呼ぶようになりました。


 


 



 


 


ビルボの111歳の誕生日の後、彼の残していった物を一つ一つ整理していたら、
あの、懐かしい小さな箱を見つけました。


今はすっかり大きくなったフロドの手に、その箱はすっぽり収まります。


幼い頃、話してくれたビルボの声が耳に響きました。


『トーリンは、そのお山の財産を仲間と分けて、そこに大きな王国を作りました。
 怪我ある人があればベッドを与え、
 病気する人があれば薬を与える、とても心優しい国です。』


箱を開けると、記憶のままのあのコインが入っています。
未だにピカピカなのは、もしかしたらビルボが磨いていたのかもしれません。


フロドは暖炉の脇のソファに座ると、そっとコインを取り出しました。


精工に作られた其れは、流石にドワーフの技、と言ったところでしょうか。


裏返しにして、フロドは目を疑いました。


子供の頃は、何が彫られているか分からなかったその文字も、今となっては意味が通じます。


Thorin II
2746年~2941年


2941年は、フロドが生まれるよりも、ずっと前でした。
初めて彼は、彼の敬愛したドワーフの王がこの世に居ない事を知ったのです。
(と、言っても敬愛していたのは子供の頃だけで、今の今まですっかり王様の事を忘れてしまっていました)


フロドにとっては冒険譚で、格好良いドワーフ王の話をする時に、
時折ビルボが遠くを見つめ、淋しそうな顔をする理由が分かった気がしました。


あのお山は誰が王様になったのでしょう。


 


ふと、顔を上げると養父の居ない袋小路屋敷はガランと冷たく、
なんだか子供の様に寂しさを覚えたフロドはいそいそと寝室に戻りました。


 


 



 


月明かり、ブリー村へと続く道を歩いていたビルボは、
くしゃみをして、ハンカチを忘れた事に気が付きました。


「…また、あの時の旅のようじゃなぁ…」


精巧な作りの懐中時計をぱちんと閉じて、彼はまた歩き出しました。


 


*FIN*

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