恋に気付く前の恋、みたいな?
子供設定。捏造注意

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恋に落ちるのなんて、きっと簡単な事なんだと思う。
それは、ちょっとした仕草だったり、ちょっと優しくされただけだったり。
若しくは、怒られたのがキッカケなのかもしれない。
ただ、分かるのは
ほんの些細な事で人は恋に落ちるって言う事。
初めて弟を見た時、なんてちっちゃいんだろう!と思った。
そんなちっちゃいい身体で、顔を真っ赤にして泣いている。
その声は凄く大きくて、本当にびっくりしたのをよく覚えている。
「この子はキーリ。
貴方の弟よ」
母さんから言われて、僕は忘れないように呟いたんだ。
「君はキーリ。
僕の弟」
キーリは大きくなると、僕よりずっと探検好きな子供に育った。
「なぁ、フィーリ!あっちで釣りしようぜ!」
「フィーリ!向こうで美味い木の実を見つけた!!」
キーリはどんどん僕を引っ張っていく。
きっと、身長も抜かれるのも近いだろう。
自分の事を『僕』じゃなく『俺』と言うようになってちょっとのことだ。
川で水浴びをしていたら、向こう岸でキーリは何か見つけたようだった。
「…なぁ、あれ…!」
茂みの奥で、よく見えなかったが、其処に居たのはどうやら人で…そして抱き合っていたのが分かった。
「…行こう、キーリ」
覗き見は、良くない。
特に、こんな時は。
「…えぇぇぇぇっ!」
大声を出そうとする弟を無理やりに押さえつけて、俺は元の場所へと戻った。
こんな時、まだ弟より体力があって良かったな、と思う。
暫く頬を膨らませていた弟だったが、水切りをしていて、やっと…機嫌を直した。
「…フィーリ、さっきのだけど」
濡れた下着を絞っていたら、キーリが袖を引っ張ってくる。
「ん?」
「あの…向こうで見たヤツ…」
心なしか、顔が赤い。
…異性に興味があるのは、分かる。
それは、誰でもが通る道だ。
「…きっと恋人同士か何かなんだろう?」
「…キスとか…するのかな…」
「…多分」
素っ気ないフリをして、もう一度下着を絞ったけれど、
俺も自分の心臓がドキドキしているのが分かった。
「…なぁ、フィーリ…」
上目遣いの弟の視線。
目尻がちょっと赤くなっていて、緊張しているのがよく分かった。
「…いいよ、試したいんだろ?」
俺は河原に腰を下ろす。
弟は興味の塊みたいな所があった。
自分が気になったことは試してみないと気が済まない。
…きっと、今だって。
「フィーリ、誰かとキスしたことあるの?」
馬乗りになって弟は囁いた。
「…無ェよ」
距離が近くて、なんだか恥ずかしい。
つい、顔を背けてしまった。
「オレね、フィーリとキス出来て、嬉しい」
弟は俺の顎に手をかけて、そして…
「…ごめん」
キーリが謝る。
悪いのは、俺、なのに。
思いっきり、突き飛ばしたのは俺なのに。
「…ごめん」
キーリはもう一度謝った。
謝りたいのは、俺なのに。
声が出なくて、そのまま…
泣き崩れた。
弟が大人になってゆくのが怖かった。
舌を絡められて、恐怖でしか無かった。
きっとこのまま組み敷かれて、最後には――
「帰ろう、フィーリ」
明るい弟の声だけが、夕暮れの河原に木霊した。
恋に落ちるのなんて、きっと簡単な事なんだと思う。
それは、ちょっとした仕草だったり、ちょっと優しくされただけだったり。
若しくは、怒られたのがキッカケなのかもしれない。
気付いた時には、もう、好きになってた。
自分の前を歩く、兄の姿に――
*FIN*