まだ口調が安定していないので、原作読んだら直すかも。
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それは、ある晩の事でした。
強烈なボンブールの大いびきと、オーリの寝返りですっかり目が覚めてしまったビルボはまだ朝には早過ぎるなぁ、と思いつつも見張りをしていたトーリンの元へ行きました。
まだ少し寒かったので、焚火に当たりたいと思ったからです。
ドワーフだらけのこの旅で、やはりホビットの彼は少し馴染めないようでした。
「隣、良いですか?
ちょっと寒くて」
ビルボが言うと、トーリンは無言で彼の座る場所を作ってくれました。
「ありがとう、ございます」
おずおずと隣に座ると、トーリンが暖かい毛皮をビルボの肩に掛けました。
ホビットは、ドワーフよりもちょっとだけ(本当にちょっとだけ!)小さいので、彼の貸してくれた上着はちょっと大きめでしたが、暖を取るのには十分でした。
小さな焚火が足元を温めてくれます。
どの位経ったでしょうか。
もう一眠りしたいビルボでしたが、なんだかどんどんと目が冴えてきます。
相変わらずトーリンは無言のままだったので、ビルボは何とか場を持たせようとぽつぽつと話し始めました。
「あ…け、毛皮暖かいですね。
有難うございます」
「…」
「ホビットの村は暖かかったから、私はあまり防寒具を持ってなくて…」
「…」
「こ、これから必要になってきますよね…はは…」
「…そうじゃな」
そこまで言って、やっとトーリンが口を開きました。
「トーリン殿は、寒いのは得意なんですか?」
上着は、ビルボに貸してしまっていますから寒いはずです。
ビルボは尋ねました。
「…得意、という訳でも無いが…あまり、気にはならんな」
こうして、全方向に神経を尖らせて番をしていると特にな。
トーリンは付け加えました。
「…ごめんなさい」
見張りの邪魔をしたと思ったビルボは謝りました。
「…今日はグローインとビフールも番だから、
気にする程度でも無い」
トーリンは答えます。
「そ、そうでしたか…」
彼は言い、そして、また長い沈黙が続きました。
揺らめく炎をじっと見ていると、袋小路屋敷の暖炉に居るような錯覚に陥ります。
たまに、ジャガイモなんかを蒸かすのが彼は好きでした。
「あ、あの。」
何かを思いついたように、ビルボが尋ねます。
それは、常々思っていたことでした。
「ドワーフの女性って…どんな方なんでしょう?」
食べる事が大好きなホビットは、女性もよく食べるのが魅力の一つでした。
それから、家をきちんと整頓したり、綺麗に飾り付けたり。
レース編みなんかも彼女たちはしていました。
「…」
じろり、とトーリンがビルボを見やります。
「…ホビットはどうなんじゃ?」
言われて、ビルボは先のように答えました。
「やっぱり美味しい料理を作ってくれる女性は魅力的です」
「…」
「…あ、その…」
トーリンは静かに目を閉じます。
「ドワーフに女は居ない、と言ったら?」
それは、ビルボも本で知っていた事でした。
「…本当だったんですか!?」
興奮して、ちょっと声が大きくなります。
立ち上がった彼を、トーリンはなだめて座らせました。
「…嘘じゃ」
「!!!!!!!!!!!」
大きく目を見開いたビルボに、彼はふっと笑います。
(正しくは、笑ったように見えました。薄暗い夜だったので)
「…ドワーフにも女は居る。
じゃがな、男と見分けがつかん」
「それって、背丈や同じ格好をするってことですか?」
ドワーフは優れた職人たちです。
男女差が無いのも何となく分かる気もしました。
「…あるのじゃよ」
「な、何が…?」
「髭が」
トーリンは自分の髭を指さします。
ビルボはびっくりして、口をぱくぱくさせました。
「…えっ。
え…っ
えぇぇっ!?」
ホビットは髭を生やす風習はありません。
毎日髭剃りをしますから、女性も無いものだと思っていました。
「ひ、髭が…」
ビルボは一人でぶつぶつと何かを呟いています。
そして、毛皮の上着を顔に充てながら尋ねました。
「こ、こんな感じですか…?」
今度驚いたのはトーリンの番でした。
眉毛が大きく動いたのが、暗がりにも分かります。
「…」
何かトーリンが言いかけた時、向こうの見張りをしていたグローインが戻ってきました。
ちょうど、ボンブールの大いびきも収まったところなのでビルボも寝ようと立ち上がります。
「…どうぞ、グローイン殿。
トーリン殿、上着有難うございました」
お辞儀をすると、トーリンがぶっきらぼうに上着を受け取ります。
そろそろとマントに包まると、遠くに二人の会話が聞こえました。
「なんだトーリン、お主耳まで真っ赤じゃぞ」
「…るさい!」
微睡の中、ビルボは思います。
「焚火、そんなに熱かったかなぁ…」
まだ、旅が始まったばかりの頃です。
*FIN*